学会賞受賞「グラスハウス」が大胆改修、オープン直後のサプライズ見学記──津山ルポ後編

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 津山巡りの後編である。訪れたのはここだ。

(写真:宮沢洋、以下も)

 分かるだろうか。横河健氏の設計で1998年に完成した「グラスハウス」である。1999年度の日本建築学会賞作品賞を受賞した建築だ。前回の記事(大改修後の「津山文化センター」を見学、“日本的RC四天王”が導いたサプライズ)とは別の意味で、大きなサプライズだった。

 これも、きっかけは稲葉なおと氏の写真集『津山 美しい建築の街』。この本に「グラスハウス」が載っていて、それが岡山県津山市にあることを知った。1998年完成なので、17年前に津山文化センターを取材に行ったときにはすでにあったわけだが、「グラスハウス」という名前から立地がイメージできていなかった。反省を含めて、見に行かねば……。

 と思ったのが今年4月半ば。しかし、調べてみるとどうやら昨年の春から休館しているらしい。

 古巣の日経BPが運営するニュースサイト「新・公民連携最前線」にこんな記事が載っていた。

 岡山県津山市は、都市型公園のグリーンヒルズ津山内にあるレジャープールを中心としたスポーツ施設、グラスハウスの営業を2021年3月末に終了する。その後、PFI法に基づく利活用事業を行う予定で、このほど実施方針を公表した。これまでは指定管理で運営してきたが、3月末で終了し、独立採算の運営に転換する。利活用事業は、RO方式とコンセッションを組み合わせたスキームとする方針で、4月中旬に事業者の募集を開始する予定だ。(2021年3月29日、元の記事はこちら

 ウェブを調べても、その後、再開したという情報はない。閉鎖したままか、工事中か。とりあえず、見るだけ見に行ってみよう、と思い、津山駅から車で20分ほどの「グリーンヒルズ津山」に向かった。

もしかして、やっている?

 広大なグリーンヒルズ津山の中心からやや北寄り。東に向かって下っていく緑の斜面に、土から掘り出したピーナッツのように、その建物はあった(宮沢は千葉県のピーナッツ畑出身なもので…)。

 これか、なるほどグラスハウス。外から見るだけではそんな感想しか書きようがない。

 しばらく上から眺めていると、入り口らしき部分から建物内に入っていく人がいる。施設の管理者が様子を見に来たのだろうか。せっかくここまで来たのだから、ダメモトで「中を見せてほしい」とお願いしてみよう。

 入り口まで下りていくと、左右に花が飾られている。あれ、もしかしてやってる?

 中にいる女性に聞くと、なんと数日前にオープンしたばかりという。新施設名は「Globe Sports Dome」。オープンしたのが5月9日で、私が訪れたのが5月12日。奇跡……。ダメモトで下りてみてよかった。

 自分は東京から来た者で、建築のウェブサイトをやっており、中を見せてもらえないか、うんぬんとスタッフの女性に説明すると、たまたまいらっしゃった運営会社の若い社長が快諾。おそらく、建築界ではほとんど知られていない、改修後の姿をご覧いただきたい。かなりサプライズである。

なんとプールがない!!

 何がサプライズかというと、ガラスドームの中のプールがなくなってる! 単にPFIで民営化したのではなく、施設用途が変わったのだ。津山市のサイトの説明文(太字部)を読みながら写真を見ていこう。

 令和4年(2022年)5月、旧グラスハウスはスポーツリズムトレーニング(リズムジャンプ)を導入した総合的なスポーツ及び健康増進施設「Globe Sports Dome」に生まれ変わりました。

 ガラスドームの特徴的な外観はそのまま残され、施設内部は大胆なリノベーションが施されました。レジャープールが中心だった施設は、プールの大部分が埋められ、バスケットやバレーボールが行えるコートエリア、ボルタリング、50mの直線トラック、人工芝エリア、屋外プールなど、様々なスポーツアクティビティや健康増進プログラムに対応した空間が誕生しました。


 新しくなったGlobe Sports Domeでは、この空間を活かした様々な会員プログラムや各種スポーツイベントが用意されるほか、エントランス部分にはカフェも併設され、一般来場者も気軽に立ち寄ることが可能です。

 なお、本施設はRO-PFIとコンセッション方式を組み合わせた公民連携による事業手法により再生されたものです。令和14年3月までの10年間、市はコンセッションによる運営権を(株)Globeに設定し、自由度の高い持続可能な施設運営を行います。この事業を通じて、地域の活性化や市民の健康増進、観光の振興や市の魅力向上を図ります。

 この日もあいにくの小雨だったので、ピーカンの写真は津山市のサイトを見てほしい(こちら)。ページの下の方に改修前の室内の写真も載っている。

 ちなみに、市が事業者を募集する際の「目的」にはこう書かれていた。

 グリーンヒルズ津山内に位置するグラスハウスは、建築の特殊性とレジャープールの特異性を備えた施設として平成10年に整備され、平成23年に岡山県から本市が譲り受け営業を継続してきました。以来、憩いと交流、健康づくりの場として市内外から多くの方々に利用されてきましたが、施設の管理運営費に加え、老朽化による多額の改修費用が見込まれることから、継続運営は困難と判断し、令和3年3月末をもって営業を終了しました。

 こうした現状を踏まえ、本事業においては、グラスハウスの特徴的な外観を残しながらレジャープールという枠に捉われない、事業者からの発案による独自のビジネスモデルを導入することとします。事業化にあたっては募集要項で示すコンセプトに基づく、施設の整備と収益性の高い事業へ転換を図ることで、持続可能な施設の運営、地域の活性化とグリーンヒルズ津山の賑わい創出、観光の振興やまち全体の魅力向上を事業の目的として、事業者からの提案を募集します。

 これを読んで、もともとは津山市でなく、岡山県の施設だったことを思い出した。建築家の岡田新一氏がコミッショナーを務めた「CTO(クリエイティブタウン岡山)」という事業の1つだった。県の行財政改革で津山市に譲渡されたが、市でこれだけ大きな温水プールを運営管理するのは大変だったろう。結果、立ちいかなくなり、公共施設としては営業停止。今回の民間事業者募集は、「特徴的な外観を残しながら」「レジャープールという枠に捉われない」という条件で行われたのだった。報道によると、市は改修費約2億5000万円を2030年度まで分割して負担。代わりに、年間380万円の運営権料(当初3年間は免除)を事業者から受け取る事業スキームという。

 私は改修前の状態を見たことがないので、この改修が建築的に見てどうなのかを言える立場にはない。しかし、こんな特殊な用途の施設を閉鎖したままにせず、あるいは壊してしまわず、民営化してガラッと変えてしまったアイデアと実行力はすごいと思う。いいのかがっかりなのか、特殊解なのか一般解なのか、建築界でももっと知ってもらって今後のヒントにしてもらう方がよいことは間違いない。(宮沢洋)

津山ルポ前編は下記↓