「心地いい半屋外」を解明するヒント? 「MUFG PARK」の「まちライブラリー」、軒下の強力な吸引力

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 「MUFG PARK」のことを知ったのは、昨年6月、TBSのニュース報道だったと思う。

(写真:特記以外は宮沢洋)

 以下、TBS「NEWS DIG」2023年6月25日の記事からの引用だ(太字部)。

 金融機関として初の取り組みです。三菱UFJフィナンシャルグループは、従業員向けの運動場を整備し直し、図書館などが併設した公園として一般開放します。

 あす(2023年6月26日)、東京・西東京市にオープンするのは、「MUFG PARK」です。

南側のメインゲート
メインゲートを入ると、芝生の広場の奥にライブラリーがある

 もともと、三菱UFJの従業員向けの運動施設だった東京ドーム1.3個分の敷地には、新たにバーベキューができる芝生の広場やテニスコートを整備したほか、無料で利用できる図書館も設置し、公園として一般開放します。

 所有する土地を公園として一般開放し、しかも、「無料で利用できる図書館」まで建ててしまうとは。太っ腹。

 その後、いくつかのWEBの記事で、この公園、特に図書館↑が褒められているのを読んだ。図書館は「まちライブラリー」という。テレビ東京の人気番組「出没!アド街ック天国」では、「保谷」の回(2023年10月21日放送)の第1位が「大きな公園」で、「MUFG PARK」がこんなふうに取り上げられていた(太字部)。

【MUFG PARK】 2023年6月に三菱UFJフィナンシャルグループが福利厚生施設をリニューアルし一般に開放した。11面のテニスコートや天然芝のグランドなど設備が充実している。注目は園内の図書館「まちライブラリー」。約1万冊の蔵書は全て寄付によるもの。本には感想カードが挟まっており、寄贈したオーナーからのメッセージの横に読者が感想を書けるようになっている。

 開館からわずか1カ月で、「まちライブラリー」はこのエリアの最注目スポットになってしまったわけだ。

 どの報道を見ても設計者の名前が出てこない。三菱UFJグループの保有施設だから、三菱地所設計の設計だろうな。ずっとそう思っていたので、三菱地所設計の知人に会ったときに聞いてみた。ピンポン、正解。「せっかくなのでご案内しましょう」ということになった。

左から三菱地所設計東北支店建築設計三部アーキテクトの髙橋祐太氏、建築設計四部シニアアーキテクトの大森晃氏、建築設計三部の長谷川結以氏

「人が心地よさを感じる半屋外」とは?

 長い前振りになったが、そうこうしているうちに、『新建築』2024年1月号に載ってしまった。なので、設計意図などはそちらを見てほしい。

 筆者(宮沢)が特に惹かれたのは、軒下だ。真冬なのに、全体利用者の3割くらいが吹きさらしの軒下でくつろいでいるのである。風のない日だったが、気温は高くない。でも、「外に出たくなる」「外でのんびりしたくなる」のだろう。

 聞けば、この施設、休館日でも軒下で人がくつろいでいるという。のんびりしたくなる何かがあるのだ。

 筆者は以前から、「人が心地よさを感じる半屋外」に興味を持っている。「中庭」や「大階段」もだ。そういうところに人がたまる建築を見つけると、写真を撮ってコレクションしてきた。当サイトで乾久美子氏に「よくみる、小さな風景」の連載を依頼したのも、筆者の関心と同じものを感じたからだ。乾氏ほどには深く考えていなかったが、筆者も人のたまり場を見ると、たまらない場との条件の差を考える。

 ここの場合、軒の深さや微妙なカーブ、デッキ床などに加え、屋内から連続して見える天井の傾斜が要因として大きいように思う。巨大な屋根に包まれている感じがするのだ。安心感がある。片流れにし、室内にも庭側にも壁を立てなかったことが効いている。外に出たくなる。天井の包まれ感を与えるのにガラスは重要で、休館時にシャッターを下ろすような施設だったら、休みにまで来てくつろいだりはしないだろう。

