新潟県三条市に隈建築が相次ぎオープン、ふんわり系図書館「まちやま」と、びっくり系仕上げの「スノーピーク スパ」

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 私ほど国内各地を巡っている人間も珍しいのではないかと思うのだが、新潟県三条市を訪れたのは今回が初めてだ。『隈研吾建築図鑑』(2021年5月発刊)を書いた者として、隈研吾氏の新作が2つ、立て続けにオープンしたと聞いては、行かないわけにいかない。1つは7月24日に開館したばかりの三条市図書館等複合施設「まちやま」、もう1つは今春オープンした「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」だ。

左が三条市図書館等複合施設「まちやま」、右が「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」 (写真:宮沢洋)

 メディアも隈氏の新作を追いきれないのだろう。どちらもまだあまり目にしない。しかし、目にしないからつまらないわけではない。経験上、隈氏の建築は、あまり話題になっていないものの方が意外に面白い。

 『隈研吾建築図鑑』では、隈氏の建築50件を「びっくり系」「しっとり系」「ふんわり系」「ひっそり系」の4つに分類して、その進化をたどった。中でも「ふんわり系」が隈氏の地方都市での人気を支えている、というのが私の分析だ。 

木の板の“密度の低さ”がすごい!

 まずは、7月24日に開館した三条市図書館等複合施設「まちやま」(新潟県三条市元町11番6号)。これは、典型的な「ふんわり系」だ。「典型的」ではあるが、手法は徐々に進化している。

 外観はこんな感じ。木の板をすかして立体化するのは隈氏の十八番。これはさほど珍しくはない。

 驚いたのは、施設の核となる図書館の天井。木の板の“密度の低さ”がすごい! 裏側が丸見えだ。

 皮肉で言っているわけではない。普通の建築家なら、板と隙間を等間隔にするか、隙間をできるだけ小さくしようとする。隈氏であっても、これまでは板1:隙間2くらいだった。ところがここは、板1:隙間3~5くらいだ。それが、空間の「ふわっ」とした感じに大きく寄与している。これが1:1だったら、この緩い空気感は生まれないし、もし板がなかったら単なる素っ気ない空間だ。

 外観の木の使い方について「さほど珍しくない」と書いたが、全体の立面に占める割合の低さは、さすが隈氏だ。平面がL字に折れてトンネルになっている部分に板を集中させ、最大の効果を得る。『隈研吾建築図鑑』の中で私は何度も「隈氏のデザインはコスパが高い」と書いたが、ここは真骨頂と言えそうだ。

 開館から7日目の土曜日に行ったので、館内は大にぎわいだった。サインが相変わらずいい。

 敷地の一角に、平屋の木造建築がある。カフェなどが入る「まちなか交流広場 ステージえんがわ」だ。

 「ふんわりの一方で、こんなに本格的な現代木造を設計できるのか、さすが隈さん」と思ったのだが、スタッフに聞くと、こちらは2016年完成で、隈氏ではないとのこと。後で調べたら、手塚建築研究所の設計だった(構造設計はオーノJAPAN)。なるほど。

藤森的な薪仕上げを現代的に見せる

 もう1つは「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」(新潟県三条市中野原456-1)だ。

 以下、開業時のお知らせから引用(太字部)。

 2022年4月15日(金)にSnow Peakとして初となる温浴施設を中心とした自然を感じる複合型リゾート「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」がグランドオープンいたします。「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」は世界的な建築家の隈研吾氏の設計によるもので、館内に使われる土壁や木材は、すべて地元新潟のものを使用。粟ヶ岳を望むロケーションから生まれた、野性味のある山波のような外観は、焚火に不可欠な薪をイメージしており、自然との圧倒的な一体感を生み出す、屋内と屋外の隔たりを感じさせないデザインとなっております。

 日本三百名山の一つである粟ヶ岳を眺望できる開放的な露天風呂や、焚火を囲むような感覚で楽しめるサウナ。レストランでは生産者の方々と深くつながることが出来る、地元の食材を生かしたメニューをご用意しております。

 人気のアウトドアブランド「スノーピーク」の本拠地なので、こちらはお金がかなりかかっていそう。外観は「びっくり系」だ。

 なんだ、この庇、どうなっているんだ? 薪が浮いてる? 

 こうなっている。

 かつて藤森照信氏が「ニラハウス」(1997年)の茶室で、輪切りにした薪に針金を通して、天井にびっしり吊っているのを見たことがある。それは、「いかにも手作業な感じ」=「野蛮ギャルド」が面白かったのだが、隈氏を薪を工学的な方法できちんと並べてみせる。これぞ現代建築といわんばかりに。この仕上げを見て、隈氏と藤森氏の違いについて、正面から考えたくなった。いつかどこかで書いてみたい。

薪仕上げは1階の室内にも連続する

 施設としては、浴室が素晴らしい。三条市に行ったら、日帰り入浴するべき。隈氏は、トリッキーな手法ばかりが注目されるが、実は「景色のいいところを切り取って見せる」という建築の基本を外さない人である。今回はアポなしで行ったので、浴室の写真が撮れず、申し訳ない。ビジュアルを見たい人はこちらを。

 最後に少し宣伝を。『隈研吾建築図鑑』がこのほど5刷りを迎えた。

 私にとって初の単著なので、じわじわと売れ続けているのは本当にうれしい。でも、いつか「増補改訂版を」と言われたら、新作の数が多くて大変だ。こまめに見ておかないと。(宮沢洋)