ChatGPTや画像生成系AIを使ってみてこう思う──山梨知彦連載「建築の誕生」03:デジタル/アナログ

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 前回は「内/外」と題して、僕にとっての建築の原点は建築の内部と外部のつながりにあり、その内外のつながりの妙味の中に「建築の誕生」の手掛かりがあるとの想いを述べさせていただいた。

 今回は「建築の誕生」へと近づくための「道具」として、「デジタル/アナログ」について考えてみたいと思う。一般的には対立の構図として置かれそうなこの両者であるが、僕がたどり着いた「建築の誕生」への術は、「デジタルも、アナログも」というどん欲なものだ。

■生成系AI

 昨年の後半からコロナによる規制が緩和され、講演会などで話をする機会も増えてきた。僕は、その度に飽きもせず「2023年はAI統合元年になる!」と繰り返し唱えてきた。その理由は、今、世間を騒がせている言語生成系AI の「ChatGPT」や、画像生成系AIの「Stable Diffusion」などを、2022年末、登場と同時に自分で実際に使ってみて「これは使える!」と確信したからである。しかし、どういうわけか、「建築の誕生」に最も近い立場にいる建築家の中には、デジタルを生理的に嫌うテクノフォーブが多い。「デジタルか? アナログ?」というテクノフォビアにさいなまれた方々をこの道に誘い込むため(笑)、ここでその使い勝手を簡単に再現してみたいと思う。

 ChatGPTに「建築分野において、炭酸ガスの排出を、建設時にも実際の運用時にも、効率的に抑制するための具体的な手法を教えて。」と日本語で入力してみると(ChatGPTは本来は英語で使うのが標準だが、AIにより多言語を理解する能力も備えている)、すぐに次のような回答が返ってきた。(太字部)

「建築分野において炭酸ガス(二酸化炭素)の排出を抑制するためには、以下の具体的な手法を考慮することが重要です。

1.エネルギー効率の向上: 建物の断熱性能を向上させることで、冷暖房のエネルギー使用量を削減できます。断熱材の改良や高性能窓の導入などが効果的です。また、エネルギー効率の高い設備や照明の採用も重要です。

2.再生可能エネルギーの利用: 建物に太陽光パネルや風力発電装置を設置し・・・(中略)・・・効率的な運転を維持します。

これらの手法は、建築物のライフサイクル全体で炭酸ガス排出を削減するための方法です。建築家、設計者、施工者、運用管理者など、建築に関与するすべての関係者が協力して取り組むことが重要です。また、地域の規制や認証制度に基づいた指針や基準に従うことも推奨されます。

 このように、優等生的な回答がごく自然な日本語で「生成」された。悔しいが、「自分の頭ではまだかたちになっていなかった」もやもやしたものが整理整頓され、うまい具合にまとられているような気がした。不明点やもっと知りたいことがあれば、会話を続けることで次々と答えてくれる。いかがだろうか? すぐにでも仕事に使えそうではないか。

 次は、よりデザインワークにより影響が大きそうな画像生成系AIを試してみた。画像生成系AIの一つ「Stable Diffusion」に、僕好みの建築や都市デザインを連想させる英単語8語ほどをカンマで区切りながら入力してみると、数十秒から数秒で次のような画像が生成された。パラメータを調整しながら、1時間ほどで約100枚の画像が「生成」できた。その中から「自分の頭ではまだかたちになっていなかった新しい方向を示唆」しており、実務のヒントになりそうなものを感覚的に選んだ。次の画像がそれだ。

 ChatGPTが生成する優等生的な回答と比べると、Stable Diffusionが生成してくれる画像は、質にばらつきがあるが、それがむしろ、デザインのインスピレーションを与えてくれる気もする。しばらく使ってわかってのだが、入力する言葉や文章の違いによって、生成される画像の精度は大きく変わる。生成系AIとの会話のコツを覚えると、生成系AIが生成してくれる画像の質も大きく高まることも体験した。

