安藤忠雄氏の建築画から現代アートへ、大林コレクションの変遷をWHAT MUSEUMで

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 東京・天王洲のWHAT MUSEUMで、「安藤忠雄 描く」「都市と私のあいだ」「Self-History」という3つのテーマ展示による「大林コレクション展」が開催されている。会期は2022年2月13日まで。

大林コレクション展「安藤忠雄 描く」の会場入り口
Xavier Veilhan《Tadao Ando》 © Xavier Veilhan / ADAGP / JASPAR, 2021, photo by Keizo Kioku  

 共通タイトルに含まれる「大林」は、大林組の代表取締役会長である大林剛郎氏のこと。同氏は日本を代表するアートコレクターのひとりであり、公益財団法人大林財団の理事長であり、国際芸術祭「あいち2022」の組織委員会会長も務める。本展はそんな大林氏のコレクションを紹介するにあたり、3つのテーマに分けて展示を行い、コレクションの変遷がわかるようにしている。

建築倉庫ミュージアムが生まれ変わって、WHAT MUSEUMに

 主催・会場の「WHAT MUSEUM」は寺田倉庫が運営する芸術文化発信施設で、2020年12月にオープンした。同社がコレクターから預かり保管する貴重なアート作品の公開を目的とし、「WHAT(Warehouse of Art TERRADA)」という名称には「倉庫を開放、ふだん見られないアートを覗き見する」というコンセプトが込められている。場所は、同社が以前運営していた建築倉庫ミュージアムと同じだが、2階の展示空間が増えた。

WHAT MUSEUMの入り口(写真:長井美暁、特記以外は以下も)

 このWHAT MUSEUMのオープンに伴い、建築倉庫ミュージアムは「建築倉庫プロジェクト」と名称を改め、WHAT MUSEUM内で建築に特化した展示を継続。隣接する「模型保管庫」で建築模型の保管・展示も続けている。なお、模型保管庫の見学も希望する場合は「模型保管庫見学+WHAT MUSEUMチケット」を購入する必要がある(時間・人数限定、要予約)。

 さて、大林コレクション展では「安藤忠雄 描く」「都市と私のあいだ」「Self-History」をこの順に見ることをお勧めする。大林氏は1990年代後半から建築家の平面作品(ドローイングや版画)の収集を始め、「安藤さんの平面作品は私のコレクションの出発点といえるもの」と話す。そのコレクションは現在、850点前後を数える。2006年には安藤氏の設計で都内にプライベートギャラリー「游庵」を建て、それ以降はインスタレーション作品なども積極的にコレクションに加えるようになったという。

 1番目の「安藤忠雄 描く」の展示室で来場者を迎えるのは、フランス人アーティストのグザヴィエ・ヴェイヤン氏が安藤氏をモチーフにつくった高さ約2mの彫刻作品だ(冒頭の写真)。これはヴェイヤン氏の「The Architects」という作品シリーズの1つで、ヴェルサイユ宮殿での展覧会(2009年)のために制作された。

 その奥に、「住吉の長屋」や「光の教会」など安藤氏の初期作品のスケッチ、未完のプロジェクト「宇都宮プロジェクト」や「中之島プロジェクトⅠ(大阪市役所)」の平面作品、2000年の上海ビエンナーレで制作された長さ10mの「ベネッセハウス−直島コンテンポラリーアートミュージアム」のドローイングなどが展示されている。繊細、あるいは力強い筆致に、安藤氏が建築に向き合う姿が浮かび上がる。

安藤忠雄「光の教会のための習作」。左側にはあの似顔絵の朱印も
安藤忠雄「中之島プロジェクトⅠ(大阪市役所)」
安藤忠雄「ベネッセハウス−直島コンテンポラリーアートミュージアム」
安藤忠雄「兵庫県立美術館のための習作」

ひとりのコレクターの変遷の記録

 2番目の「都市と私のあいだ」の展示室では、9人のアーティストがそれぞれの視点で都市を捉えた写真作品を見ることができる。これらは大林氏の興味が建築のドローイングから現代美術へと広がるなかで集められたものだ。

 上の写真の左手に見える2点の大きな写真作品は、解体前後の大阪スタヂアムを撮った畠山直哉氏の「untitled / Osaka」シリーズだ。同球場は最後に住宅展示場として使われてから解体された。その変遷を切り取っている。

 こちらはルイザ・ランブリ氏の「Untitled(Barragan House)」シリーズで、ルイス・バラガン邸での時間の変化と私的な経験を映し出している。また、トーマス・デマンド氏の「Museum H 64」は、妹島和世建築設計事務所が「すみだ北斎美術館」を設計中、アトリエで日々生み出された建築模型が被写体となっている。

デマンド氏の写真は、妹島事務所による「すみだ北斎美術館」のスタディ模型とともに展示(photo by Keizo Kioku)

 3番目の「Self-History」は、大林氏が自ら企画を手がけた。2階の展示空間をまるごと使い、40点を超える現代アート作品を展示している。美術史に明るくないので一般的な目になるが、作品はどれも面白く、見ていて引き込まれる。そして収集作品の多様さに驚く。大林氏によると、それは「個人的な出会いや経験がもたらした結果」であり、「今回の展覧会は、現代美術の表現形態の多様な広がりを示すと同時に、ひとりのコレクターの変遷の記録でもある」という。

大林コレクション展「Self-History」の会場風景。4つのセクションに分かれている(photo by Keizo Kioku)

 ひと粒で2度ならぬ3度美味しい本展。時間にゆとりを持って訪れたい。会場の近くには寺田倉庫が運営する「WHAT CAFE」をはじめ複数の飲食店があり、運河に面して開放的な雰囲気のなかでお茶もできる。また、寺田倉庫G1ビルでは「バンクシーって誰?展」が2021年12月5日まで開催中だ。あわせて楽しんではいかが。(長井美暁)

■展覧会概要
大林コレクション展「安藤忠雄 描く」「都市と私のあいだ」「Self-History」
会期:2021年9月25日(土)〜2022年2月13日(日)
会場:WHAT MUSEUM(東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号)
開館時間:11:00〜18:00(入館は17:00まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日が休館)、年末年始
入場料(3展示室あわせて):一般1,200円、大学・専門学校生700円、高校・中学生500円、小学生以下無料 
※オンラインチケット制
公式サイト:https://what.warehouseofart.org/