永山祐子氏の「はなのハンモック」は“アップサイクルのリユース”、日比谷公園で5月12日まで

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 いま、最も忙しい建築家の1人、永山祐子氏(それでも、いつ会っても元気!)。建築のプロジェクトだけでも忙しいはずなのに、インスタレーションにも取り組む。そして、いかにも建築家らしい問いを投げかける。だから、見に行かないわけにいかない。4月27日(土)から日比谷公園で始まる「Playground Becomes Dark Slowly」の作品の1つ、「はなのハンモック」だ。

(写真:特記以外は宮沢洋)

 「Playground Becomes Dark Slowly」は、「公園という都市の隙間の中で変化していく日の光を感じながら、自然への想像力を駆り立てること」をコンセプトに、アート体験を提供するイベント。キュレーターを山峰潤也氏が務め、大巻伸嗣氏、永山祐子氏、細井美裕氏ら3名のアーティストが出展する。東京都が主催し、エイベックス・クリエイター・エージェンシーが制作、運営、PR事務局を務める。4月26日にプレス内覧会が行われた。

はなのハンモックの上で説明する永山祐子氏(左)、右はキュレーターの山峰潤也氏

 「はなのハンモック」は、見ただけでも楽しさが伝わる説明不要のデザインだが、見ただけではわからない建築的裏テーマがある。それは「リユース」だ。正確に言うと、一度「アップサイクル」した素材の「リユース」。

 このハンモック、2022年に東京ミッドタウンで開催された「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2022」の際に、「環(めぐ)るデザイン」のテーマでつくられた「うみのハンモック」の再生魚網をリユースしたものだ。このときは、廃棄された漁網をリサイクルしたナイロン製の糸から、ハンモックとタープの素材をつくった。それらの糸(原糸)を撚ることで本来の漁網と同等の強度を持つハンモックへとアップサイクルさせたものだ。海洋汚染に対する問題提起の作品だった。

 このときの再生漁網が「いつか使えるかも」と保管しておいたのだという。「うみのハンモック」を筆者は見ていないので写真を載せられないが、永山氏のサイト(こちら)で写真を見ると、なるほど空間体験として進化している。

 今回の「はなのハンモック」は、公式サイトではこう説明されている(太字部)。

■「はなのハンモック」
[設計・制作]永山祐子 + 永山祐子建築設計

花の海の上に浮かぶ大きなハンモックです。花畑の上のハンモックに揺られながら日比谷公園の豊かな自然、都会の中で大きく広がる空を感じていただきたいと思います。ハンモックの下に広がるお花の海は、夜になるとライトアップされ昼間とは違った幻想的な姿となります。

(写真提供:東京都)
(写真提供:東京都)

ハンモックの網は廃棄予定の漁網を回収し、アップサイクルした糸から作られています。四方を海に囲まれた日本では特に海洋ゴミによる海洋汚染、生態系への影響が問題となっています。今回、会期終了後、一部は再利用され、網は最終的に廃棄魚網のリサイクル技術によって再び素材となるなど循環のデザインにのせていく試みです。

ゆったりとハンモックに揺られ、花の香、陽の光や風を感じ、私たちの生活をとりまく自然環境に意識を巡らせてほしいという想いから生まれた作品です。

[鑑賞時間]9:00-22:00 (最終入場時刻 21:45)※雨天・荒天時は体験を中止する場合もございます。

頂部の交点の下に照明が付いている

 「注意事項」も意外におおらかなので、参考まで。

[注意事項]
寝たり、座ったりしてご利用ください。
1網2名が定員となります。

3歳以下のお子様は保護者と一緒にご利用ください。
靴を履いて乗ってください。
ハンモックの頂点へ登ったり乗り越えないでください。
飛び跳ね、飛び降りはやめてください。
引っかかる物をつけたままの使用はお控えください。
お子様から目を離さないようにしてください。
エリア内でのご飲食はご遠慮ください。

