日曜コラム洋々亭27:コロナ禍だから広がる建築のすそ野? この3冊が物語る確かな「追い風」

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 今回のコラムは、この3冊について書きたい。「はじめての建築」(倉方俊輔著)、「装飾をひもとく」(五十嵐太郎・菅野裕子監修)、「プレモダン建築巡礼」(磯達雄・宮沢洋共著)である。

 私がこのサイト(BUNGA NET)を始めた理由の1つは、「建築の面白さを建築関係者以外にも知ってもらいたい」ということである。知っている人は知っていると思うが、私はもともと建築学科の出身ではない。入社した日経BPという出版社でたまたま「日経アーキテクチュア」という建築専門雑誌に配属され、そこで建築の面白さに目覚め、30年間やった。ちょうど今から1年前に会社を辞め、磯達雄と編集事務所「Office Bunga」を立ち上げ、4月からこのサイトを始めた。かっこよく言うと「建築のすそ野を広げたい!」と思ったのである。

 何の前振りかというと、紹介したい3冊が、今年に入って私の耳に入った「建築のすそ野の広がり」を感じるグッドニュースだったからである。コロナ渦でも、建築のすそ野はじわじわと広がっている。海外に行けない状況だから、身近な建築により関心が高まっているのかもしれない。

先を越された!「はじめての建築」

 グッドニュースの1冊目は、イケフェス大阪のスピンオフ書籍「はじめての建築 01 大阪市中央公会堂」の発刊だ。文・構成が建築史家の倉方俊輔氏、発行は生きた建築ミュージアム大阪実行委員会。奥付を見ると発行は1月10日。早速、著者の倉方氏から送っていただいた。感謝。

 これは出題形式の絵本である。大阪市中央公会堂について、国語算数理科社会図工の問題を出し、巻末で解説する。中身を見せるとネタバレになってしまうので、イケフェス公式サイトの説明文から想像してほしい。

 「幼稚園の小さなお子さんから高校生まで、年齢や関心に応じて様々な角度から、建築を学ぶことができる構成になっています。建築を入口にして、世の中のことを色々と考えるきっかけとなるような、そんな本を目指しました。記念すべき第1号は、大阪の近代建築を代表する中之島の大阪市中央公会堂。写真やイラストを眺めるだけでも楽しい、もちろん大人にも手に取って頂きたい1冊です」

 実は私も、「はじめての建築」という全く同じ名前のシリーズ書籍を、これとは関係なく進めていた(汗)。そっちの名前は変えざるを得ないのだが、同じ志を持つ人たちがいて心強い。なるほど、こんな面白がり方もあるかと、いろいろ参考にもなった。

 この本は今のところアマゾンでは買えない。取り扱い店はこちら

展覧会の人気を受け、書籍「装飾をひもとく」発刊

 2冊目は「装飾をひもとくー日本橋の建築・再発見ー」(監修など:五十嵐太郎・菅野裕子監修、青幻舎刊)。これは発刊のニュースを聞いたばかりでまだ実物を見ていない。アマゾンを見ると1月27日発売となっているので、いま注文すれば最速ですぐ読める。

 これは現在、日本橋髙島屋で開催中の同名の展覧会の図録。昨年9月の開幕時にこのサイトで報じたが、その後SNSでかなりの話題になっている展覧会だ。

五十嵐太郎監修“装飾展”で髙島屋史料館TOKYOが再開、今こそ問う「形」の意味

内覧会時の五十嵐氏


 百貨店でやっている入場無料の展覧会なので、来場者のほとんどは一般の人だ。誰にでも分かるように建築装飾の面白さを解説している。建築関係者が見ても発見が満載。内覧会で五十嵐太郎氏に「こんなに密度の高い展示なのに本はつくらないんですか?」と聞いたところ、「準備期間が短くて、いま、出してくれるところを探してます」と話していた。会期中に発刊に至ったことはめでたいし、この展覧会への評価の高さの証左でもある。以下は青幻舎のサイトからの引用。

 「本書では日本橋高島屋を中心に、日本橋地域の近現代建築を取り上げます。なかでも建築の細部・装飾に焦点をあて、西洋の古典主義が日本橋界隈の建築にどのように導入されているかを徹底的に検証します。知られざる装飾の歴史をひもとき、新たな建築の楽しみ方を提案します」

 青幻舎のサイトはこちら

 展覧会は2月21日(日)までやっているので、そちらも必見。公式サイトはこちら

これは会場で無料でもらえる街歩きガイド

「プレモダン建築巡礼」がまた増刷!

 3冊目のグッドニュースは、私がイラストを担当した「プレモダン建築巡礼」(2018年発刊)がこの1月中旬に増刷になったこと。なんと4刷である。出版関係者なら分かると思うが、こんな実務性のない(金儲けに直結しない)本が4刷というのはすごい。

4刷の証拠の奥付

 「プレモダン建築巡礼」は明治維新~第二次大戦までの国内の名建築50件を文章・写真・イラストでリポートしたもの。帯に「シリーズ史上最も面白い時代!」と書いているように、多分、一般の人にはシリーズの中で一番面白く読める。先の2冊(倉方氏と五十嵐氏)も主な対象はこの時代だ。私としては、この勢いを戦後の高度成長期、バブル期の建築へと広げていきたいのである。私がこれからつくる「はじめての建築シリーズ」(名前は変えます)は、そこを攻めていきたいと思っている。と宣言したものの、まだ企画書を書いただけで中身を1文字も書いていないので、気長にお待ちくださいー。(宮沢洋)