TOTOギャラリー・間(東京都港区)で、能作文徳氏と常山未央氏の展覧会「都市菌(としきのこ)――複数種の網目としての建築」が1月18日(木)から始まる。会期は3月24日(日)まで。開幕前日の1月17日に行われたプレス内覧会に行ってきた。
筆者(宮沢)は2人の実作を見たことがない。実は会うのも初めてだ。でも、ずいぶん前から名前はよく聞く注目の2人。挨拶がてら見に行こうとは思っていたが、書くかどうかは「見てから決めよう」と思っていた。展示を見て2人の話を聞き、これは書こう、と思った。
なぜ「見てから決めよう」などと偉そうなことを思っていたかというと、筆者はこういうテーマについて書く自信がないのである。公式サイトから主旨文を引用する(太字部)。
能作、常山両氏は、建築設計や論考執筆に加え、国内外の大学を拠点に、建築と都市と生態系の関係性リサーチを続けてきました。自宅兼事務所の「西大井のあな」では、鉄骨造の中古住宅に光と熱が循環する孔を開け、コンクリートで覆われた外構を自分達の手ではつり、土中改善を行うなど、エコロジカルな視点で改修しています。そこは他で得た学びを実験し、次のプロジェクトへと展開させる実践の場となっています。彼らが「URBAN WILD ECOLOGY」と呼ぶ、こうした都市の中に野生を取り戻す取り組みに加え、近年では石場建てや木組などの伝統知、藁や土壁といった土に還る素材を積極的に設計に取り入れています。
生態系とか循環といったテーマは、会社に属していたときには淡々と書くことができた。その組織の看板を背負って書くからだ。だが、フリーランスになると、「どの口で?」と言われている気持ちになるのである。いまだにガソリン車に乗ってるし、1年間で20回くらいジェット機使っているしで、自分に書く資格があるのかと…。
しかも「都市菌(としきのこ)――複数種の網目としての建築」って、かなり難しげだ。なんだか気後れする。そういう不安を持った人も、この展覧会は気楽に見られる。そして2人の実作が見てみたくなる。
「ごみを出さない」展示が出発点
まず「きのこ」の意味するところは何か。主旨文には「課題を抱える現代の都市の一部を分解し、その養分を吸収し、菌(きのこ)のように成長する。そんな腐敗と再生の網目の結節点として建築を捉え、野生や伝統知を手に、網目に切り込みを入れつなぎ直すことにより、複数種のネットワークを構築しようとしています」と書かれているが、筆者の読解力ではよくわからなかった。
2人の説明を聞くと簡単なことだった。「廃材を使う(分解)」「ごみを出さない」「隙間を生かす」。
この展示も、「ごみを出さない」を出発点に計画したという。
まるで高校の文化祭になりそうだが、さすがプロはきれいに会場をつくる。テーブルが廃木材なのはわかるとして、展示壁が断熱材だと聞いて驚いた。
リポートを書こうと思ったのは、全体に漂う“押しつけ感のなさ”。おしゃれだし、展示を見ていて楽しいのである。
NHKの「ピタゴラスイッチ」を見るよう。自分に影響を与えた番組でいえば、「できるかな」(ノッポさんとゴン太くんの番組)。あれのカッコイイ版だ。見に行く前に想像していた教条的な雰囲気とはだいぶ違う。
2人に、「設計を進めるうえで『使わない』と決めている材料があったりするのか」と質問してみた。
すると、「そういうことではなくて、プロジェクトに応じて最適の方法を考えている」(能作氏)、「どんなプロジェクトでも『あきらめない』ことを心がけている」(常山氏)という柔らかな答え。おお、それなら自分にもできそう。
こんな話もしていた。今、建築設計者は、環境的なことをテーマにするのがカッコ悪いから語らないという人と、原理主義的に取り組む人に二分される。自分たちは、できることをやろうという考え方で、伊東豊雄氏がかつて『消費の海に浸らずして新しい建築はない』(1989年)と言ったことになぞらえれば、『環境主義に浸らずして新しい建築はない』と考えている(ざっくりの要約)。
展示では実作がどんな感じなのか伝わりづらかったが、戻ってから能作氏の事務所のサイトを見たら、どれもなかなか魅力的ではないか。(こちら→http://fuminori-nousaku.site/)
もちろん、ド正面から環境問題に取り組む建築家には敬意を抱いている。が、こういう柔らかいアプローチから開かれる“新しい建築”も見てみたい、と思わせる展示だった。
最後に、私がこの展覧会のタイトルをつけるなら、『としきのこ、できるかな?』にすると思う。ビジュアルはこの写真で↓。 (宮沢洋)
能作文徳( のうさく ふみのり)
1982年富山県生まれ。2005年東京工業大学卒業。2007年同大学院修士課程修了。2008年
Njiric+ Arhitecti(クロアチア)研修。2010年より能作文徳建築設計事務所主宰。2012年博士(工学)取得。2012~18年東京工業大学助教。2018~21年東京電機大学准教授。2023年コロンビア大学特任准教授、ミュンヘン工科大学客員教授。現在、東京都立大学准教授。
常山未央(つねやま みお)
1983年神奈川県生まれ。2005年東京理科大学卒業。2005~06年Bonhôte Zapata Architectes(スイス)研修。2006~08年スイス連邦政府給費生。2008年スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)修了。2008~12年HHF Architects (スイス)。2012年mnm設立。2015~20年東京理科大学助教。2020~21年同校特別講師。2022~23年EPFL客員教授。2023年コロンビア大学特任准教授。
■展覧会概要
展覧会名:能作文徳+常山未央展:都市菌(としきのこ)――複数種の網目としての建築
展覧会名(英):Fuminori Nousaku + Mio Tsuneyama: URBAN FUNGUS――Architecture is a Complex Ⅿesh
会期:2024年1月18日(木)~3月24日(日)
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜・祝日、ただし、2月11日(日・祝)は開館
入場料:無料
会場:TOTOギャラリー・間(〒107-0062 東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)
主催:TOTOギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会(特別顧問=安藤忠雄、委員=貝島桃代/平田晃久/セン・クアン/田根 剛)
後援:東京建築士会/(一社)東京都建築士事務所協会、(公社)日本建築家協会関東甲信越支部/(一社)日本建築学会関東支部