雨の日にも見たい建築

 訪れた日は好天だったが、「雨の日もいい」と現場監理を担当した三菱地所設計建築設計三部の長谷川結以氏は言う。その写真がこれ。

(写真:三菱地所設計)

 おお、見事な雨のカーテン。落ち葉対策として雨どいを付けなかった。もちろん、雨が1か所に偏らない検討はしたが、「ここまできれいに落ちるとは思わなかった」(同社建築設計四部シニアアーキテクトの大森晃氏)という。

 実は筆者は「雨の日に見たくなる建築」も集めており、そちらのコレクションにも入れられそうだ。次は、雨の日に来てみよう。

 それとこの建築、アトリエ系建築家の設計だったら、おそらく「○○さんが設計した」という形で報じられると思うのだが、三菱地所設計という組織事務所の設計だとそこがニュースに含まれない。こういう記事をこつこつ書いて、世の中の意識を変えていかねば、と思うのである。

 担当者名入りのフルスペックの概要データをもらったので、以下、ご参考まで。(宮沢洋)

■MUFG PARK / LIBRARY
所在地 東京都西東京市柳沢4-4-40
主要用途 図書館
建主 株式会社三菱UFJ銀行
設計─────────────────
建築 三菱地所設計
   担当/大森晃 高橋祐太 額田奈菜子(基本設計) 野口浩平(実施設計) 長谷川結以(現場監理)
構造 三菱地所設計
   担当/小岩和彦 若原知広 中村俊介(基本設計)
電気 三菱地所設計
   担当/桑田誠(現場監理)野口明(現場監理)原由弥(実施設計、現場監理)
原田祥太(基本計画)水取寛満(実施設計)
機械 三菱地所設計
   担当/小林伸和 中川貴文(基本設計)稲葉さとみ(実施設計)河﨑仁重(現場監理)
外構 三菱地所設計
   パーク全体担当/塚本敦彦 津久井敦士 田代英久 朱豊 大谷育夢(パーク全体)
   ライブラリ北側園路担当/大森晃 高橋祐太(ライブラリ北側園路)
監理 三菱地所設計
   担当/吉瀬維昭 板倉航大
照明 Lumimedia Lab
   担当/岩井達弥 石井孝宜 田部武蔵
サイン アシタデザイン 
担当/山田貴史 矢野修平
日射シミュレーション 合同会社ぽ 
   担当/堀田憲祐 堀田明登
作図協力 穂苅武 (協力事務所) 牛谷内優子(CADオペレーター)
プレイスメイキング    三菱UFJリサーチ&コンサルティング 保志場国夫
基本計画アドバイザー    神戸大学 槻橋修・ティーハウス建築設計事務所
ライブラリアドバイザー   一般社団法人 まちライブラリー 礒井純充
施工─────────────────
建築 東急建設
   担当/榎本雄一 長谷川知之 森本圭祐 梶功輔 齋藤昌輝 堀内蛍
機械 高砂熱学工業
担当/中藪俊幸 猶塚敏貴 谷川賢都
電気 日本電設工業
担当/星義一
規模─────────────────
敷地面積 62,524.48m2(PARK全体)、11,040.55 m2 (ライブラリ敷地)
建築面積 645.70m2
延床面積 436.10m2
1階 436.10m2
建蔽率 5.86%(許容:40%)
容積率 3.94%(許容:80%)
階数 地下無し 地上1階
寸法─────────────────
最高高 5,220mm
軒高 5,120mm
天井高 ライブラリ:4,526~2,945mm 事務室:2,400 mm
主なスパン 5,400mm×8,000mm
敷地条件─────────────────
地域地区 第一種低層住居専用地域 法第22条区域 第一種高度地区
道路幅員 東4.5m 西4m 南4m 北4.56m
駐車台数 111台(PARK全体)
