建築の愛し方20:「東京では絶対に無理だと思っていた」─ 倉方俊輔氏が「東京建築祭」の旗振り役を引き受けた訳

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「東京建築祭」のガイドツアーの抽選に当たった方、おめでとうございます。当たらなかった方も、事前予約のいらない「特別公開」が16施設(4月28日時点)もあります。そして、ガイドツアー限定の施設にも「ボランティアスタッフ」として関わるという奥の手があります。そんなこんなで大注目の「東京建築祭」(メイン期間は5月25日、26日)の裏事情について、実行委員長の倉方俊輔氏をはじめとするキーマンたちに聞きました。(聞き手は宮沢洋=東京建築祭実行委員)

倉方俊輔・東京建築祭実行委員長(写真:宮沢洋)

──ガイドツアーの申し込みが大人気でびっくりしました。

倉方俊輔実行委員長(以下、倉方):そうですね。私も想像以上でした。

──多くの人がこういうイベントを待ち望んでいた、という印象です。でも、実行委員長を引き受けるには相当の覚悟が必要だったのでは。

倉方:京都モダン建築祭を一緒にやっている「まいまい」の以倉(敬之)さんに「東京でもこうした建築公開イベントができないでしょうか」と言われて、軽い気持ちで「やるなら協力しますよ」と答えたのが始まりです。最初から実行委員長をやってほしいといわれていたら、どうだったかわかりませんね。
(「まいまい」は京都や東京でミニツアーを実施している会社。詳しく知りたい方はこの記事の後半を→https://bunganet.tokyo/love16/

──私(宮沢)に「実行委員をやってほしい」と声がかかったのは、去年(2023年)の6月でした。そのかなり前から準備はしていたのですか。

倉方:いや、そんな前ではありませんよ。いつだったか…。

以倉敬之(合同会社まいまい代表、東京建築祭実行員/以下、以倉):私が倉方先生に声をかけたのは、去年の2月ごろだったと思います。

以倉敬之・実行委員(合同会社まいまい代表)
倉方実行委員長

──私はイケフェス大阪(生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪)が好きで、初期の頃から見に行っていますが、見る度に「これは東京では難しいだろうな」と思っていました。よくやろうと思いましたね。

倉方:私も、東京では絶対に無理、と思っていました(笑)。

以倉:えっ、そうなんですか。

倉方:大阪と東京では、やっぱり人の数も建築の数も違いますからね。それに建築系の学科を持つ大学も多い。大阪では関わる人がそれほど多くないから、ああいうボランティア的な形で実現できたんだろうと思います。はっきり言うと、東京でやるには手間とお金がかかり過ぎる。

──「絶対に無理」と思いながら、なぜ委員長に?

倉方:東京でやるなら、無料公開と有料のガイドツアーを両輪で回すような形になるだろうと思っていました。お金をいただいて、特別な価値をつけて見せることが重要だろうと。一方で、無料公開を実現するにはお金がいる。今回、クラウドファンディングや企業協賛に、たくさんの方々にご協力いただいています。

公式サイトに掲載された協賛パートナーのロゴ

 ただ、始める段階ではそれだけに期待するわけにはいかないので、「東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京」の助成に申し込むことにしました。その段階で、実行委員会を決める必要があって、自分が委員長をやるという覚悟を決めました。

──倉方さんは東京出身ですが、現在は大阪拠点ですよね(大阪公立大学教授)。その点で躊躇(ちゅうちょ)はありませんでしたか。

倉方:いや、むしろ大阪が拠点で、東京の事情もわかる、というのが良いのではないかと思いました。先ほど話したように、東京には建築系の大学がたくさんありますから、自分は中立的な立場に立てる。イケフェス大阪や京都モダン建築祭、神戸モダン建築祭の経験も生かせる。この役は自分しかできないかもと思い、委員長を引き受けることにしました。

──私も実行委員に声を掛けられて、「倉方さんが委員長ならやらざるを得ない」と思いました。他にこのイベントの旗を振れる人が思いつきませんでしたから。実行委員のメンバーも頼もしい面々です。

実行委員:
伊藤香織(東京理科大学 教授)
田所辰之助(日本大学 教授)
山﨑鯛介(東京工業大学 教授)
野村和宣(株式会社三菱地所設計 エグゼクティブフェロー、神奈川大学 教授)
松岡孝治(公益財団法人東京観光財団)
宮沢洋(株式会社ブンガネット 代表)
以倉敬之(合同会社まいまい 代表)

倉方:はい。無理と思っていたイベントを実現するのに、最良のメンバーにお願いしました。

──ところで、初期の段階では「東京モダン建築祭」と言っていましたよね。どのタイミングで「東京建築祭」に?

「大東京建築祭記念出版 建築の東京」。1935年6月に開催された大東京建築祭を記念して刊行された東京市内の復興建築写真集。内田祥三、岸田日出刀、佐藤功一らが執筆している

倉方:これもアーツカウンシル東京の助成を申請する段階でいろいろ考えて、東京では「モダン」に限定する必要はないのではないかと。その方が古いものから最先端まで対象にできて広がりがある。それと、戦前に「大東京建築祭」というアカデミックなイベントがあって、それに重なるのも面白いなと。(※「大東京建築祭」は、建築美増進と建築文化普及を目的に1935年(昭和10年)に開催された)

──それが、わかる人にはわかると。

以倉:「モダン」が取れて、「祭」が強調されたのは、一般の人にとっても良かったなと思います。

倉方:そうでしょう。実は、「東京建築祭」という名前を思いついたとき、「よしっ」と急にモチベーションが上がりました(笑)。

事務局の中核として奔走する大久保佳代さんを交えて記念写真

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 ひとまずここまで。ツアーの仕込みの苦労談などは後日公開予定(たぶん)。ゆるりとお楽しみに。

 それよりも、急ぎはクラウドファンディングとボランティアスタッフの募集。クラファンは5月8日(水)の23:39まで。初期目標の400万円は超えましたが、無料公開にはお金がかかるので、600万円を目指したい! こちらを→https://motion-gallery.net/projects/tokyokenchikusai2024

4月27日時点でのクラファンの状況
クラファンの返礼品の1つである「応援トートバック」のデザインが4月26日に発表された。建築家・藤本壮介氏のオリジナルスケッチをあしらったもの

 ボランティアスタッフも受け付けは5月8日(水)まで。募集要項はこちらを→https://tokyo.kenchikusai.jp/partners/