昨年11月26日にオープンした「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」は、伊東豊雄氏によるボーダーレスな公共建築の集大成だ、というような記事をオープンしてすぐに熱く書いた。(こちらの記事→複合ぶりが圧巻、伊東豊雄氏の「おにクル」は令和のメディアテークである)
「伊東豊雄氏のおにクル」と、つくり手を分かりやすく限定してしまうのはメディア人の悪い癖で、正確に言うと、この建築は「竹中工務店・伊東豊雄建築設計事務所JV」の設計・施工である。設計にも竹中工務店が参加している。
オープンから4か月後に再び見に行く機会があり、これは建築の設計もすごいけれど、それ以外のデザインとの相乗効果がボーダーレス性を高めているのだ、と改めて思った。
1つは、家具だ。施設内の家具のほとんどは藤森泰司氏によるオリジナルデザインである。ご存じの方も多いと思うが、藤森氏は昨年12月8日に56歳の若さで亡くなった。筆者が前回、見に行ったときには、それを知らなかった。それもあり、再びじっくり見てきた。
家具を超えて「居場所をデザイン」
改めて見て回っても、家具が本当に魅力的だ。「見て美しい」家具は世の中に多いと思うのだが、ここの家具はどれも「見ていると関わりたくなる」。そして、空間に添えられた脇役ではない。
施設内にこんな説明パネルがあった(前回来たときには見逃した)。
藤森氏が書いたと思われる趣旨文を引用する(太字部)。
複数の機能を持つ「おにクル」は日々様々な目的を持った人が訪れます。
多様な過ごし方ができる“立体的な公園”をテーマに、〈縦の道〉を取巻くソファをはじめ各フロアの機能に応じて、様々な居場所をデザインしました。
各フロアのメインとなる家具には、LSL材(天然木を割いて集成した)“地層”のような表情を持つ素材を用いました。茨木の新たな風景として、様々な体験とおにクルから望む風景が重なり合います。
これを読むと、藤森氏が、家具と人との小さな関係性を超えて、明らかに空間体験をデザインしようとしていることがうかがえる。
下のフロアから上へと見ていこう。
閉めた方が明るいカーテン?
そしてもう1つ、脇役を超えているのがカーテン。施設内には、テキスタルデザイナーの安東陽子氏によるカーテンが複数個所に設置されている。
カーテンについても、説明のパネルが置かれていた。
開けていても強い存在感を放つのが4階のカーテンだ↑。大ホールのホワイエと共用部を仕切るもの。これは筆者もすぐに「安藤さんだ!」とわかった。
個人的に好きなのが5~6階の図書館北側のカーテン。著名な建築家が設計した施設で、こんなにポップな柄のカーテンって珍しい。これはたぶん、閉めていた方が明るい気持ちになる。
伊東氏らの設計チームがどういうプロセスでこうした(ある種主張の強い)カーテンや家具を生みだしたのかが興味深い。
ロゴマークもいい!!
コラボついでで言うと、筆者はこのロゴマークが素晴らしいと思った。
鬼の角がくるくる。まさに、おにクル。
おにクルという愛称と同様に、てっきりこのマークも子どもが応募したものだと思っていたら、グラフィックデザイナーの大御所、廣村正彰氏によるものだった。以下は、公式サイトの説明(太字部)。
鬼の力強さと広がりを感じられるおにクルのマークは、鬼の目とツノ、そして建物の特徴である「縦の道」を俯瞰した様子を螺旋で表現し、おにクルが市のシンボルとして大きな存在になるようにとの想いが込められています。
ロゴは、筆文字ベースの「おに」とゴシック体ベースの「クル」を組み合わせて、丸みのある造形と直線的な造形を対比させることにより、「おにクル」という言葉が持つ、独特で親しみやすい響きを表現しています。
なるほど。くるくるは、「縦の道」も表現していたのか。深い…。
おにクルは去る4月21日に、「ゴウダホール」(4~5階の大ホール)のこけら落とし公演が行われ、ようやくグランドオープンとなった。
おそらくこれから建築専門誌にもバンバン載ると思う。見どころが多すぎて、家具やカーテン、ロゴマークの話はサラッとになりそうなので、そこに踏み込んでこの記事は書いてみた。こんなに褒めるのが自分だけなのか、皆がそう思うのか。評価が楽しみな建築だ。(宮沢洋)