建築の愛し方18:「名古屋渋ビル手帖」最新号発売、今後も「そこにビルがある限り」──謡口志保氏と寺嶋梨里氏

Pocket

 「中産連ビル」の記事の最後で「取材に行きます」と予告していた「名古屋渋ビル研究会」に、約束どおり話を聞きに行ってきた。

謡口志保氏(左)と寺嶋梨里氏(右)。謡口氏が手にしているのが「名古屋渋ビル手帖」の最新号で、寺嶋氏が手にしているのが創刊号(写真:宮沢洋)

 研究会といってもメンバーは2人。謡口(うたぐち)志保氏と寺嶋梨里氏だ。たった2人?とあなどるなかれ。合わせると10人にも匹敵しそうな“お互いの持ち味の妙”によって成り立っているユニットなのである。

──ようやく、お話を聞きに来ることができました。

2人:ようこそ名古屋へ。お待ちしていました!

──そして、「名古屋渋ビル手帖」新刊の発刊(2023年10月8日発行)、おめでとうございます!。

謡口志保:これが最新号です。

──おお、中央ナゴヤ特集なんですね。「中央ナゴヤ」って東京の人間にはよく…。

寺嶋梨里:栄や伏見など、名古屋市の中心部分をなんとなくそう呼んでいます(笑)。

謡口:今回は基本に立ち返って、見過ごされそうな街なかの味わい深いビルを自転車で巡って、できるだけ多く記録しました。

最新号の目次ページ。右ページの地図や、タイトル周りのあしらいなど、とても素人の趣味とは思えないクオリティー

グラフィックデザイン+歴史的視点の強力コンビ

──表紙は「第5号」ですが、年1冊ペースで10年以上続いてますよね。

寺嶋:はい。創刊号が2013年で、その前に創刊準備号も出しています。もともとはWEBの発信からスタートして、それが2011年の春でした。

謡口:途中で「中産連ビル特集号」とか、「鳥取渋ビル手帖」とか特別号を挟んだので、年数とずれてしまっているんです。

寺嶋:創刊準備号まで含めると、12冊出ています。あるものだけですが、バックナンバーをお土産にどうぞ。

中央が創刊号

──やった、うれしい! あ、「中産連ビル特集号」↓も。中産連ビルについて発信している総務課の小寺栞さんが、「写真の撮り方はすべて名古屋渋ビル手帖で学んだ」と言ってました。

謡口:写真は寺嶋が撮っています。私は写真があまり得意ではなくて。

──あれ、写真は建築学科出身の謡口さんなのかと思っていました。寺嶋さんは何者なんですか(笑)。

寺嶋:エイトデザインというデザイン事務所でグラフィックと広報の仕事をやっています(エイトデザインはこちら)。

──エイトデザイン、知ってます。寺嶋さんはグラフィックのプロだったんですね。それでこのクオリティーの高さにも納得です。お2人はもともと知り合いで?

謡口:はい、名古屋市立大学時代に、私は建築で、寺嶋はグラフィックを学んでいました。

──謡口さんは、大学院は名古屋大ですね。その後、設計事務所勤務を経て、ウタグチシホ建築アトリエを設立された、と。

謡口:大学院時代は西澤泰彦先生の研究室でした。

──なんと、歴史研の名門じゃないですか。それは最強のコンビですね。

謡口:いえ、私は劣等生だったので、今も渋ビル専門で(笑)。でも、歴史を学んだことはとても役に立っています。

──2011年にユニット結成ということは、社会人になってしばらくたってからですね。

寺嶋:そうですね。ずっと付き合いはあって、特にきっかけがあったわけではないのですが、2人とも同じようなビルが好きだぞと分かり…(笑)。

謡口:WEBや本をつくって発信してみよう、というのは大阪の「ビルマニアカフェ」の皆さんの影響が大きいと思います。

──ああ、「ビルマニアカフェ」ですか。また、別の源流が現れる(笑)。

寺嶋:私たちにとっては「家元」的な存在です。ぜひ取材してください。

──メンバーの1人、高岡伸一さん(近畿大学准教授)は知り合いなので、いつか必ず。

お値段は10年据え置き「550円」

──最新号で特に苦労されたことは?

謡口:生々しい話をすると、印刷費が値上がりしているので、お値段据え置きにするのにかなり苦労しました。

──どれどれ…。税込みで550円。本当だ、創刊号と変わっていませんね。しかも、ページが増えている。創刊号は24ページで、最新号は38ページ。過去には50ページ超えの号もありますね。

寺嶋:今回の特集はエリア別の紹介ですが、写真にめりはりをつけて、小さな写真はキュッと集めて並べました。

──創刊号から定番の企画もあるのですか。

寺嶋:ビルの形に似せた創作料理の欄があって、それは料理好きの謡口が創刊以来続けています。

最新号は「ほろ酔いのビルチョス」

謡口:毎号、特集のテーマを考えると同時に、「今度はどんなビルの料理をつくろうか」と考え始めます(笑)。

──これは雑誌っぽい企画だなあ。素晴らしい。そういえば、しばらく前に「ビル俳句」を募集してましたよね。応募はありましたか?

謡口:それが150句も!

寺嶋:私たちが募集しているという情報が、俳句好きの方たちの間に流れたみたいで(笑)。

謡口:素人の私たちが選んで「評」を書くのが恐れ多かったです。

──今後の目標は。

寺嶋:細く、長く、ライフワークとして続けていけたらいいなと考えています。

謡口:私もです。そこにビルがある限り、続けたいです(笑)。

──おお、愛のある名言。本日はありがとうございました

最新号の購入は名古屋渋ビル研究会のオンラインショップで。(宮沢洋)

これまでの「建築の愛し方」はこちら↓。