 筆者も上ってみたが、見た目の軽さとは違って、かなりしっかりできていた。安全面については相当検証したのだろうと思う。

身軽に上っていく永山氏

 子ども連れは間違いなく楽しめそう。永山氏はそれだけでなく、「ビジネス街が近いので、ここでミーティングをやったら気持ちがいいと思う」と語っていた。さすが、そういうちょっとした視点の転換がうまい。また、この漁網を「またどこかでリユースしたい」とも語る。永山氏は、2025年大阪・関西万博でも“リユースパビリオン”に取り組んでおり(下記の記事参照)、彼女なら実際にやりそうに思えてくる。

 永山氏はこのイベントにもう1つ作品を出していて、こちらは建築的ではないが、空間的ではある。以下、公式サイトより。

(写真提供:東京都)

■「はなの灯籠」
江戸城の堀の名残である心字池に浮かぶ花灯籠です。光の粒を携えた花一輪を来場者の方々の手で水辺に浮かべていただくワークショップです。日中は池の中に色とりどりの花が浮かび、日が暮れると、光の粒が花を一輪ずつ照らし出し、池の中に「花と光の群像」を作り出します。公園を吹き抜ける自然の風にゆらめいたり、周りの自然と溶け合いながら期間限定3日間のみ現れるここにしかない風景を生み出します

ワークショップの日には、こちらの受付で無料でキットを配布します。好みの花を選び池の中に自ら浮かべてみてください。

[開催日時]4月27日(土)/5月4日(土)/5月11日(土)
[実施時間]9:00-22:00
※雨天・荒天時は体験を中止する場合もございます。
※数に限りがある為、無くなり次第終了とさせて頂きます。

花の付いた灯篭の説明をする永山氏。中に小さなLEDが入っている

大巻伸嗣氏、細井美裕氏の作品はこちら

 永山氏は3人の出展アーティストの1人で、残り2人の作品はこちら。

■「Gravity and Grace」大巻伸嗣

哲学者シモーヌ・ヴェイユの箴言集『重力と恩寵』に由来する「Gravity and Grace」。花や葉脈、自然の波を想起させる流線の紋様が刻まれた7mに及ぶ巨大な壺。その中からは鮮烈な光が放たれます。しかしその一方で、光と影が織りなす「美しさ」という恩寵の背後には、巨大なエネルギーに伴うリスクもまた見え隠れします。国立新美術館の展示室で展示されたことが記憶に新しいですが、公園での展示となる今回は、壺の紋様の影と公園の木々や遊具の影が交差しながら伸びていく異なる趣をみせるでしょう。

[鑑賞時間]9:00-22:00 (最終入場時刻 21:45)
※作品にはお手を触れないでください。

[制作協力]中矢 清/Mind Set Art Center

(写真提供:東京都)
大巻伸嗣氏

■「余白史」細井美裕

公園という場所にあらためて意識を向けると、そこには歴史的なモニュメントや史跡があり、訪れた人々の何気ない時間が行き交い、多種多様な音で溢れています。そこで細井は、この日常を現代の一断面として、異なるバックグラウンドの人々に、それぞれの視点から公園の音を採集するよう依頼しました。そしてその音を、音響学の進歩による解析を見据え、現在の公園の状態を記録する史料として図書館や資料館で公的にアーカイブする、リサーチベースの作品を制作しました。

園内放送で使用されるスピーカーからは、作品のために採集された音が重なるように再生され、今この瞬間も公園が聴いてきた音の歴史の一部であることを示しています。

スピーカーの前で説明する細井美裕氏

※本イベント会期中、園内の数ヶ所に集音デバイスを設置し、園内の環境音の集音を実施させていただいております。
※集められた音は、リアルタイムで園内スピーカーから再生される場合もあります。

※集音デバイスはプライバシーに配慮した上で設置場所を選定しています。

[鑑賞時間] 9:00 – 20:30

[録音場所]都立日比谷公園(指定管理者:東京都公園協会)・日比谷公会

 会期は5月12日(日)までと短いので、早めに日比谷公園へ。(宮沢洋)