敷地と時代を架橋する~生成系AIとの対話で考えてみた──山梨知彦連載「建築の誕生」09

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 何が建築を生み出すのか? 何が単なる「建物」と「建築」とを分けるのか?

 こうした途方もなく難しい問いに対しては、唯一の正しい答えという「ゴール」を探すことよりも、その問いについて考える「プロセス」自体が大切なのではないか、との屁理屈をこねて始まったのが、この連載「建築の誕生」であった。思いつくままにテーマを掲げ、書かせていただいてきたのだが、今回で9回目となり、連載は終盤へと差し掛かってきた。

図1:建築は、敷地と時代を架橋の中で生まれるものかもしれない(ChatGPT+DALL-E3とStable Diffusionを使って山梨知彦が生成)

 これまで、「単純/複雑」、「内/外」、「デジタル/アナログ」、「あらわし/化粧」、「化粧/装飾」、「かたち」、「素材」といった、僕自身が語りやすいテーマを設定して、「建築の誕生」について考えてきた。あと4回の連載は、より根本的なテーマ、「敷地」、「空間」、「アクティビティ」について、それぞれ「時代」、「時間」、「アフォーダンス」をサブテーマに、屁理屈をこねさせていただこうと思っている。そういうわけで、今回は「敷地と時代」から、建築の誕生について考えてみたい。

 言うまでもなく、建築の誕生において、敷地と時代が担う役割は極めて大きい。それゆえに、多くの著名な建築家が、含蓄のある言説を数多く残している。それを学ぶだけで一仕事になるだろうし、たとえ学ぶことは出来ても、それを会得し「建築の誕生」へとつながる一本道を見出すことは容易ではないだろう。という訳で、今回は敷地からどうしたら建築が生み出せるのかについて、僕なりに考えてみた。

図2:今回の原稿は、chatGPTに今までの連載記事の要約を読み込ませた上で、残りの4回で何を書くべきかを相談し、さらに今回のプロットについても相談しながら書いてみた。(調子に乗って)図1に引き続き、chatGPTと対話しつつ作業を行っているイメージ図も生成してみた(ChatGPT+DALL-E3とStable Diffusionを使って山梨知彦が生成)

 とはいえこの問題は、最初に書いた通り、ゴールが容易に見つかるような代物ではない。なので、敷地に対して、僕自身が漠然と考えていることを、生成系AIとの対話からあぶり出してみてはどうかと考え、試してみたところ、見えてきたのが以下の内容である。

僕にとっての「敷地と時代」

 建築は、構造物を建てるという単なる技術的な行為を超えて、敷地と時代の深い理解に基づく創造的なプロセスである。それゆえに、敷地と時代が持つ物理的な特性のみならず、歴史的・文化的・社会的背景も、建築物の形成において不可欠な役割を果たしている。

 「敷地」とは、「建築の誕生」において土台や基盤であり、その特性は建築のデザインに直接影響を与える。地形、周囲の環境、歴史的背景など、敷地固有の要素は、建築家が創造する空間の形状や機能に深く関わる。敷地は多くの建築家にとって、建築物をその場所に根づかせ、周囲の環境と調和を生み出すための鍵となっている。

 一方、「時代」は建築の文脈を形成する。建築は、その時代の技術革新や文化的価値観を反映し、時にはそれを超えて新たな時代の先駆けとなることもある。時代の技術、文化、社会的動向は、建築のスタイルや目的を形づくる大きな要因であり、この意味においては、多くの建築家にとって時代が大きな役割を担っているのではなかろうか。

 もちろん、この二つを別の軸に分けずに、サイトスペシフィックやコンテクスチャリズムの視点から一体的に捉えることもできるだろう。だがここでは、建築が据えられる物理的な位置を「敷地」、時間や文化的な位置を「時代」と分けることで、物理的な側面も、そして技術、文化、社会的視点を忘れることなくデザインに取り入れることができるのではないかと考えて、こうした「敷地」と「時代」といった二軸から建築の誕生を考えてみたいと思う。

 したがって今回は、「敷地と時代」という2つの概念が、建築の誕生にどのように影響を与えるかを探求してみたいと考えた。敷地の特性を活かすだけではなく、同時に時代の要請に応えることで、建物は建築へと昇華されるのではなかろうか。

 抽象的な議論は避けたかったのだが、話は望まない形になってしまった。次は、敷地と時代に対する具体的な取り組みに際して、僕自身が今感じていること、考えていることをご紹介しようと思う。

敷地:建築の基盤

 先ず、敷地について。

 先にも述べたように、建築の誕生において、敷地はその基盤となる。敷地は建築物が存在するための「物理的なポジション」であり、その特性は建築のデザインと機能に深く影響を及ぼす。敷地の地形、土壌の質、周囲の環境、気候など、これらすべてが建築の形成に不可欠な要素となる。

 建築家は、敷地の持つ独特の特性を理解し、それを建築デザインに反映させることで、その場所に特有の建築を創造する。例えば、山岳地帯の敷地では、地形に合わせた斜面の利用や、自然の景観を生かした開放的なデザインを試みるであろう。都市部の狭小な敷地では、限られたスペースを最大限に活用し、周囲の建築や都市環境との調和を考慮した設計が必要とされるだろう。

 一方で、これまでの敷地の捉え方は、静的かつ平面的であったような気もする。例えば、敷地の形状や俗に「鳥かご」と呼ばれている建築関連法規が生み出す形態制限は、誰もが設計に先立ち押さえるが、、周辺建物が実際に生み出す複合日影の状況、敷地及びその周辺に吹く風の特性などのような要素は、デザインを進める上で大切な情報であるにも関わらず、設計時にきちんと把握されていることはまだまだ少ないのが現状だ。

