建築の愛し方09:新刊「世界のビックリ建築」はキッチュな建築集ではなく、「建築の王道」─白井良邦氏

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書籍「WONDER ARCHITECTURE 世界のビックリ建築を追え。」が扶桑社から本日、10月28日に発刊された。著者である白井良邦氏が、出来立てホヤホヤの書籍を抱えてOffice Bungaを訪ねてくれた。(聞き手は宮沢洋)

表紙にもなっている南仏の「ゴーデ邸」。フランスの建築家、アンティ・ロヴァグ(1920~2014年)が設計。1968年から50年にわたり建設が続いている(写真:JP de Rodliguez Ⅲ)

──白井さんはいつの間にか、肩書きが「ビックリ建築探究家」になっていたのですね。白井さんのプロフィル(↓)を見ると、怒涛の経歴で、どこから話を始めていいのやら…(笑)。

白井良邦 SHIRAI YOSHIKUNI
ビックリ建築探究家/編集者
1971年神奈川県生まれ。1993年(株)マガジンハウス入社。 雑誌「POPEYE」「BRUTUS」編集部を経て「CasaBRUTUS」には1998年の創刊準備から関わる。 2007年~2016年CasaBRUTUS副編集長。建築や現代美術を中心に担当し、 「安藤忠雄特集」、書籍「杉本博司の空間感」、連載「櫻井翔のケンチクを学び旅」などを手掛ける。 2017年より「せとうちホールディングス」執行役員 兼 「せとうちクリエイティブ&トラベル」代表取締役を務め、 客船guntu(ガンツウ)など、瀬戸内海での富裕層向け観光事業に携わる。 2020年夏、コンサルティング会社(株)アプリコ・インターナショナル設立、代表取締役を務め、 出版の垣根を越え、様々な物事を“編集”する事業を行う。
(ここまで書籍からの引用)

──白井さんとは、私が前職(日経アーキテクチュア)で白井さんが「CasaBRUTUS」(以下、カーサ)にいた頃に、あちこちでお会いしました。カーサで取り上げた建物の深掘り記事もこの本に載っていますが、その頃からビックリ系に惹かれていたのですか。

 そうですね。カーサにいた時代の話をすると、僕はもともと建築系の大学ではないんです。文系の大学を出てマガジンハウスに入社して、最初はアイドルとの仕事が中心でした。それが1998年に、カーサの創刊準備のために、突然、この世界に足を踏み入れました。

──突然、「建築」に引き込まれたのは私と同じです。

(イラスト:宮沢洋)

 僕は、建築の専門知識は全くありませんでしたが、大学時代から建築関連の展覧会を見に行っていたりしたので、すぐに建築が好きになりました。

──すごいなあ。私は「建築が面白い」と思い始めるまでに3年くらいかかりましたよ(笑)。嵐の櫻井(翔)君と名建築を訪ねる企画とか、さすがマガジンハウスだなと思って、羨ましく見ていました。

 櫻井君の連載は今も続いていて、実は今も少しお手伝いしています。

──信頼されてるんですねえ。

きっかけはUFO型住宅「フトゥロ」

──白井さんは、そういう意外性のある企画の一方で、真正面から丹下健三さんにインタビューしたりもしてましたよね。

 あれは、何も分かっていなかったので、実現できたというところもあります。舞台裏はいろいろ…(笑)。

──では、それはまた別の機会に(笑)。そういう「建築の王道」の方面を攻めながらも、あまり建築としては有名でない「ビックリ系」に興味を持つようになったわけですね。それはいつ頃からですか。

 きっかけはこの「フトゥロ(FUTURO)」です。カーサの北欧特集で向こうの雑誌を調べていて、「この崖に張り付いたUFOみたいな建築は何だ!?」と。一気に引き込まれました。

フトゥロ(FUTURO)(© Matti Suuronen / Museum of Finnish Architecture)

──確かにすごいインパクト。場所はヨーロッパですか。

 フィンランドの建築家、マッティ・スーロネンの設計で1968年に製造されたレジャー用の住宅です。直径8mで、FRP(繊維強化プラスチック)でできています。オイルショックでFRPの値段が高騰し、1973年に生産中止になりました。
 

フトゥロのパンフレット(Courtesy of Matti Suurone)

──これ、日本でイベントやりませんでしたっけ?

