和モダンの巨匠・大江宏の「東京讃岐会館」が突如閉館、コロナの余波ここにも

Pocket

 建築家の大江宏の設計で1972年に完成した「東京讃岐会館(東京さぬき倶楽部)」が、4月30日に閉館した。閉館は当初、今年8月31日の予定だったが、コロナ自粛による利用者減のため、4カ月前倒しの閉館となった。

 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造、地下1階・地上12階。宿泊施設と飲食店、宴会場、会議室などから成る。設計は、大江宏建築事務所、施工はフジタ工業。

 設計者の大江宏(1913~89年)は、明治神宮造営の主任技師を務めた大江新太郎(1879~1935年)の長男として生まれ、東京大学建築学科在学中には丹下健三や浜口隆一らと交流。父親譲りの和の感性とモダニズムの理念を併せ持った独特の建築を設計した。代表作には、法政大学55年館(1955年)、香川県文化会館(1965年)、普連土学園(1968年)、国立能楽堂(1983年)などがある。

 東京讃岐会館は当初、香川県庁生協が運営していたが、2003年から株式会社喜代美山荘が運営事業者となり、「東京さぬき倶楽部」の名称で営業していた。しかし、今年2月に、「三田地区再開発及び建物の老朽化、設備の不具合が多発し、継続する事が困難となり、本年(2020年)8月末をもって閉館となりました」(東京さぬき倶楽部のWEBサイトより)と発表していた。

 ところが4月14日、香川県のWEBサイトで突如、閉館を4カ月繰り上げることが発表された。以下、同サイトから引用する。

 「東京讃岐会館(東京さぬき倶楽部)は、本年8月31日をもって閉館の旨をお知らせしていましたが、新型コロナウイルス感染症の東京都内での感染拡大や緊急事態宣言により、利用客が激減し、8月末までの運営が難しいことから、閉館時期を前倒し、4月30日をもって閉館することとしましたのでお知らせします。(中略)

【閉館前倒し理由】
 同会館は、本年2月21日に、事前の6か月の周知期間を設けた上で、本年8月31日をもって閉館する旨をお知らせしたところです。

 運営事業者からは、新型コロナウイルス感染症の東京都内での感染拡大や緊急事態宣言により、県民の東京での宿泊、県人会の活動・交流などのキャンセルが相次いでおり、閉館を前提としている中で、これ以上の運営が難しい旨の話がありました。

 こうしたことを受け、県としても、閉館日の前倒しはやむを得ず、本年4月30日をもって、同会館を閉館することとしましたのでお知らせします」

 よほどバタバタと決まったのか、東京さぬき倶楽部のWEBサイトでは閉館日の4月30日時点でも、「本年8月末をもって閉館」というお知らせのままだ。

独特の装飾が建築好きのツボ

 東京讃岐会館があるのは、東京メトロ・麻布十番駅から徒歩5分ほどの閑静な場所。

 私事ながら、前職のオフィスがここの近くにあった時期があり、慰労会などで利用したことがある。派手さはないものの、和とも洋とも言いづらい繊細な装飾が施されており、建築好きのツボにはまる建築だった。

 特に目を引くのは、玄関を入ってすぐのところにあるフロントの吹き抜けだ。四角い平面をらせん状に上昇する階段と、スチールの落下防止柵が独特。天井のワッフルスラブも存在感がある。

 照明や開口部の装飾の細やかな模様にも見入ってしまう。

 ロビーは光を柔らかく拡散する天井の装飾に注目。

 家具はジョージ・ナカシマのコノイドチェアなどが置かれていた。

 庭側(南側)には日本庭園があり、テラス席が設けられていた。

 閉館の理由の1つが「三田地区再開発」なので、建物が残る可能性は低いだろう。コロナの自粛期間が解けたら、香川県にはせめて建物内をじっくり見学する機会を設けてほしい。(宮沢洋)