構造─────────────────
主体構造 鉄骨造、鉄筋コンクリート造 一部鉄鋼鉄筋コンクリート造
杭・基礎 直接基礎
設備─────────────────
環境性能:
外皮性能基準BPI=0.57
一次エネルギー消費量基準BEI=0.36
太陽光パネルの設置 7.5kW
取得した環境認証と等級・数値(自己評価の場合はその旨を明記)
BELS:ZEB Ready
空調設備:
空調方式 ビル用マルチエアコン、床輻射冷暖房(床吹出併用)
衛生設備:
給水 直結給水方式
給湯 個別給湯方式
排水 汚水・雑排水合流方式
電気設備:
受電方式 低圧受電方式
電灯設備 LED照明
防災設備:
非常警報設備、消火器
設計期間 2020年8月〜2022年1月
施工期間 2022年9月〜2023年6月
工事費 非公開
外部仕上げ─────────────────
屋根 金属屋根(ダイムワカイ)
陸屋根 超速ウレタン防水(ダイフレックス)
軒天 アルミスパンドレルt13 硬質塩ビシート貼(3M)
オーク材フローリング+木材保護塗装(昭和洋樽、キシラデコール)
外壁 コンクリート化粧打放(本実型枠) クリア塗装
開口部 ライブラリ南面、北側ハイサイド:スチールサッシ(Lihasu)
ライブラリ東西面:MPG+スチールハーフマリオン(AGC)
事務室・授乳室:アルミサッシ(不二サッシ)
エントランス:ステンレス自動ドア(ナブコ)
外壁スリット:ステンレスサッシ(フロント)
外構 園路:透水性アスファルト舗装
園路際:コンクリート洗い出し(OSHIROX)
エントランス:花崗岩JB+特殊塗装(上條石材、OSHIROX)
テラス:人工木デッキ(東京公営)
内部仕上げ─────────────────
エントランス
床 オーク材フローリング(昭和洋樽)
花崗岩(上條石材)
壁 オーク クリア塗装(天童木工)
天井 オーク材フローリングt15(昭和洋樽)
ライブラリ
床 鋼製二重床+オーク材フローリング(昭和洋樽、三洋工業)
壁 ケイカル板 特殊塗装(OSHIROX)
天井 吸音パネル+硬質塩ビシート貼(3M、誠啓)
事務室・授乳室
床 タイルカーペット(東リ)
壁 ケイカル板+塩ビシート(サンゲツ)
天井 GB EP塗装
トイレ
床 長尺塩ビシート(サンゲツ)
壁 ケイカル板+塩ビシート(サンゲツ)
タイル貼(LIXIL:エコカラット)
天井 GB EP塗装
その他 壁面本棚・中置本棚・可動梯子・受付・カフェカウンター (天童木工・日本ファイリング)
スライド点検扉(小松ウォール)
利用案内─────────────────
MUFGPARK
開館時間  8:00 – 18:00(7月1日 – 8月31日の間は8:00 – 20:00)
休館日 年末年始(12/29 – 1/3)
MUFGPARK ライブラリ
開館時間  10:00〜17:30
休館日 月曜日、火曜日
入館料 無
問合せ tel. 042-452-3125

設計者略歴─────────────────
大森 晃(おおもり・あきら)
1967年 東京都生まれ
1989年 東北大学工学部建築学科卒業
1991年 早稲田大学大学院修士課程修了
1991〜2001年 三菱地所
2001年〜 三菱地所設計
現在、同社 Global Design Office・建築設計四部・R&D推進部 シニアアーキテクト

髙橋 祐太(たかはし・ゆうた)
1994年 北海道生まれ
2016年 日本大学生産工学部建築工学科卒業
2018年 日本大学大学院生産工学研究科修士課程修了
2018年〜 三菱地所設計
/現在、同社東北支店・建築設計三部 アーキテクト