東京・汐留のパナソニック汐留美術館で、「サーリネンとフィンランドの美しい建築」展が開催されている。「サーリネン」というのは、丹下健三のライバル的存在として知られるエーロ・サーリネン(1910~1961年)ではなく、父親のエリエル・サーリネン(1873~1950年)の方である。なんとまた、ニッチなテーマ……と思ったのだが、これが実に面白い展覧会であった。
展覧会の始まりでは、フィンランドの民俗叙事詩『カレワラ』が様々な芸術家たちに創造のインスピレーションを与えたことを紹介している。エリエル・サーリネンも影響を受けた1人で、それがナショナル・ロマンティシズムと呼ばれる初期の作風を生んだ。
公式サイトには「展覧会のみどころ」として4点が挙げられている。
1.フィンランド独立の足がかりを築いた1900年パリ万国博覧会フィンランド館
サーリネンらが設計したフィンランド館はセーヌ右岸の万国通りに建てられ、東西約40メートル、幅約10メートルという規模で、中世の教会のような外観を呈していた。
2.英国アーツ・アンド・クラフツがかかげた理想を、北欧で現実のものとしたサーリネンの暮らしのデザイン
19世紀後半に、イギリスのウィリアム・モリスが理想とした中世風の手仕事による美しい暮らしの環境の実現は、その高い理想がゆえに矛盾をはらんでいました。しかし、サーリネンらの北欧デザインでは、芸術と産業の協働はみごとに生活のなかに結実した。
サーリネンは2人の建築家仲間とともに、ヘルシンキ市から西に25km離れたキルッコヌンミ市のヴィトレスク湖畔に土地を購入し、仕事場を兼ねた共同生活の拠点を3年がかりで建てた。建物全体はその地名のまま「ヴィトレスク」と呼ばれ、サーリネン邸では建築と暮らしのデザインが見事に融合している。同時代に設計された他の住宅も同様で、詳細に描き込まれ、かつ彩色の美しい室内透視図からは、装飾も含めたトータルデザインが意識されていたことが分かる。
3.アアルトもあこがれたエリエル・サーリネン、彼が築いたフィンランドのモダニズムの原点
近代建築の巨匠アルヴァ・アアルト(1898~1976年)に代表されるフィンランドのモダンデザインの原点を築き上げた、エリエル・サーリネン。「その建築ドローイングは私に決して消えることのない印象を残した。それからずっと、エリエル・サーリネンの作品は私にとって特別なものになった。」(アルヴァ・アアルト、1946年)
ヘルシンキ中央駅は、独自の形態を通じて新しいフィンランドらしさを提示しようというモダニズムの黎明といえる作品だ。このほか、フィンランド国会議事堂計画案や大ヘルシンキ計画、カレワラ会館計画案など、1923年に渡米するまでのサーリネンは、実現や完成に至らなかったものを含めて、フィンランドで様々な大規模公共プロジェクトに関わった。
4.会場構成は気鋭の若手建築事務所、久保都島建築設計事務所が担当
会場は久保都島建築設計事務所(久保秀朗・都島有美)によるフィンランドの豊かな自然を象徴する「湖」をイメージしたデザイン。エリエル・サーリネンの建築の特徴である扉や窓の開口部にも注目し、デザインのモチーフにとりいれた。
ここまでは長井が書いた記事なのだが、ここからは宮沢の補足。入り口前のウェイティングスペースで流れている5分ほどの説明動画が必見だ。コメントしているのが、なんとフランク・ゲーリー!
普通、こういう動画は、主役と“同じ系統”の人がコメントしているもの。それがなぜゲーリー? 短いけれど、コメントの内容がすごい。
「コロンバスの教会(エリエルの設計で1942年に完成)を見たとき、私は膝から崩れ落ちた。私に言えることは、エリエルが建築分野で最も偉大な天才だということ。これまでも、そして現在も」。
えーっ、ゲーリーの建築と対極にありそうな、あの端正な教会が? もう、こんなコメントを聞いたら、コロンバス(米国オハイオ州)にいつか絶対に行かないとですっ!!(長井美暁、宮沢洋)
■「サーリネンとフィンランドの美しい建築」
展覧会会期:2021年7月3日(土)~9月20日(月)
開館時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:水曜日、8月10日(火)~13日(金)
入館料:一般:800円、65歳以上:700円、大学生:600円、中・高校生:400円、小学生以下:無料
主催:パナソニック汐留美術館
後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター、一般社団法人日本フィンランド協会、一般社団法人日本建築学会、公益社団法人日本建築家協会、港区教育委員会
協力:日本航空
企画協力:株式会社 キュレイターズ
会場構成:久保都島建築設計事務所
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