ANDO史上最小でも圧巻の発信力、渋谷の公園トイレが「非・打ち放し」の理由が分かった!

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話題の渋谷・ANDOトイレの利用開始から8日目の9月15日(火)14時、設計者の安藤忠雄氏が現地で報道陣に設計意図などを説明した。その情報を、9月7日の「速報」に青字で加筆した。黒字は、利用開始日の9月7日の記事。時系列が前後するがご容赦いただきたい。

9月15日の会見の様子。特記以外は9月7日撮影(写真:宮沢洋)

 「ここから日本の清潔さを世界に発信したい」。延べ面積54.47㎡の小さな公共トイレの前で、安藤忠雄氏は力強くそう語った。この日、「世界の安藤が渋谷に来る」と聞き、神宮通公園に集まった報道陣は100人ほど。

9月15日の会見の様子(写真:宮沢洋)

 おそらく、普通に超高層ビルを建ててもこれだけの報道陣は集まらない。さすがの動員力。そしてメッセージ性も強い。「コロナでも分かったことだが、日本人の清潔さ、衛生意識は世界に誇れる。この小さなトイレは世界につながる力を持っている」(安藤氏)。単に設計意図の説明ではなく、プロジェクトに「日本」を担わせてしまう。メディアは報道がしやすい

 そして、建築的な疑問にも分かりやすく答えてくれる。その前に、以下、利用開始日の速報を少しお読みいただきたい。

(写真:宮沢洋、以下も)

 そうか、打ち放しじゃないのか。でも、ひと目見てこれは安藤忠雄氏の造形。さすがだ。

 9月7日が竣工日と聞いていたので、渋谷の神宮通公園に安藤氏が設計したトイレを見に行ってみた。日本財団が渋谷区と進める「THE TOKYO TOILET」の1つである。

関連記事:日曜コラム洋々亭13:日本財団の「デザイン公共トイレ」全部見た!ここまでやるならこれもお願い!(2020年8月23日公開)

 午前11時に行ってみたら、まだオープンしておらず、関係者の方々が最終チェックをしていた。

 1時間ほどお茶をして、正午に行ってみると、ちょうどゲートを片付けているところだった。おそらく、「一般利用者」としてこのトイレを使用したのは私が一番である。ちょっとうれしい。

 後日、安藤氏が現地で話を聞かせてくれるかもしれないということで、今日のところは、写真だけご覧いただきたい。

 ここで9月15日の安藤氏本人による説明を加えよう。

 まず、全体のコンセプトは「あまやどり」。野球帽のつばのような庇は、雨宿りを誘うべく、公園側が大きくはり出している。外壁仕上げにコンクリート打ち放しでなく、ルーバーを用いたのは、「落書きをさせないため」。なんとそうだったか! かつてここにあったトイレは、落書きが絶えず、安心して入りづらいものだったという。確かにルーバーなら落書きしづらい。加えて「風通しをよくするため」とも。素材をアルミ中心にしたのは、耐久性とメンテナンス性を考慮した結果だ。木を使うことは「全く考えなかった」という。

 シンプルに見えるが、かなりつくりにくい形だ。外周のルーバーは円錐状に傾斜しており、上部の庇は楕円形で、本体の円と中心がずれている(下の写真の平面図参照)。

銘板はこんなところに!

 ところで、前回の記事で、「設計者名を書いた銘板が見当たらない」と書いた件(実際はあったらしい)について、今回は見つかるまでぐるぐる探してみた。

 あっ、こんな足元にあった! しかもちっちゃい!

 銘板を付けていることは評価できるが、なぜこんな宝探しのように見つけづらくしているのか…。私には意図が分からない。

 …と、利用初日の速報で銘板に疑問を呈したのだが、安藤氏の説明を聞いて、これは銘板に落書きされないためかも、と思った。

 それより何より、安藤さんが変わらず元気で安心した。

9月15日の会見の様子。右は「THE TOKYO TOILET」プロジェクトを進める日本財団・笹川順平常務理事(写真:宮沢洋)

話題の新作が周辺に密集

 ところで、この公園に渋谷駅から向かう通り道に、7月にオープンして話題となっている「MIYASHITA PARK」がある。設計は竹中工務店と日建設計(プロジェクトアーキテクト)。屋上が公共の公園、下が商業施設(三井不動産)という立体開発。このサイトでは書いていなかったので、こんな感じだ。

 そもそも出発点となる渋谷駅周辺の再開発、「渋谷スクランブルスクエア第1期(設計:日建設計、隈研吾建築都市設計事務所、SANAA)」や「銀座線渋谷駅」(設計:メトロ開発、内藤廣建築設計事務所、東急設計コンサルタント)もまだ開業から1年もたっていない話題作。

 半日で4つの話題建築が見て回れる建築高濃度エリア。もう少し涼しくなったら、ぜひ巡ってみてほしい。外国人が少ない今年の秋は、近場の建築ツアーがお薦めだ。(宮沢洋)