 僕は直感的に、生成的AIは「建築の誕生」に繋がる可能性を持つ「道具」であると感じた。

 色々と試してみると、固有名詞に関連する情報や(ChatGPTの中でも正確に答えられないと明記されているように)、情報源の透明性、重要情報の漏洩などに関しては問題があることもわかってきた(MicrosoftのBingはChatGPTと同様の問題に改善が見られる)。しかし、利用者が判断し、適切な選択、調整、修正を加えることを前提とすれば、生成系AIは、クリエイティブな作業の基盤となるテキストや画像を生み出す「道具」として既に十分に実用的なレベルに達していると実感した。おそらく、建築の分野以外でも、多くの新しもの好きとデジタルフォーブたちが生成系AIに触れて、僕と同様な感触を得たり真逆の恐怖心を感じたりして、昨今の生成系AIを巡る論争が活発化したのだろう。

 ちなみに、この生成系AIに入力する言葉の羅列や会話は「プロンプト」と呼ばれているが、生成系AI先進国のアメリカでは既に「プロンプトエンジニア」と呼ばれる新しい職業が生まれたそうだ。多くの企業や研究機関が生成系AIに興味を持ち始め、AIにどのようなプロンプトを叩き込むべきかという実践的なノウハウを持った専門家の需要が急増し、転職エージェントがそういった人々を「プロンプトエンジニア」と呼び、高額で企業に人材を紹介しているらしい。

 さらに調べてみると、日本語からプログラミング言語を用いたスクリプトを生成出来る力も兼ね備えていることが分かってきた。自然言語でアルゴリズムを打ち込むと、ChatGPTはPythonなどのプログラミング言語でスクリプトを生成してくれる。最近も、「生成系AIを使えば、プログラミングが出来ない人間でもコンピュータ―ウィルスをつくることが出来る!」と、スキャンダラスな報道もされていた。

 こうした状況を見て、「使い勝手の悪いBIMや3DCADが生成系AIと統合され劇的に使いやすいツールに進化する日が近づいているのでは?」という期待を抱き、僕は「2023年はAI統合元年になる!」というコメントをしたのだ。
現時点では、CADやBIMソフトウェアに生成系AIが統合され、画期的な設計ツールが登場しているという情報は確認できていない。ただし、マイクロソフト社が自社製のビジネスツールに生成系AIを搭載し、大幅に進化させるという発表はありました。このような動きを見ると、生成系AIが私たちの仕事の道具を変える流れは、DXの大きなトレンドの中で主流になりつつあるように思う。多少の遅延はあるかもしれないが、「2023年はAI統合元年になる!」という僕の予言は、的中したと言ってよいのではないか。

■テクノフォーブ

 新たな時代を牽引するような力強くて革新的なものが登場すると、その存在に賛同する人々と、嫌悪や恐れを感じる人々とが必ず現れる。生成系AIについても、G7の国々がその規制ルールについて協議するなど、大きな騒ぎを引き起こしている。しかし、新しい技術は、先ず先ず使ってみる必要がある。恐れて使わなければ、それが何者であるかわからない。使ってみて、検証し、その上で使い続けるべきか否かを考えることが大事なのである。

 一方で、新しもの好きな僕みたいな輩は、テクノロジーを極度に恐れる人々を多少軽蔑の念を交えつつ「テクノフォーブ」と名付け、揶揄したがる悪い癖を持つ。確かに、彼らが抱く根拠が乏しい懸念に対して眉をひそめたくなることもある。しかし、新しい技術を社会実装していくためには、使ってみて、それを批評的に評価して、実装すべきか否か、はたまた実装に当たってはどこを改良すべきかなどを考える必要もある。

 生成系AIに対する疑義や指摘には、僕も共感を覚えるものがある。たとえば、生成系AIがアウトプットを生成するソースや手順はブラックボックスであり透明性に欠けるという点、生成系AIが特定のアーティストや作家のスタイルを学習し模倣すること、生成系AIが使用するテキストや画像そのものが著作権侵害などに当たる可能性への懸念などである。さらに、従来のデジタル技術とは異なり、「生成」というプロセスが人間の創造性を脅かす可能性も指摘され、数年前にバズワードとなったシンギュラリティや2045年問題といった悲観的な意見に比べ、今交わされている議論は冷静で批評的な視点の解像度が高まっているようにも見える。

