速報:日建設計が東京オフィスを“実験的大改修”、キーワードは「会社に来たくなる」+「行動変容」

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 3年前の今頃は、「オフィスは不要になる」と言われていた。でも、最近は「オフィスで働くことの必要性」が再び議論されるようになってきた。そういう揺り戻しの時期に、日本の大手設計事務所2社が自らのオフィスを使って“その先”を示そうというのはさすがだなと思う。1社は、先日リポートした日本設計の新本社オフィス(@虎ノ門ヒルズ)。そしてもう1社が日建設計で、本日行われた東京本社の内覧会を見に行ってきた。その速報である。

デジタルだけれど、実寸というアナログ的な体験の場「XR STUDIO」(写真:特記以外は宮沢洋)

 日建設計のリポートの前に、既出の日本設計新オフィスのリポートはこちら↓。設計テーマは「ムラ(不均質さ)」で、これもかなり面白い。

日本設計が虎ノ門ヒルズに本社移転、見た目よりも「20世紀的均質さからの脱却」に納得(2023年2月28日公開)

 日建設計は本社を移転したわけではない。これまでの日建設計東京ビル(2003年竣工の自社ビル)の2~4階を改修した。

日建設計東京ビル。外観はこれまでと変わらない
(資料:日建設計)

 内覧会の案内メールのタイトルは「カーボンニュートラルや社会課題 解決のプラットフォーム 日建設計 オフィス説明会・内覧会」。なんだか優等生っぽくてあまり期待していなかったのだが(すみません)、予想以上に刺激に満ちた内覧会だった。

 「おおっ」と思ったのは、会見冒頭の西村浩副社長のこの資料あたりから。今回の改修(彼らは「リ・デザイン」と呼んでいる)の2つの目的について。

経緯と狙いを説明する西村副社長

 上の「社会課題解決に向けた社会環境デザインプラットフォーム」は、案内メールのタイトルとほぼ同じで、「ああ、省エネとか創造性とかの話をするんだな」と想像はつく。手堅い方の日建設計だ。筆者が「おおっ」と思ったのは、下段の「来たくなるオフィス」の方。これは、筆者(宮沢)の好きな“やんちゃ”な方の日建設計だ。

 きっと、これって誰もが思っていることだ。何のために会社に行くの?と。その問いがあまりにもストレートすぎて、普通の大組織だったら「誰が責任とるんだ」みたいなことになって、たぶん改修のテーマにはならない。そんなことを目標に掲げてしまう日建設計は、手堅さとやんちゃさが共存している不思議な大組織なのである。その独特の組織については拙著『誰も知らない日建設計』をぜひご覧いただきたい。

「そこでしかできないこと」をたくさんつくる

 改修設計の中心になったのは、勝矢武之氏(設計監理部門設計グループ/新領域開拓部門NADダイレクター)。筆者は勝矢氏をよく知っているが、まず人選が適任。勝矢氏自身が「なぜわざわざ会社に?」と真っ先に言いそうだ(あくまで想像)。

設計の中心になった勝矢氏

 で、見てどうだったか。あらゆるオフィスに汎用性があるかは分からないが、筆者も含めて「ものをつくる人」は来たくなると思う。なぜかというと、ここでしか体験できないもの・ことがたくさんあるからだ。

 話はそれるが、筆者も3年ちょっと前まで会社員(出版社勤め)だった。まだコロナの前で、リモートワークという制度はなく、「なんで毎日会社に行かなくちゃいけないの?」派だった。対面で話し合うことで良い方向に向かう仕事も確かにあった。だが、それだけなら週に1度くらい出社日を決めてみんなで集まればいいのでは、と思っていた。自分にとって、会社に行く重要な理由は、雑誌のバックナンバーがそろっていたこと。そういう意味で筆者は、「理想のオフィスとは、ストレスの少ない図書館」のようなものではないかと考えていた。

 それにかなり近かったのである。会社は「創造や成長のために交流せよ」と言うけれど、働く側の人間は交流を目的として会社には行かない。それは行ったことによる結果であって、行く目的は、「そこでしかできないこと」がいかに多いかだ。それをどうつくったかは写真で見てほしい。

