木を使ってもやっぱり江副節の濃密空間、「高槻城公園芸術文化劇場」/江副敏史氏の最新3ホール(3)

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江副’s最新3ホール巡りのラストは、2023年3月にオープンする予定の「高槻城公園芸術文化劇場」だ。JR高槻駅から南に徒歩13分、阪急高槻市駅からは8分。オープンは半年後だが、建築としてはほぼ出来上がったということで、現場を見せてもらった。案内してくれたのは、江副敏史氏(日建設計フェロー役員デザインフェロー)と、高畑貴良志氏(日建設計DDLプロジェクトデザイナー)だ。

現場にて江副氏(左)と高畑氏(右)。年の差があるのにいいコンビ感!(写真:宮沢洋、この写真のみ)

ここはまだオープン前ということで、私が好きなことを書くと関係者に迷惑がかかるので、公式サイトからの引用(太字部)で紹介する。

まず、施設全体について。

2023年3月、高槻城公園に新たな劇場がオープンします。コンサート、発表会、結婚式、成人祭。たくさんの思い出が詰まった市民会館。高槻城公園芸術文化劇場は、市民会館の記憶を引き継ぎ、高槻のシンボルにふさわしい施設を目指して整備を進めています。かつて高山右近が城主を務めた高槻城二の丸跡。この貴重な場所に、緑に囲まれた憩いの場として、生まれ変わります。

北東から見る。6月22日撮影(写真:大林組、以下すべて同じ)

この建築でのデザインの主役は、レンガではなく木ルーバーだ。大阪府産のスギ材を内外に多用している。

公園の木立の風情を纏(まと)う木ルーバーの外装。

劇場のオープンに合わせて、高槻城公園に新しいエリアが加わります。かつての高槻城を思わせる堀や塀を再現するなど、歴史的な遺構を現代的にデザインします。外壁は公園の木立に溶け込むようにイメージした木材(ルーバー)を張り巡らせるなど、周辺環境に配慮したデザインとします。

エントランスロビーやカフェに広く面した屋外広場は、イベント空間として一体的な利用が可能で、様々な催しの舞台として活用することができます。

入口を入ると大ホール、小ホール、憩いのカフェ、スタジオなどの創造交流エリアが顔を出し、主要なアクティビティが明快に一望できます。

大ホールは見たことのない仕上げ

大ホールの木の使い方がすごい。壁や天井に注目。

木キューブに囲まれた迫力ある大ホール。

北摂最大級で、音楽公演、舞台公演など多彩な用途に使用可能なホールです。壁面から天井まで木製のキューブに覆われた特徴的なデザインで、高い音響効果と非日常の空間を実現しています。

個人的な感想を書くと、村野藤吾の日生劇場を始めて見たときのようなびっくり感だ。

続いて小ホールへ。こちらも木の仕上げだが、ここは縦ラインを強調している。

緑に包まれる小ホール。

木のぬくもりを感じさせるコンサートホールです。壁面を囲む木ルーバー、サイドバルコニーからは公園の緑が見えてリラックスできる空間を実現しています。

その他の部屋や共用部へ。

いろいろとコメントしたいのだが、お披露目前なのでポイントを2つだけ書くと、「①隈研吾氏の軽さとは対称的な濃密な木使い」、「②高さを抑えつつも木箱を緑の中に並べたような広がりの面白さ」だ。。

「プロポーザルの段階では失点をなくす」

ところでなぜ江副氏がこんなにホールを設計しているのかというと、関西の自治体のホールがこぞって建て替えのタイミングにあり、ホールの実績が多い江副氏に日建社内で声がかかるからだ。この高槻も公募型プロポーザルだった。

江副氏は、声高らかにプレゼンテーションするタイプではない。この緻密なディテールがプロポーザル提案に表現できるとも思えない。なぜプロポーザルに勝てるのか、と本人に聞くと、「プロポーザルの段階ではできるだけ失点をなくすようにしている。日建設計に頼もうとする人はそういう人だと思うので」との答え。なるほど、“手堅さ”で勝ちとって、その中でじりじりと空間の質を高めていくということか……。

それでも、過去の確実な手法を繰り返しているわけではなく、常に新たな手法にチャレンジしている。それは、今回リポートした3施設を読み比べていただければ分かるだろう。

とはいえ、江副氏も60代半ば。今後は、ともに設計を担当した若手たちに江副メソッドが引き継がれていくのだろう。今回の記事には登場しないが、日建設計大阪には江副氏と組むことの多い多喜茂氏(1966年生まれ)もいるので、ホールでの圧倒的強さは今後も揺るがないと思われる。私は日建設計の回し者ではないので、他事務所も頑張れっ!(宮沢洋)

■高槻城公園芸術文化劇場
所在地:大阪府高槻市野見町6
延床面積:1万7261㎡
階数 地下2階。地上3階
発注者:高槻市
設計:日建設計
施工:大林組