 DXの時代を生かし、例えば点群による3次元測量を行えば、敷地および敷地周辺の建物の位置が設計初期から把握でき、それだけでも我々が敷地から読み取る情報の解像度は格段に上がり、建築に大きな変化をもたらす可能性がある。さらにデジタルシミュレーションを繰り返すことで、設計の精度は格段に向上するはずである。

 同時に、そうした敷地の物理的な特性を踏まえて建築をつくることで、建物が敷地周辺に与える良きインパクトは最大に、悪しきインパクトは最小とすることができれば、建築が敷地周辺の環境を望ましい方向に変えていく可能性もある。僕はDXを使って、これまでとは桁違いの精度で敷地を観察し、理解し、新しい建築を作ることを目指したいと考え、これまでの実務の中で実践してきた。

図3:僕自身が担当させていただいたプロジェクトの中でも、On the waterの水中にある敷地は突出してユニークで、建築のデザインに大きな影響を及ぼした(写真:雁光舎/野田東徳)
図4:DXを利用し、①3次元測量を利用した最初期から精度の高い水面レベルの把握、②湖と外輪山までをBIMの中に敷地として取り込むことによる眺望のコントロール、③シミュレーションにより湖の上を流れる風の影響の把握といった、今までとは桁違いの精度での敷地の特性把握が、この建築の誕生にダイレクトにつながっている(資料提供:日建設計)

時代:建築の文脈

 建築は、それを取り巻く敷地と時代の文脈に深く根ざしている。敷地が建築の物理的なポジショニングを表しているとすると、時代は建築の歴史的なポジショニングを表しているものといえそうだ。時代とは、建築が生まれる背景にある社会的、文化的、技術的な状況を指し、これらの要素は建築の形式や機能、意味に大きな影響を与える。建築は時代の文脈に呼応することで、その時代の価値観、技術水準、社会的ニーズを反映し、時にはそれらを形作る力をも持つのではなかろうか。

 例えば、産業革命の時代においては、新しい技術と材料の登場が建築の可能性を大きく広げた。鉄とガラスの使用により、それまでにない大規模で開放的な空間が実現し、モダニズム建築の基盤が形成された。デジタル技術の進化により、建築デザインの複雑さと精度は飛躍的に高められ、それまで不可能だった形状の建築物を生み出すことができるようになってきている。

 また、時代の社会的、文化的背景は、建築の意味合いや目的にも影響を与える。例えば、近代では機能性と経済性を重視した建築が多く見られたが、現代では持続可能性や環境への配慮が重要なテーマとなってきたことにより、エコロジカルな建築やサスティナブルな建築が注目されている。

 建築は、その時代の鏡であり、さらに時代を超えて、その価値を伝えるメッセージとなる。建築の誕生において時代は単なる背景ではなく、建築のアイデンティティを形成する重要な要素である。

 残念ながら僕自身はこれまでの建築と桁違いの密度と濃度で時代背景を建築デザインに取り込む具体的な手法を、技術という側面以外では確立できていない。おそらくこの点は、組織設計事務所に所属する設計者の共通する弱みではなかろうか。ナラティブの弱さ、批評性の脆弱さを指摘される一因でもあるのではないか。

図5:僕自身が担当させていただいた桐朋学園大学音楽学部調布キャンパス一号館では、時代にはそぐわなくなっている中廊下に沿ってレッスン室が並ぶ、牢獄にも似た形式からの脱却がテーマであった(写真:雁光舎/野田東徳)
図6:具体的には、すべてのレッスン室を、大きさを統一せずそれぞれの必要な広さとプロポーションで設計し、レッスン室相互の間に廊下や吹き抜けを遮音層として、時代の利器ともいえるコンピュテーショナルデザインの手法を使い配置することにより、自然発生の集落に見られるような「ナチュラル感」を生み出すことを狙った(資料提供:日建設計)

建築は、時代と敷地を繋ぐ架け橋の中に生まれる

 このように、建築は単に物理的な構造物を創造する行為にとどまることなく、文化や社会性を同時に踏まえる必要がある。言い換えれば、建物が「時代と敷地を繋ぐ架け橋」となったとき、そこに建築が生まれるのだろう。建築の誕生とは、単なる物理的な構造物の創造を超えて、時代と敷地との独特な関係性を構築することなのだろう。

山梨知彦(やまなしともひこ):1960年生まれ。1984年東京藝術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院都市工学専攻課程修了、日建設計に入社。現在、チーフデザインオフィサー、常務執行役員。建築設計の実務を通して、環境建築やBIMやデジタルデザインの実践を行っているほか、木材会館などの設計を通じて、「都市建築における木材の復権」を提唱している。日本建築学会賞、グッドデザイン賞、東京建築賞などの審査員も務めている。代表作に「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「NBF大崎ビル(ソニーシティ大崎)」「三井住友銀行本店ビル」「ラゾーナ川崎東芝ビル」「桐朋学園大学調布キャンパス1号館」「On the water」「長崎県庁舎」ほか。受賞 「RIBA Award for International Excellence(桐朋学園大学調布キャンパス1号館)「Mipim Asia(木材会館)」、「日本建築大賞(ホキ美術館)」、「日本建築学会作品賞(NBF大崎ビル、桐朋学園大学調布キャンパス1号館)」、「BCS賞(飯田橋ファーストビル、ホキ美術館、木材会館、NBF大崎ビルにて受賞)」ほか。

※本連載は月に1度、掲載の予定です。これまでの記事はこちら↓。

(ビジュアル制作:山梨知彦)