2階の「PLAZA」へ
2階は、会議室などが集まる「発信」のフロア。竹をはじめ、自然素材を多く用いている。3階床の一部を抜いて、2階と3階を結ぶ階段を設けた。階段は吊り構造

 2階は素材の使い方がいろいろ面白いのだが、筆者の興味は3階なので3階に上る。

3階は社外にも開かれた「共創」のフロアで、「PYNT」と名付けた。「ぴんと来る」と「ピントが合う」をかけている(写真:日建設計)
内覧会の様子
カフェのあるカウンタースペース
社員のおすすめ本コーナー。これ、好き!
冒頭に写真を載せた、デジタルだけれどアナログ的な体験の場「XR STUDIO」 。これ、すごい

 この日の内覧は2階と3階だけだったが、4階は日建設計社内の創造のためのフロアで、とにかく大きなものをどんどん広げられる空間になっているという。それって重要!(見たかった!)

「行動変容」という手堅さの中にもやんちゃさ

 そして、“やんちゃさ”とは別方向の“手堅い日建設計”の方もさすがだ。CO2削減は、ハード面でぎりぎりまで下げたうえで、さらにオフィスワーカーの「行動変容」で下げるという。そのために、個々人のスマートフォンで使うアプリを開発した。

アプリの画面の1つ

 「Asapp(アサップ)」というアプリだ。これは、先行してプレスリリースが出ていたので、コピペする。(太字部)

 株式会社日建設計は、オフィスワーカー一人ひとりの仕事中のCO2排出量と削減量を可視化することによって、環境意識を醸成し、環境行動を促すスマートフォンアプリケーション「Asapp※(アサップ)」(特許出願中)を開発しました。2023年3月1日から日建設計東京オフィスにおいて、試験運用を開始します。(中略)

開発の中心になった大浦理路氏

 これまでの省エネルギーの多くは、温湿度や照度、在不在などに応じて空調や照明を最適に制御するものでした。既存建物においてこのような改修を行う場合には、外装や設備システムの更新など大掛かりな工事が必要となります。改修や維持保全資金が必要となり、誰もが容易に取り組めないのが実態です。一方、近年は一人一台スマートフォンを持ち、一人ひとりに情報を通知することができるようになりました。建物側の工夫だけでなく、望ましい建物の使い方を人に提示し、行動変容を促すことで、大規模な改修を伴わずに大幅な省エネルギーを実現できます。こうした人と建物の双方向の関係を構築するため、本アプリケーションを開発しました。

 本アプリケーションは、オフィスワーカーに仕事中の一人ひとりのCO2排出量を表示し、環境行動を促す仕組みです。オフィス、住宅、サードプレイスなどの「働く場所」や、電車、車、飛行機などの「移動手段」の情報入力およびオフィス内のセンサーにより検知された位置情報にもとづき、オフィスワーカーの日々のCO2排出量を可視化します。

 文面だと優等生的に思えるが、これは運用方法に日建設計らしいやんちゃさがある。目の前に“にんじん”をぶら下げるのだ。CO2 の削減量を社内のカフェで利用できるポイントとして加算する仕組みにした。なるほど!! 

 「行動変容」が求められていることは分かっていても、自分にとってどう得かが明確でないと、人は変わらない。筆者は最近の少子化対策のニュースを見るたびに、「そんなことよりも、子育ての人数によって消費税を下げる方がよくない?」と思うのだが、発想としてはそれに近い。分かりやすいメリットは大事だ。

大阪オフィスが移る銀泉備後町ビル。こちらは自社ビルではなくテナントビル(写真:日建設計)

 今回は東京オフィスの見学会だったが、大阪オフィスは今年5月から新オフィスに移転し、やはり「来たくなるオフィス」となる。大阪らしい、どんなやんちゃさが発揮されるのかが楽しみだ。(宮沢洋)

大阪オフィスの設計の中心になっている喜多主税氏。「テナントビルでどこまでできるか」に挑む(設計監理部門設計グループダイレクター)