水戸芸術館で「磯崎新 水戸芸術館を創る」展がスタート、生前語った「100年後には残らない」の真意

Pocket

 昨年末に亡くなった磯崎新氏の代表作である「水戸芸術館」(水戸市)で「磯崎新―水戸芸術館を創る―」が3月1日から始まった。古巣の『日経アーキテクチュア』2月23日号で磯崎新特集を担当した筆者(宮沢)は、自分の中の磯崎新再考(最高?)の熱が急速に高まっており、水戸芸術館の磯崎展も初日に見に行ってきた。

会場の水戸芸術館(写真:宮沢洋)
日経アーキテクチュア2023年2月23日号の表紙

 展覧会リポートの前に、もしかすると『日経アーキテクチュア』2月23日号の磯崎新特集をご存じない方へ。これは、Office Bungaからは私のほか、磯達雄と長井美暁が参加しており、なかなかボリューミーで読み応えのある特集だ。目次などを見たい方はこちらへ。

 水戸芸術館に戻ろう。会場は同館の2階。現代美術ギャラリー第9室およびエントランス2階回廊。現在開催中の企画展(ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術)はもちろん有料だが、この磯崎展は無料で見られる。

 無料ながら、なかなか見ごたえがある。導入部の現代美術ギャラリー第9室で展示されているのは、2019年に同館で開催した「磯崎新―水戸芸術館 縁起―」展の再現。

 これは水戸芸術館開館30周年記念事業として2019年11月16日~2020年5月6日に行われたものだ。会期を見てピンときた人がいるかもしれない。この企画は新型コロナウイルスの影響により会期途中で閉幕した。つまり、見ようと思っていながら、見られなかった人が多い展覧会なのである。

 展示風景は、ザ・現代アートという印象。しかし、それぞれをよく見ると、磯崎氏がこれらを面白がってアート風に見せているようにも見える(あくまで私見)。例えば、この作品。

「震」 2019、ARパネル、アクリル、1030×1456×15mm

 私は古代都市の街路か何かを俯瞰したものだと思ったのだが、説明(下記の太字)を見てちょっと笑った。

 構造家・木村俊彦とともに設計した水戸芸術館のタワー。その構造的根幹を担うジョイント部の原寸大断面図。黒い箇所が断面。

 なんと、タワーの鋼管の断面図!

 ほかの作品もこんな感じで、磯崎氏特有のウイットが感じられた。

「100年後には1つも残らない」という名言

 その部屋から出ると、我々世代は開館時によく見たシルクスクリーンの作品群。

 作品もさることながら、磯崎氏の「俺の建築は100年後には1つも残らないだろう。でも、紙は残る」という発言は、紙を扱う人間として何度読んでもしびれる。

初公開の“生図面”も

 そして、エントランス2階回廊には、本邦初公開の図面類。

 磯崎氏に関する展示というと、いつもは完成後に作成したと思われる抽象的なものが多いので、こういう生々しい情報は珍しい。じっくり見ると、いろいろ面白い。私は頑張って初日の朝10時に行ったので、運良く本展を担当した水戸芸術館現代美術センター主任学芸員・井関悠氏の説明を聞くことができた。

担当の井関学芸員。本展の開催が正式に決まったのは、今年の2月になってからで、それから館に保管されていた図面類を調べまくったという

 例えばこれ↓。基本設計段階のタワー3案だ。

 誰がどう考えてもA案選ぶっしょ! 明らかにA案を選ぶよう誘導する分かりやすい選択肢の立て方。

 実施段階の図面では、この手書きサインに注目。

 Jun Aoki? そう、磯崎新アトリエ時代の青木淳氏! 

 おお、この塔の構造図は、さきほどの現代アート風作品の大もとだ。

衝撃的なタワーの展望室

 そして、展示物ではないのだが、井関学芸員の話で「なるほど!」と思ったのはこんな話。

 「水戸芸術館のタワーは市制100周年を記念して高さ100mに設定されましたが、それには“これまでの100年”だけでなく、“これからの100年”を導くという意味も込められていました」(井関学芸員 )

 なんと! 「俺の建築は100年後には1つも残らない」って思ってないじゃん!

 揚げ足を取りたいわけではない。筆者はギャラリー開始時間よりもかなり前に現地に着いたので、先にタワーの展望室に上がったのだ。もう30年ぶりくらいに上がったので、全く記憶がなかった。上がってみると衝撃だった。

タワーの中を上るエレベーター

 まず、シースルーエレベーターなのに、途中、外が見えない!(見えるのは鋼管の骨組みとパネルの内側)

 そして、1分弱で展望室に着くのだが、外が見えにくっ!

 たぶん、日本一外が見えづらい展望室ではないか。実は、隣地にできた伊東豊雄氏設計の「水戸市民会館」を撮ろうと思っていたのだが、アイフォンを丸窓にどうかざしても映らなかった(涙)

水戸市民会館はもっと左の方に…

 で、何が言いたいかというと、磯崎氏はこのタワーを「確実に100年持つ」ようにつくったのである。おそらく、構造的には鋼管の骨組みの外側に総ガラス張り、あるいは少なくとも一部ガラス張りでつくることが可能だったろう。しかし、耐久性も弱いし、デザイン的にも飽きが早い。考えられる最大の永続性を実現するためにチタンパネル+小さな丸窓にした(多分)。心の中では「絶対100年持たせる」と思いながらも、口では「100年後には残らない」と言う九州男児的?な照れ(多分)。しびれる…。本展を見に行く人は、必ずタワーに上ってほしい。たった200円だ。

 ところで、伊東豊雄氏設計の「水戸市民会館」は、建物は出来上がっているが、開館は少し先で今年7月。本展は6月25日(日)までなので、一緒には見られない。楽をせず、2度水戸に行こう。(宮沢洋)

7月開館予定の水戸市民会館。ガラスにタワーがきれいに映り込むのは、水戸芸術館へのリスペクト?

磯崎 新 ―水戸芸術館を創る―
2023年3月1日(水)~6月25日(日) 10:00〜18:00(入場は17:30まで)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室およびエントランス2階回廊
開催日:2023年3月1日(水)~6月25日(日)
開催時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日
主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団
協力:磯崎新アトリエ
公式サイトは
こちら

企画展示室に、本当に自然光を入れているのにもびっくり。現在開催中の企画展は「ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術」。会期は2023年2月18日(土)~5月7日(日)