 合理的な懸念に対しては、丁寧な議論を行う必要があると思うが、例えばイーロン・マスクが提唱している「生成系AIの開発を半年間停止すべき」といった立ち止まる対策は、意味がないだろう。なぜなら、最新の技術やデジタル技術などは、開発し使いながら考えない限り、その新しい技術がもたらす可能性についても、危険性についても、頭で考えたことを超えるフィードバックを体験することが出来なくなってしまうからだ。最新の技術やデジタル技術の開発や応用には、開発し、使いながらそこでの体験をフィードバックして考えることが重要だと思う。

■デジタルを道具として使う3つの方向

 僕自身は、デジタル技術推進派だ。偶然にも、僕が建築デザインを続けてきたここ数十年は、デジタル技術の変化から大きな影響を受けた時代と重なっていた。そのため、デジタル技術を建築設計のツールとして実務に取り入れる機会に恵まれていた、新しもの好きだから先ず使ってみて、デジタルツールの恩恵を体感する中で、「デジタルは使える」と感じてきたと自己分析している。この経験を通じて、建築のデザインにおけるデジタル技術の使い方には以下の3つの方向があると考えるようになった。

 まず1つ目は、「建築や都市を設計するための道具」としてのデジタル技術の利用だ。2次元CADやBIMがその代表的な例。CADやBIMのデジタルデータを使用してシミュレーションを行うなど、デジタルデザインによる設計精度の向上が図られている。

 2つ目は、「建築や都市を建設するための道具」としてのデジタル技術の利用だ。デジタルファブリケーションを通じて設計情報とデジタル情報を連携させることで、建築物の製造精度を向上させることに注目が集まっている。また、測量や建設重機の自動操縦など、さまざまな方向でも拡張が進んでいる。

 3つ目は、「建築や都市をコントロールするための道具」としてのデジタル技術の利用だ。空調や照明などの設備機器を自動制御するため、建築の各部にIPアドレスと操作のためのアクチュエーターを持たせることで、より複雑な建築の制御がインターネットから出来る「IoT(Internet of things モノのインターネット)」などの技術が生まれた。

 最近では、建築や都市のデジタル情報を複数連動させることで多目的最適化を図り、建築や都市を生成的に設計し、建設し、デジタルツインなどを介してコントロールする「コンピュテーショナルデザイン」といったデジタル技術を実務の中での利用する試みが進んでいる。そして今、生成系AIが登場して、これらの状況を加速させている。

■手で考える

 このように書くと、生成系AIの出現、特に「生成」という概念は、これまでのモノづくりやデザインの概念を根底から揺るがす「今までにはないもの」のように感じるが、実はこれまで使って来た古典的な道具、例えばスケッチや模型にも「生成」的な側面があったのではないかと考えている。

 いささかエキセントリックに聞こえるかもしれないが、実は僕自身は、生成系AIが描き出す精緻で刺激的なスケッチを見て「建築の誕生」を目指している時も、古典的な道具を使ってデザインを考えている時も、どちらにも「生成的」なるものを感じてきた。一般的には、建築家がスケッチを描くのは、頭の中にある完成されたイメージを視覚化する作業だと考えらえているようだが、それは誤解ではなかろうか。建築家がスケッチを描き始めるとき、実は頭の中には曖昧模糊としたイメージしかない状態である。一瞬キラリとアイデアが浮かんだような気がしても、たった一度のスケッチで正確に描き留めることは難しく、頭の中と手が描くスケッチには常に「ずれ」が起こる。

 でもその頭の中にあるものと少しずれたスケッチを描いてしまうことこそが、実は「建築の誕生」へとつながっている気がしている。自分の手で描いたにもかかわらず頭の中にあるかすかなイメージとは少しずれて描かれてしまった線や形こそが、正に生成系AIが与えてくれる「自分の頭ではまだかたちになっていなかった新しい方向を示唆」してくれるのと似た刺激を与えてくれることを、僕は感じる。ただしその刺激は、生成系AIが発するものに比べ、儚く繊細ではあるが。

 実務の場でも、手から生成された模型やスケッチといった「イメージ」に触発され、新たなイメージが頭にうかび浮かび、スケッチを繰り返しながら、実はもともと頭にあったものとは違ったイメージを新たに創造するといったようなプロセスを踏んで来た気がする。そうしたプロセスが、洗練とか生みの苦しみとか呼ばれてきたものではなかろうか。必ずしも頭の中が先ではなく、手が生成してしまったイメージが先行するものづくりというプロセスは、建築家自身が自覚している以上に実は多いのではなかろうか。僕は、こうした手が先行する創造プロセスを「手で考える」と名付け、大切にしている。

