重文指定記念、レーモンドの「夏の家」を自然光で公開、藤森講演で知る吉村順三の想い

Pocket

 9月25日、文部科学省告示第108号により、「軽井沢夏の家(旧アントニン・レーモンド軽井沢別邸)」が国の重要文化財(建造物)に指定された。それを記念し、この建築(現・ペイネ美術館)で9月23日(土)から 11月23日(木)まで、「アントニン・レーモンド夏の家展ー軽井沢夏の家(旧アントニン・レーモンド軽井沢別邸)公開」が行われている。関連イベントの1つとして、10月22日(日)に「藤森照信が語る『夏の家』」が開催された。

(写真:宮沢洋)

 関係者の1人として見に行ってきた。なぜ関係者かというと、「夏の家展」のこの展示コーナーに筆者が関係しているからだ。

 おお、古巣の『日経アーキテクチュア』。そして、この部屋の展示ケース内は、すべて同誌の「有名建築その後/軽井沢夏の家」の展示。この展示は、当サイトの記事(↓)を読んだペイネ美術館の方から筆者に連絡があり、記事中に登場する移築の立役者、村田真さん(日経アーキテクチュアOB)を館に紹介したことで生まれた。

 詳細はぜひ上の記事を読んでほしいが、ざっくり言うと下記のような流れとなる。

 この建築は、建築家アントニン・レーモンドの別荘兼事務所として1933年(昭和8年)に建設された。レーモンドはここで、妻のノエミ、自身の建築設計事務所の所員らと夏の間を過ごした。レーモンドが日本を離れた後、建物は売却され、その後も幾多の所有者を経て、1986年(昭和61年)に軽井沢タリアセン内へ移築された。1986年に移築されるきっかけになったのが、日経アーキテクチュア1984年8月13日号の「有名建築その後」の記事だ。

 現在は、フランス人画家レイモン・ペイネの絵画を展示する「ペイネ美術館」として活用されている。美術館だから基本、遮光されている。残ったのはありがたいし、残ったから重要文化財になったのだが、当初の開放感は通常時の美術館仕様ではほとんどわからない。だから今回の“夏の家バージョン”はすごく貴重である。

いよいよ藤森氏の講演スタート!

 藤森照信氏の講演もとても面白かった。知らなかった話、気づかなかった視点が満載。自分自身への備忘録として、いくつかメモしておく。

・当初の写真で屋根の上に見えるホワホワしたものはカラマツの枝。屋根はトタンだったが、雨音がうるさいということで後から枝が敷かれた。

・この建築でのレーモンドのこだわりの1つは1階の大開口。柱の外側に雨戸、柱の内側にガラスの引き戸があある。こんな日本建築はない。レーモンドはすべてのガラス引き戸が片側の戸袋に収納できるようにしたかった。

・現状はない基壇の鉄筋コンクリート部分も魅力的だった。吉村順三は、木造部の下にあるピロティ状部分が特に好きだった。

吉村が愛した木造下部のピロティ

 筆者が特に引き込まれたのは、基壇の鉄筋コンクリート部分の話。吉村順三が好きだったピロティ状部分というのはここ↓だ。写真に写っているのは吉村だという。

 筆者はこの写真を見たとき、思った。「あ、これって軽井沢の山荘!」(1962年、設計:吉村順三)
 
 すると、藤森氏も同じことを考えたようで、この写真を出した。

 そう「軽井沢の山荘」だ。藤森氏は吉村の生前、本人にその類似性を指摘すると、吉村はだまってしまったという。

 先の「有名建築その後」の記事の結びで、吉村は当時解体予定だった夏の家についてこうコメントしている。「思い出深い建物ですよ……。でも、昔の面影は残っていないね。もうしょうがない。壊れた方がいいよ……」。

 これって、冷たいようにも感じていたが、想いが強すぎることの裏返しだったのだな。

レーモンド事務所OBの北澤興一氏

 藤森氏の講演の後に、レーモンド事務所OBの北澤興一氏が余談として話したエピソードも印象的だった。吉村順三はよほどこのピロティが好きだったようで、1986年に移築された後にここを訪れたが、コンクリート部分がないことを知り、「これは夏の家ではない」と帰ってしまったという。ひゃー、とんでもない「夏の家」愛。

北澤氏が持参した当初の模型

 そんなこともあり、北澤氏はコンクリート部分の復元を目指しているという。

右部の下に、吉村が愛したピロティがあった

 国の重要文化財になったので、いずれ文化財としての本格的な修復工事が行われるだろう。国の補助金で足りないならば、クラウドファンディングをやってでもぜひ基壇を復元してほしい。あまり口外はしていないが“隠れ吉村ファン”である筆者はそう思うのであった。(宮沢洋)

■アントニン・レーモンド夏の家展-軽井沢夏の家(旧アントニン・レーモンド軽井沢別邸)公開-
 夏の家は建設から90年が経ちました。設計者はアントニン・レーモンドで自身の別荘兼アトリエとして誕生しましたが、長い年月の間にさまざまなことが起きました。所有者が幾度と変わり、用途も変わり場所さえも変わり、時には存在自体を忘れられてしまうこともありました。夏の家にとって大きな節目となる今年、これまでの歴史や構造を紹介しながら、普段の美術館の姿とは異なる建物本来の木造モダニズムの嚆矢をご覧いただきます。
日時:2023年9月23日(土)から11月23日(木) 9:00 – 17:00
会場:アントニン・レーモンド夏の家
料金:大人300円 小中学生100円(軽井沢タリアセン入園料800円/400円別途)
協力:株式会社レーモンド設計事務所、株式会社北澤建築設計事務所、工学院大学建築学部鈴木敏彦研究室、村田真、木下裕章

後援:軽井沢町教育委員会
2023年9月23日(土)から11月23日(木)まで
ペイネの展覧会は旧朝吹山荘「睡鳩荘」2階で開催します。
公式サイト http://www.karuizawataliesin.com/look/peynet