藤森式解説03:日本建築→ライト→バウハウス→日本と情報はぐるぐる回る──「モダニズム建築とは何か」スピンオフインタビュー

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藤森照信先生と私(宮沢洋)の共著『画文でわかる モダニズム建築とは何か』が彰国社から5月10日に発刊になった。この本は、藤森先生の著作『人類と建築の歴史』の一部を宮沢がイラスト化したもので、巻末に藤森先生へのインタビューを収録している。実はそのインタビュー、盛り上がり過ぎて全体の半分しか載せることができなかった。あまりにもったいないので、残り半分を本サイトで3回に分けて掲載することにした。今回がラスト。(書籍の詳細は彰国社サイトを)

宮沢:日本で戦後になってミースの影響を受けている人は、清家清さんぐらいしかいないんですか?

藤森:林昌二(日建設計)も大きくはミースでしょう。

宮沢:おお、そうですか。

藤森:林さんはガラス張りをやるでしょ。例えば、日建設計が毎日新聞社を設計したやつ…。ええっと。

宮沢:パレスサイドビル。

藤森:そう、パレスサイド。あの細い鉄とガラス。

宮沢:それは初めて聞いた見方ですね。パレスサイドビルの工業製品ぽい感じは、確かに。

藤森:そうそう。そういうガラスのやつは、林昌二のミース。

宮沢:なるほど。

藤森:だからミースの影響は東工大に流れている、と思っています。

宮沢:じゃあ、ミースの影響を受けた人は「ミースの影響を受けてます」ってあまり口に出さないってことですね。

藤森:現在だと「ミースの影響を受けた」ってバカバカしくて言えないじゃん。

宮沢:そうですか?

藤森:だってガラスの超高層ビルでミースの影響を受けてないのはないんだから。

宮沢:なるほど。

藤森:超高層ビルってミースの美学でできてるので、普通のビルは全部ミースの崩れなんです。

宮沢:確かに割合としてはミースなんですね。

藤森:いやいや、もうそれは圧倒的にミース。

宮沢:なるほど。

藤森:だから、世界の現代、20世紀建築を語るとしたら、原理はまずバウハウスで決まる。それがミースの超高層を生み出し、そのまま世界に広がるっていうことですよ。コルビュジエが出てくる隙はない。

世界で一番コルビュジエにハマる日本人

宮沢:コルビュジエはニッチだからなんか気になる、みたいな感じなんですかね?

藤森:そんな感じだね。ミースのことはわざわざ言わない。だってさ、妹島和世さんの建築は明らかにミース的ですよ。

(イラスト:宮沢洋)

宮沢:ああ、なるほど。

藤森:日本の場合はバウハウスからモダニズムが始まり、一時、中心がコルビュジエに移る。だけどまたミース的なものが静かにすーっと広がっている。日本人に向いてんだよね。

宮沢:確かに妹島さんの建築は言われてみればミースっぽいですね。曲線が多いので、あまりそういうふうに考えませんでした。

藤森:ミースが見たら案外、孫だと思うんじゃないでしょうか。

宮沢:妹島さんご本人は言及されたりしてるんでしょうか。

藤森:してないと思う。自分の事はそんな客観的に考えないよ。ミースの方が日本人に合ってるんですよ、ほんとに。コルビュジエってやっぱりこう、肉感的にぐわぁって感じでしょ。あれは日本人にはあまり向いてない。

宮沢:でも、主流にはならないけれど、ハマる人はすごくハマると。

藤森:そう、ハマる。世界で日本人が一番 コルビュジエ にハマっちゃう。

宮沢:ヨーロッパの歴史とか建築の本には、 コルビュジエ はそんなに載ってないという話を聞いたことがあります。

藤森:載っていない。だって実物がないからね、身の回りに。日本の場合は実物があるうえに、レーモンド、前川、坂倉、丹下、吉阪、磯崎、と、コルビジュエの影響ががーっと来ちゃうから。

バウハウスに影響を与えたライト、ライトに影響を与えた日本

宮沢:先生が設計するときにコルビュジエを部下にしたいという話がありましたが(書籍のインタビューに掲載)、ミースやグロピウスは呼びたくないんですか?

藤森:いいよ別に。来てくれなくてもできるもん。

宮沢:そうなんですか。実は私は、今回イラストを描くためにいろいろ調べて、グロピウスすごいなって、思ったんですけど。「ファグス靴工場」なんて、ほんとかっこいいなと思って。ここでモダニズム建築、完成してるじゃないか、と。

藤森:あれはライトの影響で作っていますからね

宮沢:へぇー。

藤森:プランがスーッと横に伸びてくっていうのは、ライトの影響を直接的に受けてるんですよ。

宮沢:そうなんですか。

藤森:そう。空間が横に伸びるっていうのを世界で最初にやったのはライトなの。ライトが日本の建築に学んでそれをやるわけ。それを絵にしてヴァスムート社が本にして出すわけ。それを見てミースやグロピウスとかバウハウスの連中が驚嘆するのよ。「箱が破られた!」と思うわけ。ヨーロッパは箱の連続だったけど、ライトは箱を破った。

 本から影響を受けるんですよね。それはすごく面白いことで、情報って建築の実物である必要はない、写真でも本でもいい。新しいあり方を心から探してる人には、ほんと1枚の写真、1枚の絵でいい。それを与えたのがヴァスムート社のライトの作品集だった。

宮沢:バウハウスの建築がライトの影響を受けているというのは、この本にも書かれていましたね。

藤森:それはドイツの人たちにもよく知られていることですよ。グロピウスやミースたちはライトのおかげで伝統的な箱から脱出できた。だから、ミースは本当にライトを尊敬していた。

宮沢:ミースがライトを。

藤森:ミースの評伝見ると面白いんだけど、アメリカに行くでしょ。まあ、ナチスに追われたというか。その時、ライトに会うのよ。感動するわけ。自分たちを導いてくれた先生に会えたって。ところがね、ミースは傷つく。なぜかっていうと、ライトが「おめーら」みたいな態度で、握手もしなかった。おめーら、俺のやり方を中途半端に盗んで、みたいな。ライトは面白くなかったんだと思う。ものすごく意固地な人だから、自分のやり方で自分が超えられたわけよ、ミースに。

宮沢:なるほど。

藤森:でも、ライトも偉いけどね。最後は逆にグロピウス達の真似をし始めますからね。グッゲンハイムなんてそうですよ。ガラスの連続窓を回転させる。だけど、ミースはライトと会ったとき、けっこう傷ついたって。ミースの評伝に書いてあった。

宮沢:ミースはライトをそんなに尊敬してたんですか。

藤森:日本の伝統的建築の流動的なプランがありますよね、ふすま一個でどうにでもなる。あれもライトが学んで、いっぱいやるわけですよ。それを本にしたものに影響を受けて、今度はグロピウスたちがやる。それで今度はバウハウスを通して日本に戻ってくる。ぐるぐるぐるぐる情報は回るんです。

宮沢:なるほど…。まだまだ聞きたいところですが、今日のお話はこの辺で。本日は長時間ありがとうございました!

初回から読む。

■書籍『画文でわかる モダニズム建築とは何か』 文 藤森照信、画 宮沢 洋。彰国社、A5判、128ページ、本体1900円+税。書籍の詳細は彰国社サイト