里山版「メイド・イン・トーキョー」にほっこり、「How is Life?」展@TOTOギャラリー・間

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 遅ればせながらの展覧会リポート第3弾は、東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間で開催中の「How is Life?――地球と生きるためのデザイン」である。これは本当に遅ればせながらのリポートで、展覧会は昨年10月21日から始まっていた。会期は3月19日まで。なので、すでに折り返しを過ぎてしまった。そんなに何か月も忙しかったのかと言われると、決してそんなことはなく、実は足が向かなかった。私(宮沢)のように二の足を踏んでいる人もいそうなので、その理由を正直に書く。

(写真:宮沢洋)

 理由1。「How is Life?――地球と生きるためのデザイン」というタイトルからは、身近な生活からのSDGsあるいはゼロエミッションの取り組みが想像される。だが、私自身はとてもSDGsを誇れるような生活をしていない。ゴミを分別するとか、食べ残しをしないとかは心がけているものの、その一方で12月~1月だけで計8回くらいジェット機に乗っている。車の移動も多い。小さな努力がふいになるくらいCO2を排出している。「地球と生きる」を語る資格がない。  

 理由2。あまりに原始的な提案を見ると、どこまで本気なの?とうがった目で見てしまう。本展の目玉である屋外展示の「茅葺普請」は、見た目のインパクトがあるがゆえに、その写真はかえって私の足を重くさせた。

 理由3。相棒の磯達雄がすでに、TOTOギャラリー・間(以下、ギャラ間)の依頼で“展覧会の見方”を書いている。この記事だ。

 企画展 How is Life?を楽しむコラム1回目 「ノンモダニズムへの実践」

 ブルーノ・ラトゥール(ランスの哲学者・社会学者)の「アクターネットワーク論」とか出されたら、もう私ごときに書くことはない……。

 というような理由で、なかなか足を運べずにいた。

塚本さん、本気だ!

 本展は、通常のギャラ間の個展とは違い、館の運営委員を務めている4人の建築家・建築史家(千葉学氏、塚本由晴氏、セン・クアン氏、田根剛氏)がキュレーターとなって共同実施したものだ。ギャラ間からの案内によると、「2年間議論を重ね、『How is Life?』をテーマに地球と生きていくために建築が何ができるかを、さまざまな事例を紹介しながら解説するという、初めての試み」という。

 会場に入り、私の緊張をほぐしてくれたのがこの写真。

 塚本さん、里山ファッションが似合う!

 これは来館者を和ますためのコスプレではなく、塚本由晴氏は今、本気で里山の研究に取り組んでいるのだ。展示物の一つ、「小さな地球」の説明によると、場所は千葉県鴨川市の棚田集落。2019年の台風で林良樹氏(1999年移住)の古民家が被災したことをきっかけに、棚田での米づくりから山林の環境整備、古民家の再生、そのコミュニティスペースとしての運営まで、多様な活動を展開しているという。そして、東京工業大学の塚本研究室ではドローイングによってそれらの活動を記録している。それがこれだ。

 建築展とは思えない、ほっこりするドローイング。この絵を見て我々世代が思い出すのは、塚本氏が90年代、貝島桃代氏、黒田潤三氏らとともに展開したリサーチプロジェクト「メイド・イン・トーキョー」。描かれているのが都市と里山の違いはあるが、建物の角度や見下ろし方が同じ!

 「メイド・イン・トーキョー」からやや遅れて塚本氏の実作が続々とメディアに発表されるようになったことを考えると、これから塚本氏の本気の里山建築が建築界の話題となっていくのかもしれない。

「神水公衆浴場」、実際に入ってきました!

 本展の目玉は塚本氏だと思うが、もう1つ、私が心を惹かれたのはこの「神水(くわみず)公衆浴場」の展示。これはリサーチや提案ではなく実作で、2020年に熊本市内に完成した。

 実は数日前、熊本出張のついでに、この銭湯に入ってきた。すごく良かった!

「神水公衆浴場」の実物

 この銭湯がなぜ注目されているかというと、オーナーが構造設計者の黒岩裕樹夫妻。2016年に熊本地震で被災した際、給水車や健康ランドに長蛇の列ができたことを目の当たりにして、自宅の一部を「公衆浴場」にした。

営業は土・日・水の16時~20時。20時以降は家族の風呂となる
この写真は展覧会に展示されていた小川重雄氏撮影のもの

 木造の空間もいいし、地域の人に愛されている感じがとてもほっこりした。

 想像だが、塚本氏の棚田集落も行ってみるとそんなほっこりオーラに包まれているのではないか。たぶん農村を改革する、という使命感よりも、一緒につくったり育てたりするのが楽しいのであろう。その面白さをおすそ分けしたい、という展示に見えた。

 「How is Life?――地球でほっこり暮らすためのデザイン」

 もしサブタイトルがこんな↑だったら、もっと早く見に行ったんだけどなあ…。私と似た気持ちで迷っている人はそんなノリで見に行ってはいかがだろうか。(宮沢洋)
 
■企画展「How is Life?――地球と生きるためのデザイン」開催中
   気候変動や社会格差などさまざまな課題に直面する今日。建築やデザインを介し、
   私たちを取り囲む障壁に風穴を開ける21個のプロジェクトを紹介します。
   見どころや関連コンテンツ満載の特別ページもぜひご覧ください。
   https://jp.toto.com/gallerma/ex221021/index.htm
   会期:2022年10月21日(金)~2023年3月19日(日)