祝・増刷決定!『隈研吾建築図鑑』、著者の想いを凝縮した「あとがき完全版」を特別公開

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 今年5月11日に発刊された書籍『隈研吾建築図鑑』の増刷が決定した。出版業界用語でいえば「重版出来(しゅったい)!」。建築の書籍で、発売から1カ月足らずで重版となるのはかなり珍しい。

 以下、まだご覧いただいてない方のために、発売直前の5月6日に公開した記事を再公開する。「そんなに面白いの?」と疑わしく思っている方は、まずはこの「あとがき」を読んで値踏みしていただきたい。(ここまで2021年6月4日追記)

「あとがき」から本を読むという人は多いかもしれない。筆者もその1人だ。あとがきには、つくり手の想いが凝縮される。書籍『隈研吾建築図鑑』(日経BP刊、書店発売は5月11日)は、本サイトを運営する宮沢洋の初の単著(画・文・写真)だ。スペースの都合で削った部分も含め、同書のあとがき完全版を掲載する。

インタビューに答える隈研吾氏(写真:宮沢洋)

 実を言うと、隈研吾氏の建築がすごく好きだった、というわけではない。筆者は1990年から2020年まで30年間、建築専門雑誌「日経アーキテクチュア」の記者として、隈氏を見てきた。隈氏の建築はどれも「写真映え」する。話もうまいので、雑誌に取り上げやすい。しかし実物を見ると、その挑戦的なディテールや、表裏のはっきりしたデザインに、「あれ?」と思うことも少なくなかった。10年前までは、「日本を担うかもしれない」建築家の1人にすぎなかった。

 しかし、この10年間の隈氏の活躍の華々しさは、筆者の予想をはるかに超えていた。「なぜこれほど依頼が舞い込むのか」「なぜここまで一般に受け入れられるのか」。そんなことを考えさせる建築家は、それまでいなかった。

 その理由探しに真剣に向き合おうと思ったのは、自分が出版社を辞めたからだ。「建築の面白さを専門家だけでなく、一般の人にも伝えたい」。そんな思いが強まり、得意のイラストを武器に「画文家」として独立した。その第一歩にふさわしいと思えたのが本書だった。

「ふんわり系」の発見

 本書は、現存する隈建築(住宅を除く)の中で、筆者が「その進化を考えるうえで特に重要」と考えるもの50件を取り上げ、それらを「びっくり系」「しっとり系」「ふんわり系」「ひっそり系」の4章に分けて竣工年順に並べている。この「あとがき」から読んだ方は、「なんだ、韻を踏んだお遊びか」と思われるかもしれない。もちろんそれも狙いではあるが、一方で、筆者としては隈氏の特性を抽出するためにかなり頭を使った章構成であり、まずまずうまく分類できたと思っている。

 4分類のなかでも、特に近年の華々しい活躍のベースになっているのは「ふんわり系」だ。

「ふんわり系」が拡大するきっかけとなったと考えられる「アオーレ長岡」(2012年)のナカドマ(イラスト:宮沢洋)
現時点での「ふんわり系」の頂点と宮沢が考える「ゆすはら雲の上の図書館」(2018年)の閲覧室(イラスト:宮沢洋)

 この分類について、隈氏本人に感想を聞くと、こんな答えがあった。

 「そこ(ふんわり系)を見つけ出してくれたのは、すごく新しいと思いました。僕自身、意識的にそこに関るようにしていたので」

 「今までの建築家はあまり関わらなかった部分を、僕は意識的に受け入れている。そこにニーズが来ているのに、以前の建築家ならばそれを断っていた。僕の方から積極的にそこの領域をつくり出している部分もある」

 「(ふんわり系は)作品になりづらい。『作品』という概念自体が近代の危険な概念で、それが環境を壊し、建築家の信頼を壊して来た」

 「でも、その人たちに喜んでもらうことが絶対条件だし、自分でもそれを通じて何かの達成をしたい。その達成というのは作品をつくるという意味ではなくて、自分がずっとやってきたものの延長に何かを足すこと。そういう達成の方法がある」
(いずれも本書に収録したインタビューから引用)

 それを聞いて、この本に費やした1年は無駄ではなかった、と思った。

(イラスト:宮沢洋)

 本書は「隈研吾が大好き」という人にはもちろん読んでいただきたい。だが、書き手としては、「隈研吾はちょっと……」と思っている人に、「なぜこれほど隈研吾なのか」を考えるきっかけを与られれば、と思っている。自分なりの答えが見つかった頃には、隈氏のことが好きになっているかもしれない。なぜそう思うかというと、筆者がその1人だからである。(宮沢洋)

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