 はい、日本にも2つ輸入されていたことが分かって、その1つが廃屋になっていました。それを買い取って、東京に持ってきて見学会をやりました。

──「買い取って」というのがさすがマガジンハウス。

 カーサの記事に「FOR SALE」と書いて、購入希望者を募ったら、群馬の専門学校が買い取ってくださって。だから損はしてませんよ。そのプロセスも書籍に詳しく書きました。

前橋市の「フェリカ建築&デザイン専門学校」に移設されたフトゥロ(写真:Yoshikuni Shirai)

見たいと思ったらすぐに行く

──書籍で取り上げている建築は半分くらいが海外ですね。ビックリ建築の集積地みたいな国はありますか。

 キューバですかね。

ハバナ新市街の中心部、革命広場に面して立つ内務省ビル。1953年に建築家アキレス・カパブランカの設計で建てられた(写真:Kazuya Morishima)

──そんなところまで! キューバ、行ってみたいなあ。

 宮沢さんはブラジルに行かれてましたから、次はキューバにぜひ。

──どれも王道のモダニズムですね。この円形の建物、かっこいい!

 これ、アイスクリーム屋さんなんですよ。マリオ・ジローナという建築家の設計で1966年に完成したものです。

ハバナの中心部にあるアイスクリーム屋「ヘラデリア・コッペリア」(写真:Kazuya Morishima)

──日本の建築も、いわゆる名建築ガイドとはだいぶ違うラインアップですね。この「龍生会館」(設計:西川驍、1966年)、まだ見たことがなくて…。

「龍生会館」を紹介した見開き(写真:Shinichi Ito)

 これ、もう建て替えられてありませんよ。

──え、そうなんですか。都内なので、いつでも見に行けると思って、油断してました。

 そもそも、この建築を知ったのは、日経アーキテクチュアで建築史家の倉方俊輔さんが連載されていた「ドコノモン100選」でした。

──その連載、私が倉方さんにお願いしてやっていたものです。「ドコノモン」っていうネーミング、私ですよ(DOCOMOMOをもじった)。二重に悔しい…。「建築は見たいと思ったときにすぐに見るべし」ってことですね。反省します。(書籍はこちら

「ビックリ建築」五原則とは…

──書籍を通して見ると、「ビックリ建築」とは言っても、建築としては「王道」のものを集めていますよね。「あまり知られていない」というだけで、「単に変わっている」というものではない。

 そうなんです! よくぞ言ってくれました。本の最後に「『ビックリ建築』の五原則」というのを書いていて、その1つが「見かけだけのキワモノ&キッチュはダメ」というものです。発行元の出版社の人には「意外に普通」なんて言われたものも含まれています。

──おお、「『ビックリ建築』の五原則」、いいですね。白井さんの建築愛が表れている。これを引用して、インタビューの結びにしましょう。

「ビックリ建築」の五原則
01.そのフォルムに響き、心を揺さぶられる
02.ただし、見かけだけの「見かけだけのキワモノ&キッチュはダメ」
03.その建築が生み出された「時代性」「社会性」が感じられる
04.その建築の誕生に至り、精神性や理念が感じられる
05.“知られざる”“知る人ぞ知る”ものである
(誰もがアイコンのような建築は該当しない)

──白井さん、今日はありがとうございました。また何か楽しいことを一緒にやりましょう!

 こちらこそありがとうございました!

書籍「WONDER ARCHITECTURE 世界のビックリ建築を追え。
著者名:白井良邦
判型:A4変形判
ページ数:152ページ
定価:3520円(本体3200円+税)
ISBN:9784594086275
アマゾンはこちら→https://www.amazon.co.jp/ /dp/4594086276/