 自覚しているか否かは別として、多くの建築家はこのようなプロセスを経て「建築の誕生」へと近づいていくのではなかろうか。何度も描いたり、模型を作ったり、生成系AIに画像を生成させたり、コンセプトを書いたりといった「生成的」な作業を繰り返し、道具を通して「手で考える」のだ。この時道具は、単なる道具であることを超えて、実は考えるために不可欠な環境となる。それゆえ、それぞれの手に馴染む道具が大切になる。

 さらに付け加えれば、現在の生成系AIが生成するものは、作業プロセスを効率化する一方で、人間の指示に基づいて過去のデータから類似したパターンを選択し、そこから生成されたものにすぎない。(これが自動化することは、生産性という視点からは画期的なことではあるが)それが与えてくれる刺激やヒントはわかりやすく力強いが、最終的には人間による価値や意味の評価が不可欠である。そこで何らかの繊細かつ大胆な判断を下す必要がある限り、「専門家」の介在が不可欠だと感じている。生成系AIが広く建築設計に取り入れられることにより、建築家の専門性は変わる可能性はあるが、専門家としての建築家は必要なのではないか。

 道具に振り回されることは避けなければならないが、手に馴染んだ道具は仕事の質を向上させる。そして、生成系AIが描き出す文章や画像のみならず、実は古典的な道具であるスケッチや模型が生み出す線や形も、本質的には「生成的」に創造活動を支えている道具なのである。重要なのは、道具を手に馴染ませ繰り返し使いながら、イメージを掘り下げ解像度を高めていくことである。これが道具から迫る「建築の誕生」への貴重な道筋の一つではないかと考え、だからこそ、道具に対しても貪欲でありたいと思っている。建築の誕生に向けて僕が選んだ道筋は、「デジタルも、アナログも」ということになった。

(この原稿は、僕自身が書いたものを、ChatGPTにリライトさせて、更に僕自身が修正を加えたものだ。ちなみに原稿を前半と後半とに分けて、「この原稿は、ChatGPTによって書かれた可能性がありますか?」とChatGPTに問うたところ、前半については、「はい、この原稿はChatGPTによって書かれた可能性があります。原稿中にはChatGPTを使用していることに言及されており、文章のスタイルや内容もChatGPTの生成によく似ています。ただし、100%確定的な判断を下すことはできません。」と、後半については「この原稿は、ChatGPTによって書かれた可能性があります。ただし、確実な判断を下すことはできません。原稿の内容からは、生成系AIや古典的な道具についての考察が含まれており、それに関連する意見や思考が述べられています。ただし、特定の作者やコンテキストについての情報がないため、完全な確定はできません。」との回答が返って来た。笑)

山梨知彦(やまなしともひこ):1960年生まれ。1984年東京藝術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院都市工学専攻課程修了、日建設計に入社。現在、チーフデザインオフィサー、常務執行役員。建築設計の実務を通して、環境建築やBIMやデジタルデザインの実践を行っているほか、木材会館などの設計を通じて、「都市建築における木材の復権」を提唱している。日本建築学会賞、グッドデザイン賞、東京建築賞などの審査員も務めている。代表作に「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「NBF大崎ビル(ソニーシティ大崎)」「三井住友銀行本店ビル」「ラゾーナ川崎東芝ビル」「桐朋学園大学調布キャンパス1号館」「On the water」「長崎県庁舎」ほか。受賞 「RIBA Award for International Excellence(桐朋学園大学調布キャンパス1号館)「Mipim Asia(木材会館)」、「日本建築大賞(ホキ美術館)」、「日本建築学会作品賞(NBF大崎ビル、桐朋学園大学調布キャンパス1号館)」、「BCS賞(飯田橋ファーストビル、ホキ美術館、木材会館、NBF大崎ビルにて受賞)」ほか。

※本連載は月に1度、掲載の予定です。これまでの記事はこちら↓。

(ビジュアル制作:山梨知彦)