「村野藤吾と長谷川堯」展@京都工芸繊維大資料館は、無料でもらえる図録がお宝過ぎる!

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 こんなタイトルを見たら、それが京都であっても行かないわけにはいかないではないか。「村野藤吾と長谷川堯―その交友と対話の軌跡」。京都工芸繊維大学美術工芸資料館で3月22日から始まった展覧会だ。

右奥の写真が長谷川堯氏。手前は本展の図録

 珍しい建築系2展同時開催だ。もう1つは「建築家・鬼頭梓の切り拓いた戦後図書館の地平」展。会期はいずれも2023年3月22日~6月10日だ。メインは鬼頭梓展で、2階の展示フロアをまるまる使って行われている。

 「村野藤吾と長谷川堯」展は1階のエントランスホールと左手奥の展示室を使って行われているサブ的なもの。だが、村野藤吾ファンの私(宮沢)はどうしてもこっちについて書きたくなる。

「村野藤吾と長谷川堯」展が行われている1階のエントランスホールを見下ろす。左奥の部屋も展示スペース

 村野藤吾については説明不要と思う。本展で村野とからめて語られる「長谷川堯」とはだれか。「堯」は「たかし」と読む。以下は、長谷川氏が亡くなったときの朝日新聞の訃報(太字部)。

 建築家・村野藤吾の研究などで知られた建築史家、建築評論家で武蔵野美術大名誉教授の長谷川堯(はせがわ・たかし)さんが(2019年4月)17日、がんのため死去した。81歳だった。(中略)近代建築の記念碑性、合理性を疑う論考で知られ、72年に著書「神殿か獄舎か」で建築界に衝撃を与えた。村野らによる豊かな細部を備えた建築や都市の評価に力を尽くした。

 村野藤吾研究の第一人者であり、名著「神殿か獄舎か」の著者であることはもちろん知っていた。今回、どうしても見たくなったのは、展覧会の案内を見て、長谷川氏の詳しいプロフィルを知ったからだ。以下、展覧会の公式サイトより(太字部)。

 建築評論家・長谷川堯(1937~2019年)は、島根県に生まれ、早稲田大学文学部で美術史を専攻する。そこで恩師の美術評論家で建築評論家の草分けでもあった板垣鷹穂(1894~1966年)の指導を受け、近代建築史を卒業論文のテーマに選ぶ。そして、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、ワルター・グロピウスの建築思想をテーマとする卒業論文をまとめる。板垣は、この卒業論文を高く評価し、著名な建築雑誌『国際建築』を主宰する小山正和に伝えたことから、この論文は同誌に連載され、長谷川は、1960年の大学卒業と同時に建築評論家としてデビューを飾ることになる。

 だが、文学部出身という異色の存在でもあり、その道のりは決して順調なものではなかった。それでも、精力的な執筆を続けた長谷川は、独自の視点から日本の近代建築史を検証し、1972年、『神殿か獄舎か』(相模書房)で、大きな問いかけを行う。そして、この前後から、村野藤吾(1891~1984年)と出会い、親交を深めていく。また、村野も、長谷川に信頼を寄せて、繰り返し対談の相手に指名する。こうして、長谷川は、村野の再評価と近代建築史の再考という仕事を進めていくことになる。そして、村野の没後も、『村野藤吾の建築 昭和・戦前』(鹿島出版会2011年)を上梓するなど、現代へと続く村野藤吾の歴史的評価を決定づける多くの活動を続けたのである。

 本展では、二人の交友と対話の軌跡を追いながら、長谷川の眼差しと言葉を手がかりに村野の建築を振り返り、建築評論家・長谷川堯の成し遂げた仕事を通して、建築を社会が共有するために必要なものとは何か、を考える機会にしたい。

 えーっ、建築評論家なのに、建築学科出身じゃなかったのか!

 それを知って、孤高の存在だった村野と深い信頼関係を築いたことも腑に落ちた。

こんなに写真を撮る人だったことにも驚き

 同展の展示スペースはさほど広くはないが、長谷川が撮った村野建築の写真とスライドフィルムで構成された部屋が面白い。

パネルの下に見える小さな四角形はカラースライド

 写真をたくさん撮る人だったんだなー、ということも、文学部美術史専攻だったと知ると、なんとなく納得がいく。

 展覧会の実施メンバーの1人である笠原一人氏(京都工芸繊維大学助教)のSNSで、「図録が完成した」という情報を知り、出来立てほやほやの図録をもらって帰った。信じられないことだが、図録はいつも無料だ。入館料も、2展見られて、たったの200円。

無料配布中!

 図録の中身は勝手に見せられないが、いつもにも増して、資料価値が高い。総ページ数160ページ超え。会場に展示されている長谷川撮影のカラースライドが、建物ごとにきれいに整理・収録されていて見やすい。生前の長谷川本人をはじめとする関係者へのインタビューも充実。そのインタビューの中にこんなものが…。

 「インタビュー:長谷川博己氏に聞く 父:長谷川堯のこと」

 うわあ、俳優の長谷川博己さんにインタビューしてる。なんてレア、なんて贅沢。昔取ったインタビューを再録したのかなと思ったら、この日付↓。

 つい最近! しかも東京。笠原さん、呼んでほしかったです! タダでまとめ役やりましたよ(涙)。

 そんなこんなで、すごい図録である。表紙の2人の写真もかっこいい。書店やネットで売ってはいないので、京都に展覧会を見に行ってゲットしてほしい。(宮沢洋)

展覧会のポスター。スラリとした長谷川(左)と村野(右)がまるで映画俳優のよう

■「村野藤吾と長谷川堯―その交友と対話の軌跡」
会場:京都工芸繊維大学美術工芸資料館(京都市左京区松ヶ崎橋上町)
開催期間:2023年3月22日(水)から6月10日(土)
休館日:日曜日・祝日
開館時間:10~17時(入館は16時30分まで)
入館料:一般200円、大学生150円、高校生以下無料
主催:京都工芸繊維大学美術工芸資料館、村野藤吾の設計研究会
■「建築家・鬼頭梓の切り拓いた戦後図書館の地平」も会期は同じ