池袋建築巡礼01:30年たっても古びないデザイン交番、「池袋二又交番」

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 Office Bungaの事務所のある池袋駅周辺の良質な建築や挑戦的な建築を紹介していきたい。最初に取り上げるのは、池袋西口から徒歩5分(我々の事務所からは徒歩1分)、駅前通りと立教通りの分かれ道に立つ「池袋二又(ふたまた)交番」だ。

 1980年代から90年代初頭にかけて展開された東京都の文化デザイン事業、通称「デザイン交番」の1つとして1992年に完成した。デザイン交番は、「町のシンボル」となる交番づくりを目指す事業で、第一線の建築家を起用して20以上の交番が建設された。有名なものには、黒川哲郎+デザインリーグによる「上野警察署動物園前交番」(1992年竣工)や、妹島和世による「調布駅北口交番」(1994年竣工、2008年に解体)などがある。

二又交番の設計者は林賢次郎

 池袋二又交番の設計を担当したのは林賢次郎。1942年生まれで、丹下健三・都市・建築設計事務所を経て、80年に林賢次郎・建築設計事務所を設立した。住宅や中規模のオフィスビルなどに佳作が多い。この交番以前に公共建築の実績はなかったが、東京都設計候補者選定委員会の推薦で設計者に抜擢された。

 地元のひいき目もあるとは思うが、同時期に建設されたデザイン交番の中で、個人的には一番いいと思う。

 円柱から切り取った3つの形をくっつけた単純な造形ながら、見る方向や時刻によって多様な見え方をする。曲面ガラスの出入り口は、交番独特の閉鎖感を軽減している。

 ガラスブロックから内部の光が漏れる夜景もなかなかいい。

 さほどメンテナンスに手をかけられない建物タイプのはずだが、30年近くたった今もあまり汚くない。理にかなったディテールを採用した証しだろう。林は、この交番の設計に当たり、「有名無名を問わず、あらゆる建物の尖った先端の扱いを研究しました」と書いている。

漢字の「入」がモチーフ?

 ところで、インターネットでこの交番について調べていると、「コルビュジエの『ロンシャンの教会』をほうふつとさせる」という意見や、「入りやすい交番を目指して『入』という文字をモチーフにデザインされた」という趣旨の書き込みが見つかり、なるほどと思った。『入』説については、本当かどうか原典をたどれなかったが、もし仮説だとしたらあまりに素晴らしい着眼点で、賞をあげたいくらいだ。(宮沢洋)

所在地:豊島区西池袋5-1-11