大改修後の「津山文化センター」を見学、“日本的RC四天王”が導いたサプライズ

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 自分は割と約束を守る方の人間だと思う。約束を守るとこんないいことがある。

(写真:宮沢洋)

 背景の建物は、岡山県津山市の「津山文化センター」。中央の俳優のような男性は、文筆家で写真家で建築家でもある稲葉なおと氏だ。この写真がどうやって撮られたかについてはおいおい説明したい。

 まず私(宮沢)は何を約束したのか。発端は本サイトに4月1日に載せたこの記事だ。

発売前に重版決定、話題の写真集『津山 美しい建築の街』は書き下ろしの歴史編も圧巻

稲葉なおと氏の写真集『津山 美しい建築の街』

 稲葉なおと氏が4月1日に発刊した写真集『津山 美しい建築の街』を紹介する記事の中で、「稲葉氏は、一般の人に建築の面白さを伝える、という意味では私の大先輩といえる存在だ」「稲葉氏は、やるからには『専門情報と一般の人をつなぎたい』人なのだ。そこは、いったん専門分野で生きてきた後に方向性を変えた私にはすごく分かる」などと、会ったことのない稲葉氏への共感を書いた。

 そして記事の結びに、「私はこの本を読んですごく津山に行きたくなり、今年、津山を15年ぶりに再訪することを決めた」と書いた。

 実は、相棒の磯達雄と続けている日経アーキテクチュアの連載「建築巡礼」が現在、1990年代前半の建築を対象としている。稲葉氏の本にも載っている「奈義町現代美術館」(設計:磯崎新)は1994年完成(奈義町は津山市の隣の町)。これは奈義町現代美術館の取材に絡めて津山周辺を巡るしかない、と思ったのである。

勝手に認定、「日本的RC四天王」

 稲葉氏の本には、たくさんの魅力的な建築が載っているが、建築好きにとって一番の吸引力を持つのは「津山文化センター」だろう。川島甲士(1925~2009年)の設計で1965年に完成した。構造設計は木村俊彦(1926~2009年)。

稲葉氏の写真集『津山 美しい建築の街』より

 津山文化センターは、「建築巡礼」の連載1年目の2005年に訪れた。連載1年目なのに、イラストの中で「勝手に認定 日本的RC(鉄筋コンクリート造)四天王」と断言している。それ以降たくさんの建築を見たが、私の頭の中のランキングは変わっていない。よくぞ言い切ったと、当時の自分を褒めたい。

(イラスト:宮沢洋)

 ちなみに、上のイラストは、私が講演会のときなどにしばしば「描くのが大変だったイラストベスト3」として挙げる絵だ。この絵、手描きで描くのは本当に大変だった。

 前の記事で15年ぶりと書いたが、正確には17年ぶりの再訪だ。城壁越しに見上げる西側外観は、当時の印象とほとんど変わっていない。

 しかし、駐車場のある東側はかなり変わった。エレベーターを含むガラスボックスが増築されている。

 2018年春から2年間休館し、耐震補強やバリアフリーの大規模改修を実施したのだ。改修設計を担当したのは広島市の大旗連合建築設計だ。

■津山文化センター 耐震補強及び大規模改修
改修設計:大旗連合建築設計
竣工年:2020年
主要用途:文化施設
延床面積:5619.94㎡
構造規模:RC造一部S造 地上3階、地下1階

 行くからにはホールの中も見たいと思い、事前に館に電話をして「見学したい」旨を伝えておいた。当日(5月11日)、奈義町現代美術館を取材した後、磯達雄とともに津山文化センターを訪ねると、館側で改修を担当した赤田憲待氏(津山文化振興財団 施設管理・運営担当)が館内を丁寧に案内してくれた。あいにく天気が薄曇りだったので、ピーカンの晴れた写真を見たい方は、大旗連合建築設計のウェブサイトをご覧いただきたい(こちら)。

写真で見る改修後の津山文化センター

名建築が導くサプライズ

 館内をあちこち見て、今もこの建築が「日本的RC四天王」であることを再確認。さて、帰ろうと思って、駐車場側の出入り口に戻ると、2人の男性が雑談していた。

 1人は稲葉なおと氏、もう1人は写真集の仕掛け人である津山文化振興財団常務理事の小坂田裕造氏だ。ここにどうして稲葉氏が? 稲葉氏は津山で写真集出版を記念した写真展があり、しばらくこの地に滞在していた。私が津山文化センターを見学したいとお願いしたことが稲葉氏の耳に入って、サプライズで待っていてくれたらしい。尊敬する大先輩と、津山文化センターで初めて会って感激。人を結び付けるのも名建築の力か。

 冒頭の写真を再掲すると、左から赤田憲待氏(津山文化振興財団 施設管理・運営担当)、稲葉なおと氏、小坂田裕造氏(津山文化振興財団常務理事)である。

 津山ルポはこれで終わりではない。津山に1泊して、前回(17年前)見逃したあの建築へと向かう。(宮沢洋)

初日の夕食は津山のご当地グルメ「ホルモンうどん」