「道の駅 保田小学校」の隣に「附属ようちえん」という名の拡張施設完成、設計は遠藤克彦+アトリエコ

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 廃校舎を「道の駅」に転用したことで話題になった「都市交流施設・道の駅 保田小学校」(2015年完成)の隣で、廃園となった鋸南幼稚園が2023年10月14日、「都市交流施設・道の駅保田小附属ようちえん」となってオープンした。幼稚園ではなく、「ようちえん」という名の「道の駅拡張施設」である。

「道の駅 保田小学校」と「ようちえん」を結ぶ屋根付きの歩道「わっか」(写真:宮沢洋)

 改修設計を担当したのは、「大阪中之島美術館」でJIA日本建築大賞を受賞するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの遠藤克彦氏を中心とする設計チーム。初日に見に行くと、遠藤氏を発見。設計チームの面々を集めてくれた。

左から遠藤克彦建築研究所のアドヴァイザーを務める朝倉幸子氏(TH-1代表)、アトリエコの塩崎太伸氏と小林佐絵子氏、遠藤克彦建築研究所の遠藤克彦氏と樋口永氏

「わっか」という明快なデザインコンセプト

 遠藤克彦建築研究所のサイトに載っていた設計趣旨を引用する(太字部)。

「鋸南町都市交流施設周辺整備」
 令和3年(2020年)4月「鋸南町都市交流施設周辺整備設計業務委託プロポーザル」の最優秀者に選定。現地拠点を設置して町民との対話を前提とした「地域との協働」による設計プロセスの提案と、明快なデザインコンセプト、精度の高いきめ細やかな設計姿勢が高く評価された。

図の上方向(東側)が既存の保田小
保田小の2階からわっか方向を見る

 敷地全体を大きく囲む「わっか」は、周囲の山や田園風景と調和し、シンプルで分かりやすい空間構成が特徴となっている。また、都市交流施設の機能強化を目的としていることから、「道の駅保田小学校」との視覚的な一体性や連続性を考慮した設計としている。

設計:建築:遠藤克彦建築研究所・アトリエコ設計共同体
構造:合同会社 Graph Studio一級建築士事務所
設備:MOCHIDA建築設備設計事務所(機械)、有限会社 大瀧設備事務所(電気)
外構:株式会社E-DESIGN
設計協力:東京工業大学 環境・社会理工学院 塩崎研究室、中村義人
主要用途:道の駅
敷地面積:9427.50m2
建築面積:1585.40m2
延床面積:906.40m2
階数:地上1階
構造:木造・鉄骨造(一部木造)・鉄筋コンクリート造
竣工年月:2023年9月竣工予定
設計担当:遠藤克彦/樋口永/小林佐絵子+塩崎太伸 (アトリエコ)

 

 遠藤氏の建築のコンセプトが明快だ、というのは公共建築でのプロポーザルの強さを見れば分かる。それもすごいとは思うが、それよりも筆者は、これまでいくつかの遠藤氏の建築を見て、どれも“ディテールの精緻さ”にうならされてきた。形が凝りに凝っているというのではなく、シンプルな収まりの精度を徹底的に管理し、それを多様に見せる人なのだ。

 見た人も多いであろう「大阪中之島美術館」の室内は、このアルミスパンドレル一択。おそろしいほど均質な面が続くが、見る角度や光の入り方によって多様な空気感を生み出す(開館時のリポートはこちら)。

「大阪中之島美術館」のアルミスパンドレル

 本サイトでは書いていなかったが、「茨城県大子町新庁舎」(2022年)も数パターンの樹状柱(スギ)の繰り返し。それでも森の中にいるよう。

「茨城県大子町新庁舎」の樹状柱

 そして今回は、「わっか」の架構に見入ってしまった。曲線の回廊の屋根を格子状(正方形グリッド)の柱梁で建てるのは、相当珍しいと思う。それを鉄骨造一部木造のハイブリッドにして変化をつける。考えたなあ。

「道の駅 保田小学校」は開業から8年

そもそも「道の駅 保田小学校」って何?という人は公式サイトの説明をどうぞ(太字部)。
 
 町立保田小学校は、明治31年(1888年)保田高等小学校として設立、平成26年(2014年)の少子化による廃校を迎えるまで126年続いた歴史ある学校です。

 保田小学校はリノベーションを経て、その翌年の平成27年(2015年)12月、名前も校舎も残したまま、「都市交流施設・道の駅 保田小学校」として生まれ変わりました。

体育館を改装した核施設である「きょなん楽市」は、2019年9月の台風15号で壁面の大半が剥がれる大きな被害を受けた。何ごともなかったように復活していた

 小学校から道の駅への改修設計を担当したのは、プロポーザルで当選したN.A.S.A.設計JV(アーキテクチャーワークショップ、空間研究所、設計組織ADH、ナスカ)だ。実は、遠藤氏はこのときのプロポーザルにも参加しており、3位だった。

 「ようちえん」が拡張されたということは「小学校」が利益を上げているということだろう。小学校も見所満載。都内からは車で1時間半ほど(富津館山道路鋸南保田ICから数分)なので、ようやく訪れた秋を満喫しに出かけてみてはどうだろう。(宮沢洋)