ホール設計の名手、江副敏史氏の最新3ホール(1)大判レンガ15万個で飽きない非日常性「アクリエひめじ」

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“ホール設計の名手”と言ったら、誰の顔が浮かぶだろうか。

今回リポートするのはここ。姫路市文化コンベンションセンター(写真:特記以外は宮沢洋)

私(宮沢)の頭にまず浮かぶのは前川國男。そして、現役では香山壽夫氏。この2人は両巨頭と言っていいだろう。3人目を挙げるならば、磯崎新氏か。3人の主なホール建築を拾ってみると……。

■前川國男 1905~1986年
⚫︎神奈川県立音楽堂(1954)
⚫︎京都会館(1960、現・ロームシアター京都)
⚫︎東京文化会館(1961)
⚫︎弘前市民会館(1964)
⚫︎埼玉会館(1966)
⚫︎石垣市民会館(1985)

■香山壽夫 1937年~
⚫︎彩の国さいたま芸術劇場(1994)
⚫︎可児市文化創造センター(2002)
⚫︎日田市民文化会館(2007)
⚫︎神奈川芸術劇場(2010)
⚫︎ロームシアター京都(2015)
⚫︎久留米シティプラザ(2016)
⚫︎グランツたけた(2018)
⚫︎那覇文化芸術劇場なはーと(2021)

■磯崎新 1931年~
⚫︎つくばセンタービル・ノバホール(1983)
⚫︎お茶の水スクエアA館・カザルスホール(1987)
⚫︎水戸芸術館(1990)
⚫︎京都コンサートホール(1995)
⚫︎なら100年会館(1998)
⚫︎アーク・ノヴァ(2011)

いずれもすごい実績だが、4人目を挙げるならこの人だろう。数でも、クオリティーでもひけをとらない。

■江副敏史(日建設計) 1957年~
⚫︎大淀町文化会館(1997)
⚫︎神戸国際会館(1999)
⚫︎岸和田市立波切ホール(2002)
⚫︎兵庫県立芸術文化センター(2005)
⚫︎フェスティバルホール(2012)
⚫︎米子市公会堂(耐震改修、原設計:村野藤吾)(2014)
⚫︎観音寺市民会館(2016)
⚫︎豊中市立文化芸術センター(2016)
⚫︎姫路市文化コンベンションセンター(アクリエひめじ、2021)
⚫︎枚方市総合文化芸術センター(2021)
⚫︎高槻城公園芸術文化劇場(2022年、予定)

なんと11件。この4人を勝手に、日本の“ホール設計四天王”と名付けたい。

日建設計・江副敏史氏の最新ホールを1日に3つ巡る

前置きが長くなったが、日建設計の江副敏史氏(フェロー役員デザインフェロー)による最新ホール3件を1日で巡ってきた。上のリストの最後の3件だ。なぜ、そんな番組企画のような旅をしてきたかというと、私が昨年上梓した書籍『誰も知らない日建設計』の取材中、何人もの人(日建設計社内)から「江副さんのホールが3つ、同時進行している」「どれも甲乙つけがたい」「ディテールがやばい」……という話を聞いていたからだ。3つの中で一番遅く出来上がる高槻が完成に近づいた段階で「3つをまとめて見てみたい」と、広報の人にお願いしていたのだ。

こっそり外観と共有スペースだけ見られればいいと思っていたのだが、それぞれ設計担当者が案内してくれた。感謝。まずは昨年9月にオープンした「姫路市文化コンベンションセンター(アクリエひめじ)」からリポートする。

場所は姫路駅から15分ほど東に歩いた新幹線高架の脇。かつて貨物ヤードや車両基地があった場所だ。

光が降り注ぐ共用ロビー兼通り抜け通路

まず、びっくりしたのは、通り抜け通路。メイン玄関のある2階から内部に入ると、向こうの出入り口まで約100mにわたって一直線に共用ロビーが延びている。その先にある県の医療センターの利用者が当たり前のように通り抜けていく。こんな日常使いのホール建築は珍しい。

デザインの主役は「大判のレンガ」。このレンガは、黄色味を帯びた姫路城の石垣をイメージして製作したという。

レンガは幅540mm、高さ150mm、厚さ80mm。色ムラが出るように焼成した。通常イメージするレンガよりもかなり大きいが、100mという巨大な面で見るとほどよい凹凸だ。施設全体(内外装)で約15万個のレンガを使用した。

共用ロビーの南側は展示場。広さ約4000m2。

設計担当の土田昌平氏(日建設計設計部門プロジェクトアーキテクト)が教えてくれた。「それぞれの空間の寸法をレンガの大きさの倍数で設定したので、どこにも半端な大きさのレンガはない」。あ、それ、うすうす気づいてました!

 

サインもレンガの高さに合っている。

会議室のある4階ロビー↓。

展示場の屋上に広がる植栽の向こうを、新幹線が走り抜けていく。これは偶然ではなく、新幹線の客席からよく見えるように開口部を設定した。

本当か?と思い、帰りの新幹線から写真を撮ってみた。

大ホール、中ホールは印象の異なるレンガ壁

もう一度、建物内に戻り、施設の核となるホール群へ。共用ロビーからホワイエ、そして大ホール(2010席)の内部まで同じ色調のレンガの壁が続く。

大ホール(写真:伊藤彰/アイフォト)

大ホール(写真:伊藤彰/アイフォト)

693席の中ホールへ。

中ホールは赤褐色のレンガを使った。壁全体が3次曲面を描くように上下のレンガをずらしながら積んだ。石垣色のレンガ壁とは印象がかなり違うが、大きさは同サイズだ。

3つの施設をリポートするのでやや強引にまとめると、この施設のポイントは、「①同サイズのレンガとは思えない空間の多様性」と「②日常使用者(通り抜けの人)も飽きない非日常性」だ。

ちなみに、設計担当の土田昌平氏は姫路出身で、このプロジェクトのことを知り、自ら手を挙げて担当になったという。土田さん、案内ありがとうございました!

次は枚方市へと向かう。(宮沢洋)

■姫路市文化コンベンションセンター「アクリエひめじ」
所在地:兵庫県姫路市神屋町143-2
延べ面積:2万8876.70m2
構造:鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地下1階・地上5階
発注者:姫路市
設計:日建設計
施工者:竹中工務店・神崎組・平錦建設JV