夏の建築展01:ギャラ間のSUEP.(スープ)展は「エシカルな建築」を社会に発信するのに最適

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 6月に入ってから都内で始まった3つの建築展をリポートする。いずれも内覧会や初日が出張と重なってしまい、既に他メディアで報道されているものもある。悔しい……。なので、得意の弾丸ツアー形式で、3件を効率的かつオーバーレイ的に見て回る。

(写真:宮沢洋)

 1件目は東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間(以下、ギャラ間)で6月8日から始まったSUEP.(スープ)の展覧会「Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」だ。SUEP.は末光弘和氏と末光陽子氏が共同主宰する設計事務所。私は、この人たちが登場してから、食べ物のスープのつづりがいつも分からなくなり、その度に調べている(答えは「Soup」)。

 展覧会のタイトルは「Harvest(恵み)」だが、本展を見て私の頭にずっと浮かんでいた言葉は「エシカル」だ。日本語だと「倫理的」。私は事務所にいるときにはほぼ1日中FMラジオを聴いているのだが、ここ1~2年、この言葉をFMラジオで聞かない日は1日もないように思う。「エシカル」が言わんとしていることは「サステナブル」や「SDGs」と同じだが、そうした取り組みをより日常に引き寄せ、ひとつひとつの行為の持つ意味を説明し助言するのがエシカル番組に共通するところだ。

 この展覧会、エシカル番組を聴くのにとても似ている。いや、音声解説があるわけではなく、情報はほぼ視覚からなのだが、その説明内容の伝わりやすさがエシカル番組のようなのだ。すべてのプロジェクトに「なるほど」「ほおっ」と心の中でつぶやいてしまう。そして、見せ方が泥臭くなく、さらっとしている。

2016年の三分一博志展と対照的

 そう思っている自分が何と比較しているのか、途中で気づいた。2016年に同じギャラ間で開催された三分一博志「風、水、太陽」を頭の奥の方で重ねていたのだ。三分一氏もSUEP.と同様に、地球環境から設計を進めていく建築家だ。2016年の三分一展は、私がギャラ間で見た数々の展覧会の中でも特に印象深いものの1つで、建築展というよりも、あやしげな実験ラボのような雰囲気だった。

 当時、日経アーキテクチュア編集長だった私は、編集長コラム「建築日和」にこう書いている。「こんな建築展は見たことがない。小学校の理科室を思い出させるドキドキ感。三分一博志展、必見」。ちなみに、建築日和のイラストルポは今も無料で見ることができる(こちら)。

 いいとか悪いとかではなく、本展にはそういう泥臭さ、あやしさはない。三分一博志氏は私と同世代の1968年生まれだが、末光弘和氏は8歳下の1976年生まれ。世代の違いもあるし、コンピューター・シミュレーションの染み込み度合の違いもあるだろう。いいとか悪いとかではなく、本展の方が「一般の人」にはとっつきやすいと思う。

 ならば、このとっつきやすさをもっと社会に発信してほしい。ラジオでもテレビでも新聞でも、展覧会の会期中(9月11日まで)にどんどんメディアに出まくるべきだと思う。これは、建築界だけで見て喜ぶような類のコンテンツではない。そこはギャラ間の人たち、もうひと頑張りしてほしい(既に進んでいたらごめんなさい)。

向かう先は菊竹清訓か、吉村順三か

 展覧会を見てもう1つ思ったのは、この先、SUEP.の建築がどういう方向に向かうのだろうか、ということ。私がSUEP.の建築を最初に強く意識したのはこの住宅「Kokage」(2009年)だった。

 これを取材したとき、「菊竹清訓の再来!」と思った。井戸水の冷輻射が効きやすいように、壁の断面がY字になっている。構造・設備・空間が統合されていて、初期の菊竹建築を思わせる。

 だが、その後のプロジェクトを見ると、もっとポーラスでパッシブな空間が多い。そうしたものを見ていて、「これは菊竹清訓というよりも、吉村順三の方向に進んでいくのかも」と思った。カタチの理由を明晰に説明することができた菊竹に対し、吉村は、メディアや所員がカタチの理由を尋ねても、「だって、そうすると気持ちがいいでしょう」とはぐらかされたという逸話が伝わる。

 吉村が直感で解いていた「気持ち良さ」を、SUEP.はコンピューター・シミュレーションで解いているのかもしれない。菊竹的な強い造形の再来を期待していた自分としてはちょっと残念だが、吉村的な「気持ち良さ」の新しい形も一方で見てみたい。

 結局、展覧会の展示作品については何の説明もしていないが、それは会場で「なるほど」とか「ほおっ」とか言いながら、説明を読み込んでほしい。

 次回は、乃木坂から千代田線で湯島に向かう。(宮沢洋)

■末光弘和+末光陽子 / SUEP.展 Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち
会期:2022年6月8日(水)~9月11日(日)
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜・祝日・夏期休暇(8月8日(月)~8月15日(月))
入場料:無料、事前予約制
会場:TOTOギャラリー・間(〒107-0062 東京都港区南青山1-24-3TOTO乃木坂ビル3F)
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口徒歩1分
TEL:03-3402-1010
URL:https://jp.toto.com/gallerma
主催:TOTOギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会
特別顧問:安藤忠雄
委員:千葉学/塚本由晴/セン・クアン/田根 剛
後援:一般社団法人東京建築士会、一般社団法人東京都建築士事務所協会、公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、一般社団法人日本建築学会関東支部
協力:九州大学大学院 末光弘和研究室
関連プログラム:末光弘和+末光陽子 / SUEP.講演会 「Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」2022年7月15日(金) 18:00開演、20:00終演(予定)