建築の中心は前橋へ? 話題の白井屋ホテルに芦沢啓治氏設計のカフェが開店

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 あの“裏通り”にこんな大行列ができるとは想像していなかった。ブルーボトルコーヒージャパン(東京都江東区)は9月17日、群馬県前橋市本町のブルーボトルコーヒーの新店舗「白井屋カフェ」を開業した。写真右手の緑の丘を見て、ここがどこかお分かりだろうか。そう、藤本壮介氏の大胆リノベーションで昨年12月にオープンした白井屋ホテルである。

(写真:宮沢洋)

 ホテルについて詳しく知りたい方は下記の記事をご覧いただきたい。

衝撃の迷宮的吹き抜け、藤本壮介流リノベーション「白井屋ホテル」を見た!

 この日は前橋方面に用事があったこともあり、早起きして開店前の内覧会に参加。午前10時の開店時には約100人の行列ができていた。

 ブルーボトルコーヒーは米国・カリフォルニア州発祥。世界各地で調達した高品質のコーヒー豆を厳格に管理して提供する。日本では江東区の専用工場で焙煎し、各地に届けている。東京や京都など大都市に23店舗を展開しているが、地方都市への出店は前橋が初めてという。

カリモクが制作した家具の精度にも注目

 ブルーボトルコーヒーといえば、店舗のオシャレさも売り。今回の白井屋カフェの設計は、「ブルーボトル コーヒー みなとみらいカフェ」(2020年)「ブルーボトルコーヒー 渋谷カフェ」(2021年)に続いて3店目となる建築家の芦沢啓治氏が担当した。以下はプレスリリースより。

 ドリップステーションが正面に配置されたカフェには、外からの光が差し込み、心地よくお過ごしいただけるようデザインされています。前橋市内の歴史的な建物、また白井屋ホテルでも使用されているレンガをキーマテリアルとして採用し、床の素材として使用することで、周りとの一体感を生み出しました。

 メインのシーティングとしてカフェのセンターに設置された長丸型のソファは、芦沢氏がデザインし、カリモク家具が制作いたしました。どの向きからでも座ることが可能で、カジュアルにコーヒーをお楽しみいただきながら、カフェのデザインや外から差し込む光を楽しめるように作られています。

 オープニングには芦沢氏も来ていたのでパチリ。

 芦沢氏からの補足情報。インテリアのポイントに銅板を使ったのは、足尾銅山など「銅」が群馬県の発展を支えた素材であることを意識したという。中央の長丸型ソファの色も、銅をイメージしたという。

すごい施工精度のダストボックス

 はるばる訪ねた甲斐があって、オープニングの期間限定・コラボレーションメニューもいただいた。「ブルーボトルコーヒー×なか又 ふわふわ わぬき コーヒークリームとあんこ」。スイーツを語るボキャブラリーがないので、以下、リリースより。

 群馬・前橋市の和菓子屋「和む菓子 なか又」の看板メニューである、たっぷりのメレンゲを加え、しっとりふわふわに仕上げたどらやき「ふわふわ わぬき」。「ブルーボトルコーヒー × なか又 ふわふわ わぬき コーヒークリームとあんこ 」は、職人による熟練の技術で、一つひとつ丁寧に焼き上げたどら焼きの生地に、ブルーボトルコーヒーの定番ブレンド「スリー・アフリカズ​​」を使用した甘さ控えめのコーヒークリームと、「和む菓子 なか又」特製の自家製あんをサンドし、表面にはブルーボトルのロゴを焼印で入れていただきました。ふわっと口溶けの良い生地とありそうでなかったコーヒークリームとあんこの組み合わせをお楽しみいただけます。

 まさにリリースどおりのふわふわさ! このメニューは期間限定だが、「ふわふわ わぬき」はここから徒歩2分ほどの「和む菓子 なか又」(店舗デザイン:長坂常/スキーマ建築計画)で購入できる。

これは白井屋ホテルではなく、 「和む菓子 なか又」 の屋外スペース

田中仁氏も馬場川のにぎわいに手応え

 そして、これもはるばる訪ねた甲斐があって、ホテルのオーナーであり、一連の前橋建築 プロ ジェクトの仕掛け人である田中仁氏(株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEO)と話をすることができた。 

田中仁氏。まちの人に溶け込んで、普通に行列を見ていた

 田中氏も「こんなに行列ができるとは思わなかった」と驚く。そして、「この通りはこれからどんどん面白くなりますよ」と言う。

 記事の冒頭に“裏通り”と書いたが、白井屋ホテルには2つの顔がある。表通りである南側の国道50号側はこんな外観だ。

2020年12月撮影

 今回のカフェがオープンした北側は、馬場川に沿って東西に延びる一方通行の細道。ホテルのリニューアルでは、かつて駐車場だった北側に、3つの店舗スペースを設け、こちらにも顔をつくった。現状では決して、人通りが多いとは言えない。ホテルの開業前に来たときには、「本当に商業が成立するのか?」と思った。

2020年12月撮影
工事前の北側外観(写真:白井屋ホテル)

 馬場川沿いには、先行して西側の「白井屋ザ・パティスリー」が今年2月にオープン。11月初旬には3店目の「白井屋ザ・ベーカリー」が真ん中にオープンする。ベーカリーの店舗設計は建築家の柳原照弘氏だ。

 白井屋ホテルの敷地を出て、2軒東側にある和風住宅は、ジンズが谷尻誠氏の設計でプロジェクトを計画している。

右奥が白井屋ホテル。写真左方向に歩くと「アーツ前橋」(設計:水谷俊博建築設計事務所)がある

 「前橋市アーバンデザイン」のリーディングプロジェクトとして馬場川通り遊歩道公園の改修計画も始まる。

 この日のようなにぎわいが、いずれ当たり前になるのかもしれない。

2020年代の建築の中心は前橋へ?

 そして、詳細は後日になるが、白井屋ホテルから北に徒歩数分の市街地で、田中氏が関わる大規模な再開発の検討が進んでいるという。

再開発対象地の一画。お知らせ看板には「(仮称)Qのひろば新築工事」「設計者:平田晃久建築設計事務所」と書かれている

 今回は別件のついでに寄ったのだが、これからはこちらが主目的で前橋に通うことになりそうだ。

 そして、せっかくなのでこれも。

 永山祐子氏が設計を手がけた「ジンズ パーク」。今年4月にオープン。そうか、この建築も群馬だから銅板なのかと、芦沢氏の話を聞いて勝手に納得した。外観も面白いけれど、これはむしろ内部を見る建築。場所は白井屋ホテルから車で15分ほど(群馬県前橋市川原町1-21-9)なので、車で行く人は必見。(宮沢洋)