なぜ前川よりも吉村が米国で活躍?「建築家・吉村順三の眼ーアメリカと日本ー」展がGALLERY A4で始まる

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  2023年12月22日から竹中工務店東京本店1階の「GALLERY A4」(ギャラリーエークワッド、東京都江東区)で、「建築家・吉村順三の眼ーアメリカと日本ー」展が始まった。年末年始は1月4日まで休館で、1月5日(金)から再開となる。会期は3月28日(木)まで。監修は、京都工芸繊維大学から神奈川大学に移った建築史家の松隈洋氏(神奈川大学教授、京都工芸繊維大学名誉教授)だ。

監修者の松隈洋氏(写真:宮沢洋、以下も)

 建設会社の本社屋の展覧会なんて行く価値が?…と侮るなかれ。いや、「吉村順三の旅日記程度だろう」と侮っていたのは自分で、大変反省している。知らなかった史実をわんさか知ることができる濃い展示内容だった。

 まずは、公式サイトから開催趣旨を引用する(太字部)。

 「戦後、吉村は、アメリカで経験したモダンライフを日本の建築に取り込むと同時に、日本の感性や思想を、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の中庭に建設した『松風荘』をはじめ、モテル・オン・ザ・マウンテンなどの作品を通じてアメリカに紹介し話題となります。本展は、吉村がアメリカで担当した作品から、国際的に活躍する芸術家等との交流から生まれた日本の作品までを、スケッチや写真、映像を交えて紹介し、その業績を明らかにするものです」

「ポカンティコヒルの家」(ロックフェラー邸、1974年)の模型。模型制作は、松隈氏が教べんを執る神奈川大学の学生たちが協力している

 モダニズム建築が好きな人ならば、吉村順三が「ポカンティコヒルの家」(ロックフェラー邸)など、アメリカでいくつかの建築を実現し、高く評価されていることをご存じだろう。同じレーモンドの弟子でいうと、ザ・インターナショナルスタイルの前川國男よりも、日本的モダニズムの吉村の方がアメリカで活躍した、というのが筆者(宮沢)には長く疑問だった。
 
 開催趣旨の中にそのヒントが書いてあった。

 「吉村順三は、第二次世界大戦をはさんで日本とアメリカを行き来し、日本の建築文化をアメリカに伝えた建築家です。1940年、吉村はペンシルベニア州ニューホープに帰国していたアントニン・レーモンドに招かれ、開戦の直前までの14か月間、レーモンド夫妻とともに暮らし、コロニアル建築の素朴な空間やニューヨークの摩天楼に至るまでを間近に経験します。その経験は、吉村が日本建築の伝統の中に潜む、近代建築の要素を再発見するきっかけとなりました」

吉村がアメリカで暮らしていたときのスナップ。1940~41年。戦前にカラー写真があった(しかもこんなに鮮明)ってびっくり

 そうなのか。吉村順三って、若いころアメリカに住んでいたことがあるのか。でも、「1940年、吉村はペンシルベニア州ニューホープに帰国していたアントニン・レーモンドに招かれ」とあるが、レーモンドはなぜ吉村をアメリカに呼び寄せたのだろうか。

渡米のきっかけは日本文化会館の「茶室」

 その答えは、2章の「吉村順三とレーモンド夫妻<戦前アメリカ>」の展示の中にあった。建築史家の田中厚子氏による解説パネルにこう書かれている。

 「1940年5月、吉村はレーモンド事務所の2つの計画を担当するために渡米した。一つは、日本文化会館(JAPAN INSTITUTE)内の「茶室」、二つ目は斎藤博駐米大使記念図書室計画案である。(中略)室内に設置する茶室をレーモンドが依頼され、吉村が日本で準備して6畳間(床の間・押入・縁側・軒を含む)の部材25ケースを米国に送った。そして部材が到着する前に渡米し……」

 そうか、吉村が日本建築に精通していたから、レーモンドは茶室担当として白羽の矢を立てたわけか。長年の疑問が解消した。

渡米のきっかけになった日本文化会館茶室に関する展示

 2章では斎藤博駐米大使記念図書室の設計にあたり、アメリカ議会図書館の司書であった坂西志保との書簡のやりとり、東京のレーモンド事務所を任されていた杉山雅則とのやりとり、吉村自身のスケッチや写真などを紹介している。

斎藤博駐米大使記念図書室計画案

 もう1つ、筆者の長年の疑問が解消した。それは、なぜ吉村がレーモンド事務所に入所したのかということ。吉村の美意識で東京美術学校(現東京芸術大学)を出たら、和風建築系の建築家とか工務店の門を叩きそうではないか。

 この答えは、展覧会で探してほしい。答えはレーモンドが設計したこの住宅↓(わかりますよね?)の解説文の中にある。

隈研吾氏の見事な解説にうなる

 最後の6章「吉村順三の建築 <インタビュー> 住まい手の声を聴く」のインタビュー映像もとても面白かった。特に、隈研吾氏がいいこと言ってる!

 吉村が米国で何を得たかを見事に分析してくれる。まるでこの展覧会のまとめのよう。さすが…。そもそも、なぜ隈研吾氏が「住まい手の声」に登場するのかも、会場で説明を見れば納得するだろう。

ヒントは吉村が設計したこのビル。分かりますか?

 展覧会に足を運ぶ前に、当サイトで3年前に掲載した下記の記事を読むと予習になると思う。一見、感覚的に見える吉村の根底にある論理性が分かる。たまたま展覧会場で吉村の長女、吉村隆子さん(公益財団法人ソルフェージスクール理事長)に会い、孝子さんからこの記事のことを褒められた。

 展覧会は入場無料で、事前予約も面倒な入館手続きも不要。日曜は休館なので、それだけ気をつけてぜひ会場に足を運んだみてほしい。

■展覧会概要
展覧会名:建築家・吉村順三の眼 ーアメリカと日本ー
会場:GALLERY A4(ギャラリー エー クワッド)〒136-0075 東京都江東区新砂1-1-1
会期:2023年12月22日(金)~2024年3月28日(木)
開館時間:10:00-18:00(土曜、最終日は17:00まで)
休館日:日曜・祝日、12月28日(木)~1月4日(木)
入場料:無料

主催:公益財団法人 ギャラリー エー クワッド
特別協力:吉村隆子(公益財団法人ソルフェージスクール理事長)
監修:松隈洋(神奈川大学教授、京都工芸繊維大学名誉教授)
協力:吉村順三記念ギャラリー、吉村設計事務所、神奈川大学建築学部、 レーモンド・ファーム・センター、株式会社レーモンド設計事務所、米国議会図書館、 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、高知県立美術館 石元泰博フォトセンター、Japan Society、 ニューヨーク近代美術館、ペンシルベニア大学アーカイブ、株式会社北澤建築設計事務所、 一般社団法人住宅遺産トラスト、公益財団法人ソルフェージスクール、隈研吾建築都市設計事務所、 青山タワービル、八ヶ岳高原音楽堂、公益財団法人国際文化会館、一般財団法人脇田美術館

公式サイト:https://www.a-quad.jp