夏の建築展04:「プルーヴェ展」は確かに必見、「フィン・ユール展」と一緒に見て分かった“建築の身近さ”

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 話題になっている「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」を、遅ればせながら見に行ってきた。会場は江東区の東京都現代美術館。会期は2022年7月16日(土)~10月16日(日)だ。

プルーヴェ展の会場風景(写真:宮沢洋)

 結論から言うと、これはかなりのお薦めだ。建築好きで、この展覧会にがっかりという人はほとんどいないのではないか。目玉は実物大の「F 8×8 BCC組立式住宅」(ジャン・プルーヴェとピエール・ジャンヌレの共同設計、1942年、下の写真)を含む、建築パーツの実物展示。

 でも、個人的には、普段さほど関心を持たない家具の展示に今回は惹かれた。なので、勝手に「宮沢の心に刺さった プルーヴェ家具ベスト3」を選んでみた。

 予備知識として、ジャン・プルーヴェ(1901~1984)はこんな人だ(太字部、美術館のサイトより)。

 プルーヴェはアール・ヌーヴォー全盛期のフランスで、ナンシー派の画家の父と音楽家の母に育てられ、金属工芸家としてキャリアをスタートさせました。1930年代にはスチール等の新たな素材を用いた実験的かつ先進的な仕事へと転換し、家具から建築へと創造の領域を拡げていきます。また、第二次世界大戦中はレジスタンス運動に積極的に参加し、ナンシー市長も務めたプルーヴェは、フランスの戦後復興計画の一環としてプレファブ住宅を複数考案するなど、革新的な仕事を次々に生み出していきます。
(中略)
 1930年代、プルーヴェは市場の拡大にともなう大量生産の要請に応え、公共機関や大学に向けた家具を数多く手掛けました。家具のなかでも椅子はプルーヴェにとって重要であり、美しく整ったかたちを保ちつつ、剛性と人間工学に基づく合理性が交わるデザインを探求し続けました。「家具の構造を設計することは大きな建築物と同じくらい難しく、高い技術を必要とする」という彼自身の言葉が示すように、椅子はプルーヴェのものづくりの原則を反映しているといえるでしょう。

 さて、宮沢の心に刺さった1点目はこれ(制作年順)。「ブリッジ」オフィスチェアFB11(ラボリエ社、フランス)、1946年だ。座面の厚み、後ろ脚のガッシリ感。手荒に使っても100年持ちそう。

応力を形にしました、という分かりやすい三角形にキュン!

 ベスト3の2つ目は、「カフェテリア」テーブルNO.512(通称:コンパステーブル)応用型、1953年。脚の先端のすぼまり方に崇高さすら感じる。

「コンパステーブル」という通称にも納得!

 ベスト3の2つ目は、 「フォトゥイユ・レジェ」イージーチェアNO.356(通称:アントニーチェア)、1955年。一見、地味な感じだが、裏側の金具の付き方にノックアウト。裏側で魅せるという哲学がかっこいい。

 後で気づいたのだが、この椅子は本展のポスターの椅子だった。

 厳選の3つを紹介したが、会場にはグッと来る家具がわんさか。なんだか家具を見る眼力が高まった気がしてうれしくなった。

いざ、上野の「フィン・ユール展」へ

 そんな意気揚々とした気分で次に訪れたが、上野の東京都現代美術館で7月23日から始まった「フィン・ユールとデンマークの椅子」展。会期は10月9日(日)まで。フィン・ユール(1912~1989年)は、プルーヴェと同様、家具デザイナーで建築家だ。

 デンマークの家具デザイナーといえば、ヤコブセンやウェグナーは知っていたが、フィン・ユールという人は知らなった。私の家具の知識はその程度である。

 会場に分かりやすい関係図が載っていた(フィン・ユールは右の方)。

 アルネ・ヤコブセン(1902~1971年)は「多彩な完璧主義者」で、ハンス・J・ウェグナー(1914~2007年)は「クラフトマンシップの極み」、本展の主役であるフィン・ユールは「独自の審美眼」と説明されている。

 ちなみに建築家としては、この自邸(1942年)が代表作。日本の飛騨高山にこれを再現した建物があるらしい。

 展覧会の導入部分は、おなじみのヤコブセンやウェグナーの椅子がずらっと並んでいて、テンションが上がる。

 そして、いよいよ「フィン・ユールの世界」へ。よし、プルーヴェと同じように、心に刺さる3つを選ぼう!

展覧会は2フロアを使って行われており、フィン・ユール関連は主に下のフロア

 と思ったのだが、あれ、選べない。グッと来ない。なんとか1つ、心が寄れ動いたのがこれだった。イージーチェア、1940年代。

 なぜ、自分はこれが好きなのかと自分自身に問うと、この椅子のひじ掛け部分に使われている成型合板の“二次元性”が好きなのだと気づいた。いかにも量産に向いていそうだ。

 そして分かったのは、私がプルーヴェの家具を初見でも評価できるのは、「つくりやすい」とか「耐久性がある」とか、合理性が形となって表れているからなのだ。その工夫と苦労を想像してグッとくる。 プルーヴェの場合は、小さな家具であっても、建築の美的判断規準をそのまま適用して判断しているのである(無意識のうちに)。

プルーヴェが講義で描く絵がめちゃくちゃ分かりやすい! グッとくる!!

 しかし、フィン・ユールの椅子のほとんどは純粋に彫刻的で、私にはそれを判断する美意識が備わっていなかったのだ。導入部のヤコブセンやウェグナーの椅子を見てテンションが上がったのは、判断しているのではなく、「知っている名作椅子」ばかりだったから。家具の道はまだまだ険しかったのである(涙)。

 ただ、2つの展覧会を見比べたことで、「自分にとって家具よりも建築の方がとっつきやすい理由」を発見できたことは大きな一歩だった。もしかしたら逆の人もいるかもしれないので、そういう人がいたらぜひ話を聞かせてほしい。(宮沢洋)

■ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで
会期:2022年7月16日(土)~10月16日(日)
休館日:月曜日(7月18日、9月19日、10月10日は開館)、7月19日、9月20日、10月11日
開館時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/地下2F
観覧料:一般 2,000円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 1,300円 / 中高生800円 / 小学生以下無料
公式サイト:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/Jean_Prouve/

■「フィン・ユールとデンマークの椅子」
会期:2022年7月23日(土)~10月9日(日)
会場:ギャラリーA・B・C
休室日:月曜日、9月20日(火)※ただし、8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:一般 1,100円 / 大学生・専門学校生 700円 / 65歳以上 800円
公式サイト:https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_finnjuhl.html