残るレーモンド建築の影で消える「不二家横浜センター店」、ありがとうセール初日に行ってみた

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 アントニン・レーモンドの設計で1933年に竣工した「軽井沢夏の家」(現ペイネ美術館)が重要文化財に内定したという記事を6月に書いた(レーモンド「軽井沢夏の家」が重文内定、救世主は入社2年目の記者─「有名建築その後」秘話)。そんなグッドニュースの影で、4年後に完成した初期レーモンド建築が間もなく姿を消すことをご存じだろうか。横浜・伊勢佐木町の「不二家 横浜センター店」だ。閉店予定日は8月20日。7月25日から「ありがとうセール」だと聞き、初日に行ってきた。

(写真:宮沢洋)

 以下は、不二家が7月20日に発表した「長年のご愛顧に感謝を込めて、特別メニューの販売も~『不二家 横浜センター店』一時閉店のお知らせ」というプレスリリースである(太字部)。

 不二家は1910年(明治43年)に横浜・元町に小さな洋菓子店として創業したのち、1922年(大正11年)には「不二家 伊勢佐木町店」として2号店を開店いたしました。関東大震災により店舗を焼失し、バラック建てで営業を再開するなどの経緯を経て、1937年(昭和12年)2月に現在の場所にて建物を新築し開店しました。以降、現在に至るまでの86年間、ガラス作りの外観はそのままに不二家の最も歴史のある店舗として営業を続けてまいりました。

店頭に展示されていた当初の外観写真

 このたび建物の老朽化に伴い、「不二家 横浜センター店」は一時閉店いたします。なお、9月1日(金)より、仮設店舗にて営業を開始いたします。

 今まで「不二家 横浜センター店」をご利用いただき、誠にありがとうございました。開店から多くのお客様にご来店いただきました。全てのお客様に心より感謝申し上げます。

■営業終了日時
2023年8月20日(日)21:00

■店舗概要
所在地:神奈川県横浜市中区伊勢佐木町1-6-2
開店年月:1922年(大正11年)1月
※現在の建物での営業開始は1937年(昭和12年)2月

 不二家レストランといえばコレ! という人気メニューの組み合わせを、7月25日(火)よりスペシャルプライスで提供いたします。思い出とともに、ぜひ横浜センター店でご賞味ください。※不二家 横浜センター店のみの販売です。

記念撮影コーナーも

 また、お菓子やグッズを詰め合わせた「ありがとう袋」も7月25日(火)より数量限定で販売予定です。

行ったのが午後だったため、数量限定の「ありがとう袋」は買えず。各日10名は厳しい」!

 このほかにも、ご来店いただいたお客様の心に残るような企画を検討しております。残り1か月ではございますが、「不二家 横浜センター店」へのご来店を心よりお待ちしております。

7月25日から、特別企画としてハンバーグステーキとエビフライ、イタリアンショートケーキなどがつく「お客様感謝セットメニュー」(2280円)が販売されているのだが、さすがにヘビーなので、シンプルなブロッコリーのペペロンチーノをいただく。不二家のパスタは、麺が独特のモチモチ感でおいしい
ありがとう袋は買えなかったけれど、メッセージカードがもらえてほっこり

「ちょっとオシャレ」という天才的なさじ加減

 リリースには明確に書いていないが、報道によれば「新たなビルへの建て替えを計画している」とのこと。こんなことを言うと歴史家の先生方には怒られそうだが、筆者(宮沢)は「取り壊しなんてけしからん」「保存して登録文化財に」などと言うつもりはない。「天命をまっとうできて良かった!」という気持ちだ。

写真を撮る人も多い

 今年で86年目となる不二家横浜センター店は、不二家の全国約900店のうち、最も歴史のある店舗となっているという。それはそうだろう。他にあったら驚く。店舗を主とする都市型ビルが築86年というのは奇跡に近い。

 例えば、昨年、登録文化財になった「銀座ライオンビル」(1934年)のように、外観はどうということはないけれど、中は誰が見てもすごい、というような建築が長く残るのは分かる。この不二家横浜センター店は、外観がガラスブロックでちょっとシャレているけれど、中に入るとどうということはない。安定の不二家だ。

 それが86年も使われたというのは、「外観がちょっとシャレている」という、その“ほんのちょっとの吸引力”がじわっと人を引き寄せ続けたということなのでないか。すごく変わった外観だったら、とっくに建て替えられていたと思う。レーモンドはその微妙なさじ加減を狙ったのではないか。だとしたら恐るべし、レーモンド。

 閉店まであと1か月弱。あなたも自分の目で見て、このビルの長寿の理由について考えてみては?(宮沢洋)