東急東横店が営業終了、渋谷駅の坂倉ワールドが姿消す

Pocket

 渋谷駅周辺の再開発による取り壊しのため、東急百貨店東横店が3月31日で営業を終了した。坂倉準三が設計した“渋谷駅建築群”はすべて姿を消す。

縦格子の南館は坂倉準三の遺作

 一般の方も読まれるかもしれないので、まずは坂倉準三(1901~69年)について簡単に。

 坂倉は東京帝国大学文学部美学美術史学科を出た後、ル・コルビュジエに師事し、1937年のパリ万国博覧会で日本館の設計をコンペで勝ち取って実現。これが建築部門のグランプリを取り、日本のモダニズムを世界に知らしめた第1世代の建築家だ。国内では神奈川県立近代美術館(1951年、現・鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム)が有名。

 3月末で閉館したのは東横百貨店西館と南館。ここにはSANAAがデザインアーキテクトを務める渋谷スクランブルスクエア(下の写真中央の超高層ビル)の第2期が立ち上がる。2027年完成予定だ。

 現・西館は、坂倉準三の設計により「東急会館」として1954年に竣工。坂倉の渋谷開発デビュー作となった。東急フードショー脇に掲示されていたモノクロ写真(下の写真)を見ると、西館の北側外壁は、ガラスを多用した透明感のあるデザインだったことが分かる。現在の斜め格子の外装は、1989年の改装時のものであるという。

 南館は、坂倉準三の設計で「国鉄渋谷駅西口ビル」として1970年に竣工。坂倉はその前年の1969年に亡くなり、この建築は遺作となった。こちらの縦格子のデザインは、昔の写真を見てもほとんど変わっていない。

 これらは、名作といわれた「東急文化会館」(1956年竣工、2003年に解体されて渋谷ヒカリエが誕生)と比べると、坂倉建築のなかで特に評価の高いものではない。だが、そうはいっても巨大な面の割り方や変化のつけ方には学ぶべきものがある。

東横店サヨナラ企画も充実!

 閉館した西館の7階では、2020年の年明けから「東横デパートの思ひ出展」が開催された。展示の目玉は、渋谷駅に詳しい田村圭介・昭和女子大学准教授の研究室が制作した渋谷駅変遷模型。4段階の節目(1920年、38年、64年、2012年)の姿を3Dプリンターで模型化したもの。資料を読んでも分かりづらい歴史(位置が複雑なので飲み込みづらい)が、模型で見ると一目瞭然だ。

 3月28日からは記念冊子のプレゼントもスタート。「5000円以上お買い上げの先着2000名様に東横店の歴史をつづった『NO END-東横ターミナルデパート物語-』を1冊差し上げます」とのことで、筆者も5000円の買い物をして、この冊子を手に入れた。

 これが非売品とは思えぬ高クオリティ!!  当事務所(Office bunga)の保存版に即決定。奥付を見れば、制作したのはシブヤ経済新聞。さすがの知識と愛情だ。

 この冊子はお譲りできないが、渋谷駅と坂倉準三の関係については、2012年に田村圭介・昭和女子大学准教授が日経クロステックに寄稿したこの記事が大変参考になる(掲載当時の媒体名は「ケンプラッツ」、現在は有料記事)。

渋谷駅から消える「坂倉準三」の作品群(2012/5/24)

 外出自粛で時間のある方はじっくり読んでいただきたい。ああ、そうだったのか、東館(設計:渡辺仁)や東横線ホームももっとよく見ておけばよかった…と、懐かしさと悔しさが同時にこみ上げてくることだろう。(宮沢洋)