約30年ぶりのF.L.ライト回顧展が豊田市美術館で開催中、隣地には坂茂氏設計の博物館が姿見せる

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 愛知県の豊田市美術館で10月21日から始まった「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」を見てきた。会期は12月24日(日)まで。

(写真:宮沢洋)

 豊田市美術館といえば、建築家・谷口吉生氏の代表作の1つ(1995年竣工)で、この建築を見るだけでも行く価値がある。着いたのが16時ごろだったので、展示室に入る前に、夕暮れの外回りを堪能。

うーん、これってどこの国?

 北側を見ると、美術館の隣地に建設現場が…。

 あ、これって坂茂氏がプロポーザルで取った豊田市博物館か! 1年後の2024年秋に全面開館予定。外構は、美術館の庭を設計した米国のピーター・ウォーカー氏に依頼して統一感を出すという。また1年後に来なければ…(博物館の詳細はこちら)。

豊田市博物館の完成予想図(豊田市博物館の公式サイトより)

ライト展の監修はケン・タダシ・オオシマ氏

 ライト展の展示室に向かおう。本展では、フランク・ロイド・ライト(1867~1959年)による建築の設計図や都市の計画図、デザインを手がけた家具、図面・建築ドローイングなど約430点を展示している。ライトの本格的な回顧展は、「国内では26年ぶり」と報道されている。

 26年前には日本でライト展があったのか…。筆者はライトの展覧会を見るのは初めてだ。調べてみると、26年前の展覧会は、1997年に千葉県の佐倉市立美術館で開催された「フランク・ロイド・ライトと日本展」のようだ。これは日本との関係に限定した内容。その6年前の1991年には、東京のセゾン美術館→京都国立近代美術館→横浜美術館→北九州市立美術館に巡回した「フランク・ロイド・ライト回顧展」があった。つまり、「32年ぶりの大回顧展」の方がしっくりくる。

 本展の監修者はワシントン大学建築学部教授のケン・タダシ・オオシマ氏。2017年にニューヨーク近代美術館で大々的に開催されて話題を呼んだ「Frank Lloyd Wright, Unpacking the Archive」展の企画メンバーであったケン・タダシ・オオシマ氏と、ジェニファー・L.グレイ氏による全面協力のもとに本展は実現した。大きな構成はこんな流れだ。

1)モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観
2)「輝ける眉」 からの眺望
3)進歩主義教育の環境をつくる
4) 交差する世界に建つ帝国ホテル
5)ミクロ/マクロのダイナミックな振幅
6)上昇する建築と環境の向上
7)多様な文化との邂逅

 「約430点」という数からも分かるとおり、展示室はかなり広い。だが、残念ながら、写真撮影はごく一部に限られていた。

これらの写真から会場内を想像してほしい…

 いろいろ知らなかったプチ情報を知ることができて面白かったが、筆者が個人的に知りたかった疑問は解決されなかった。むしろ、新しい疑問が増えてしまった。

なぜ白ツル? なぜ超高層? 疑問は深まる…

 知りたかったのは、ライト最晩年の作品、正確には亡くなってから完成した「グッゲンハイム美術館」(ニューヨーク、1959年竣工)のこと。筆者も4年前に実物を見た。とても感動的な建築だ(そのときに書いた記事は下記)。

 だが、この建築ってそれまでのザラザラ・こちょこちょしたライトの建築と連続性が感じられない。“遅れてきたバウハウス”みたいな白ツルのデザインにしたのは、なぜなのか。

 ライト展の説明パネルには、都心で水平性を実現できないライトがスパイラル(らせん)に水平性を見いだした、というようなことが書いてあった(説明パネルも撮影不可なのでうろ覚え)。だが、なぜ白ツルなのかの説明はなかった。

 増えてしまった疑問は、ライトが超高層ビルをたくさん計画していたこと。実現したのは「プライス・タワー」(オクラホマ州、1956年)1つだけだそうだが、「マイル・ハイ・イリノイ計画案」という高さ1マイル(1600m)もある超超高層ビルも構想していた。ライトってアンチ超高層な人ではなかったのか…。それらのイメージ図を見ると(Wikipediaはこちら)、筆者には「有機的建築」にはとても思えないのだが、そこにはどういう論理的つながりがあったのか。

 駆け込みで1時間くらい見て読み取ろうという考えが甘かったのかもしれない。年明けには東京のパナソニック汐留美術館にも巡回するので、もう一度じっくり見に行くことにしよう。(宮沢洋)

 
フランク・ロイド・ライト  世界を結ぶ建築 <巡回予定>
2023年10月21日(土)〜12月24日(日)
豊田市美術館
2024年1月11日(木)〜3月10日(日)
パナソニック汐留美術館
2024年3月20日(水)〜5月12日(日)
青森県立美術館

豊田市美術館 <詳細>
フランク・ロイド・ライト  世界を結ぶ建築
帝国ホテル二代目本館100周年
主  催: 豊田市美術館、フランク・ロイド・ライト財団
共  催: 中日新聞社
特別協力: コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館、株式会社帝国ホテル
助  成: 公益財団法人ユニオン造形文化財団
展示協力: 有限責任事業組合 森の製材リソラ
後  援:アメリカ大使館、一般社団法人日本建築学会、公益社団法人日本建築家協会、 一般社団法人DOCOMOMO Japan、有機的建築アーカイブ

観 覧 料: 1,400円[1,200円]/高校・大学生: 1,000円[800円]/中学生以下無料
会期中、一部展示替えを行います。
前期11月19日[日]まで/後期11月21日[火]から
監修者: ケン・タダシ・オオシマ氏(ワシントン大学建築学部教授 )
特別アドヴァイザー: ジェニファー・グレイ氏(フランク・ロイド・ライト財団副代表、タリアセン・インスティテュート・ディレクター)
公式サイト:https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/frank_lloyd_wright/