日曜コラム洋々亭44『週刊朝日』休刊決定に思う、「似顔絵塾」と日本の建築雑誌の相似性

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 『週刊朝日』が2023年5月いっぱいで休刊することが発表された。1922年創刊で、今年101年目の老舗週刊誌。といっても、紙の雑誌市場の縮小ぶりは出版業界以外の人も感じていると思うので、それほど驚かないのかもしれない。ただ、私(宮沢)にとって『週刊朝日』の休刊は特別な感慨がある。今の私の価値の半分くらいを、この雑誌が育ててくれたと言っても過言ではないからだ。

 ぶっちゃけ、記事はほとんど読んでいなかった。買って読んでいたのは巻末から数ページ目にある「山藤章ニの似顔絵塾」という投稿コーナーだ。

週刊朝日「 山藤章ニの似顔絵塾」(以下同)1994年掲載
1994年掲載
1994年掲載

 私は中学2年生くらいからこの欄に投稿していた。さらに遡ると、小学校高学年からハガキに似顔絵を描いては、『月刊明星』やら『ロードショー』やらに投稿していた。年齢の割にうまかったのだろう。結構な頻度で掲載されていた。おそらく選んでいるのが編集者なので、「十代前半の子どもが描いているなら載せてあげよう」くらいに思ったのではないか。他誌では4コマ漫画の投稿も常連だったので、ちょっと天狗になっていた。

 「山藤章二の似顔絵塾」の存在を知ったのが中2くらいで、「いっちょ出してみるか」と思って投稿を始めたのだが、全く載らない。選者の山藤章二氏は、間違いなく日本一の似顔絵描きだ(もしかしたら世界一かも)。「子どもだから」みたいな割り増し評価はまるでないのである。

 「似ている」のは当然で、勝負はその先の「いかに人の心を動かすか」。山藤氏の厳しい評価をかいくぐって似顔絵塾に初入選したのは、半年後くらいだったと思う。初掲載は女優の桃井かおりの横顔だった。「横顔の似顔絵」というのは正面から書くよりも格段に難しい。彫りの深い外国人俳優ならともかく、日本の女優を横顔で「似てる」と思わせるのは至難の技だ。その桃井かおりの横顔似顔絵は、半ば偶然描けたものだったが、山藤氏も絶賛で私は似顔絵塾にデビューした。

 似顔絵塾には「特待生制度」があって、年に何人か、常連組の中から「特待生」の称号が与えられる。初掲載されたら、次の目標は特待生だ。

 一時、投稿に疎遠だった時期もあったが(大学生から社会人の初期)、20代後半に再び投稿熱が高まり、本気で特待生を取りに行った。そして、1995年11月、27歳のときにめでたく特待生に選ばれた。この事実は、バックナンバーを躍起になって調べても見つからない。なぜなら社会人になってからは、本名の宮沢洋ではなく「宮沢葉」というペンネームで出していたからだ。自分が出版社勤めなので、他社の雑誌を盛り上げているのがバレたらまずいのではないかという小心者の判断だ。もう出版社を辞めたので時効だろう。

掲載数が限られる紙メディアだから「鍛えられる」

 この記事で何が言いたいかというと、私自身がこの似顔絵塾で鍛えられのと同じような役割を、日本の建築雑誌は果たしてきた(今も果たしている)と思うのである。

 似顔絵塾は毎週見開き2ページ。選評付きで掲載される「入選」は5点。明確な選考基準はない。掲載される作品の方向性は見事にバラバラだ。応募者は、めでたく掲載された作品と山藤氏の選評から何が良かったのかを分析する。そして、掲載されなかった場合(そっちの方が圧倒的に多い)は、勝手に反省して、違うチャレンジをする。そんな繰り返しによって、添削されているわけではないのに、自分の強みが強化され、自分のジャッジに自信が持てるようになっていく。後者の「自分のジャッジに自信が持てる」というのが重要で、私は今も編集者から「似ていない」と言われると修正はするものの、心の中では「センスのないやつ…」と思っている。言われるままに直すのでは、次のチャレンジにつながらない。正面顔で担当者に響かないなら、横顔で、という精神だ。

 で、日本の建築雑誌は、発行頻度こそ週刊ではないが、全く同じ機能を持っているのではないかと私は思うのである。

 紙でなくてもWEBでやればいいじゃんと思われるかもしれない。だが、似顔絵塾だってWEBだったらあんなに力が入らない。WEBというのは「数」に縛りがかけづらい。いいものならば、何でも載せたくなる。それだと、「中学生の割にうまいから載せよう」ということになる。それは、決してその中学生のためにはならない。私はいまだに初入選の桃井かおりを超えられないので、似顔絵を描き続けているのである。

 同様に「若手建築家にしてはうまい」という判断は、載せる数が限られる紙メディアがやるべきことではない。編集者は「住吉の長屋」以前の安藤作品に厳しかった当時の名編集者たちに学ばなければいけない。

 すごい話になってきたが、つまり日本の建築関係者はもっと建築専門雑誌を買わなければいけない、ということである。自分でWEBマガジンをやっていながら何だが、建築メディアがWEBだけになったら日本の建築界は危うい。プリツカー賞を多数輩出し、世界における日本建築界の優位性を培ってきたのは、「無色」な日本の建築メディア群であることは間違いない。そんな記事を前職時代にも載せたことがあるので参考まで。

日本人建築家の優位性って何? 海外から見た日本ブランド(日経クロステック2019.05.23)

 本当はこの記事の締めに思い出の桃井かおりの似顔絵を掲載したい(自慢したい)のだが、私の実家が30年ほど前に火事になり、スラップブックが焼失した。その傑作は私の記憶の中にしかない。なので、難しい横顔似顔絵の例として、磯崎新氏を代わりに掲載する。誰か、似顔絵塾の桃井かおり掲載号(おそらく1982年の週刊朝日)を持っていたら譲ってください! 意外にそれほどでもなかったらショックだけど。(宮沢洋)

(イラスト:宮沢洋)