「ザ・リッツ・カールトン日光」は銅板とスギ! レーモンドのスギ皮張り別荘も必見

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 日建設計が建築設計を担当した「ザ・リッツ・カールトン日光」が7月15日、日光・中善寺湖畔にオープンした。当初は5月22日開業予定だったが、コロナの影響で約2カ月遅れての開業だ。「ザ・リッツ・カールトン」は、日本では東京、大阪、京都、沖縄に続いて、5つ目。温泉大浴場を持つものは世界で初めてとなる。開業間もない同ホテルを、設計を担当した土屋哲夫・日建設計設計部門ダイレクター アーキテクトに案内してもらった。

(写真:宮沢洋、以下も)

 東武鉄道とマリオット・インターナショナルが「ザ・リッツ・カールトン日光」を2020年に開業することを発表したのは、2016年11月のこと。設計はその1年ほど前から始まっていたが、この規模の建築には珍しく、設計は特命発注だったという。伏線になったのは、2012年に開業した東京スカイツリーだ。同施設も東武鉄道が開発し、日建設計が設計を担当した。今回のホテルを担当した土屋氏は、東京スカイツリーの設計チームの一員だ。

 建設地はここ(↓)。第2いろは坂を上ってすぐ左手だ。

 東武日光駅から中禅寺湖に行くバスは、このホテルの前でも止まる。下の写真は車寄せ側(東側)の外観。

 この地は、いわば中禅寺湖畔のリゾートホテルの発祥の地である。明治27年(1894年)に「レーキサイドホテル」が誕生。後に「日光レークサイドホテル」となり、2016年1月まで120年以上もの間、営業してきた。既存のホテル施設が老朽化したことから、現在の所有者である東武鉄道が建て替えを決断。世界的な知名度を持つ「ザ・リッツ・カールトン」と組むことで、日光エリア再興の起爆剤とすることを目指した。ちなみに、日光の老舗ホテルとして有名な「金谷ホテル」も現在は東武グループとなっている。

 上の写真は湖畔側(西側)入り口。建物は鉄筋コンクリート造・4階建て。延べ面積約1万3000m2。メイン棟、レイク棟、マウンテン棟の3棟から成る。敷地が国立公園内のため、高さ20mに抑えられている。

 既存の樹木を保存、移設するなどして約100本残した。建物は、既存樹木を縫うように置いた。

 外装が面白い。開口部のまわりの四角い枠は、地元を象徴する木材であるスギ。壁面もぱっと見は、スギ下見板張りに見えるが、実際は、銅板に硫化いぶし処理を施し、下見板張り風に葺いたものだ。

 イメージとしては、かつて中禅寺湖畔にあった木造別荘の下見板張りを手掛かりとしつつ、耐久性を高めるためと、足尾銅山のある精銅所が近い立地であることから地域の象徴として銅板を用いた。

 メイン棟1階にロビーやバーがある。内装デザインは、メルボルンに本社を構えるLAYAN Architects + Designersが担当した。

 話題の温泉大浴場も見せてもらった。

 レストランは2つ。客室数は全94室。レストランや客室内もいろいろと面白いのだが、詳しく書いても長過ぎて読んでもらえなさそうなので、写真でご覧ください。

 設計担当の土屋氏。東京スカイツリーとこのプロジェクトの間には、幻の“新国立競技場ザハ案”を担当していたという怒涛のプロフィルの持ち主だ。

レーモンドの傑作、外装を張り替えてさらに斬新に!

 さて、最後におまけ。というか、実は今回、日光まで行ったのはこれが見たかったことも大きい(土屋さん、すみません!)。このホテルから徒歩で30分ほどのところにある、「旧イタリア大使館別荘」だ。アントニン・レーモンドの初期の傑作。竣工は戦前の1928年。この建物はレーモンドの木造建築の中でも、見たことのない仕上げを用いている。スギの樹皮と、サワラの板(こけら葺き)をパッチワークにした外装だ。なんてグラフィカル!

 この外装、2018年~2019年春に張り替えを行い、模様の対比が明快になった。ちなみに5年ほど前はこんな感じだった。

 以前は以前で味があって良かった。張り替えは意匠性のためだけでなく、建物の耐久性を高めるためだが、見え方としてどちらが好きかは意見が分かれそうだ。レーモンド自身の狙いはどっちだったのだろうか…。

 内部は張り変えていないが、相変わらずのすごさ。特に天井!

 新旧90年を隔てた2組の設計者(日建設計とレーモンド)の建築。地元素材の生かし方の違いをぜひ2つ併せてご堪能いただきたい。なお、旧イタリア大使館別荘はリッツ方面から遊覧船でも行けるが、現在はコロナの影響で便数が少ない。30分歩きたくない人は時刻表をよく調べておくことをお薦めする。(宮沢洋)