建築名所百景02:湯布院・竹田(長湯温泉)──「隈VS坂」で赤丸急上昇の建築保養天国

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 各都市の名建築を宮沢のイラストとともに紹介し、そのイラストと参考情報を、グーグルマップにピン止めしていく。前回の大分・別府からもう1~2泊して、湯布院と竹田(長湯温泉)を巡ろう。

駅前に並ぶ“プリツカー師弟”の建築

 まずは温泉保養地として有名な湯布院。湯布院といえば、磯崎新氏が設計した「由布院駅」。これはシンプルだけど、本当にいい造形。磯崎氏の建築は、浮世絵映えする。連載2回にして磯崎建築を3枚描いてしまった。

(イラスト:宮沢洋、以下も同じ)

 ちなみに由布院駅のホームの端には足湯がある。ギリギリに列車に駆け込まず、ゆったりと足湯につかりながら列車の到着を待つのがお薦め。

◆由布院駅
設計:磯崎新アトリエ/1990年
由布市湯布院町川北8-2

 湯布院といえば、ベテラン世代にとっては、磯崎新氏の由布院駅と、原広司氏の「末田美術館」だった。末田美術館も顕在なので、湯布院を訪れたら両巨匠の建築を目に焼き付けよう。

◆末田美術館
設計:原広司/1981年
由布市湯布院町川上1834
参考 http://suedabi.web.fc2.com/

 湯布院の中心部には象設計集団が設計した由布院美術館(1991年)もあったが、2012年に閉館し、今はない。残念。だが、それを埋めてあまりあるニューフェースが2つ。

 まず、温泉街に向かう前に、意識せずとも目に入ってくるのが「由布市ツーリストインフォメーションセンター」。坂茂氏らしい三次元グネグネ木造架構が印象的なこの建物は、2018年に完成した。あまりイメージがないが、坂氏は磯崎新アトリエのOBだ(1982〜1983年に在籍)。つまり2人は師弟で、ともにプリツカー賞受賞者。“日本一ぜいたくな駅前空間”といえるかもしれない。

◆由布市ツーリストインフォメーションセンター
設計:坂茂建築設計/施工:森田建設/2018年
由布市湯布院町川北8-5
参考 http://yufu-tic.jp/tic

 ところで、この記事を書きながら「湯布院」「由布院」、どっちなの?と思ったので、違いを調べてみた。以下、「ゆふいん観光」というサイトから引用。 

 「湯布院は昭和30年に由布院町と湯平町が合併して誕生した地名です。厳密にいうと、湯平町を含む場合は湯布院、含まない場合は由布院となります。例えば、高速道路のゆふいんインターチェンジは『湯布院』、JRのゆふいん駅は『由布院」という具合に表記が異なるというわけです。地元住民の間では湯布院と由布院の違いや経緯は解っていますが、時が流れるにつれ、湯布院と由布院をきっちり分けて考える地元住民は少なくなり、また、観光に訪れる人も、『駅は由布院、観光地は湯布院』くらいの感覚で捉えているようです」

 そして、こう続く。

 「このサイトもそうですが、今は“ゆふいん”というかな表記が増えたような気がしています」

 なんじゃそりゃ!

 で、かな表記ですらない、注目建築がこれだ。隈研吾氏が設計した「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」。
 

 この外壁の黒板張りは、磯崎氏の由布院駅へのオマージュでは? 師弟つながりのない隈氏の方が磯崎寄りなのはなぜ?と、いろいろ考えてしまう。

◆COMICO ART MUSEUM YUFUIN
設計:隈研吾建築都市設計事務所/2017年
由布市湯布院町川上2995-1
参考 https://kkaa.co.jp/works/architecture/comico-art-museum-yufuin/:

新たな建築の聖地、竹田市へ

 車であれば、湯布院から南へ向かい竹田市へ。この記事を書いていて知ったのだが、読み方は「たけだ」ではなく「たけた」だった。そもそも地名を初めて聞いたという方もいるかもしれない。が、竹田は新たな建築の聖地として赤丸急上昇中のエリアだ。この機に覚えておいてほしい。

 建築好きの注目を集めるようになったのは、これがきっかけだろう。藤森照信氏の設計で2005年に完成した「ラムネ温泉」。建築もいいけれど、オカメザサの海のようなランドスケープが実にいい。藤森建築ベスト5に入る名作だ。

◆ラムネ温泉
設計:藤森照信/2005年
竹田市直入町大字長湯7676-2
参考 http://www.lamune-onsen.co.jp/facility/

 「ラムネ」というのは、この地が「世界屈指の炭酸泉」ともいわれる長湯温泉エリアで、湯につかると肌にラムネのような泡がつくからだ。

 そして、長湯温泉には2019年、坂茂氏の設計による「クアパーク長湯」もオープンした。これも坂氏らしい木造架構だ。

◆クアパーク長湯
設計:坂茂建築設計/2019年
竹田市直入町大字長湯3041-1
参考 https://casabrutus.com/architecture/111933

 坂氏のクアパーク長湯を描こうかとも思ったのだが、少し東に戻って「御前湯」へ。象設計集団が設計した温泉療養文化館だ。象設計集団の代表作かどうかは微妙だが、そのアニメ的な造形が絵になりそうだったので、こっちを描いてみた。

◆温泉療養文化館 御前湯
設計:象設計集団/1998年
竹田市直入町長湯7962-1
参考 http://zoz.co.jp/works/commercial/spa/naoiri/

 しまった。イラストを5枚描き終えてしまった。

 ここからは「イラストなし」になるが、竹田市中心部にもどんどん新しい建築が建っているので、紹介しておく。

 まず、隈研吾氏の新作が立て続けに2件オープン。「竹田市城下町交流プラザ」と「竹田市歴史文化館・由学館」だ。

◆竹田市城下町交流プラザ
設計:隈研吾建築都市設計事務所/2020年
竹田市大字竹田町487番地1
参考 https://kkaa.co.jp/news/taketa-city-hall-proposal/

◆竹田市歴史文化館・由学館
設計:隈研吾建築都市設計事務所/2019年
竹田市竹田2083番地
参考 https://www.taketan.jp/spots/detail/57

2018年には香山壽夫氏の設計による「竹田市総合文化ホール グランツたけた」が完成した。

◆竹田市総合文化ホール グランツたけた
設計:香山壽夫建築研究所/2018年
竹田市大字玉来1-1
参考 http://kohyama-a.co.jp/works/%E7%AB%B9%E7%94%B0%E5%B8%82%E6%96%87%E5%8C%96%E4%BC%9A%E9%A4%A8/

 その1年前には塩塚隆生氏の「竹田市立図書館」がオープン。

竹田市立図書館
設計:塩塚隆生アトリエ/施工:管組/2017年
竹田市大字竹田1959-4
参考 http://www.shio-atl.com/work_67.html

 竹田市のこの建築熱の高まりは、一体どういうことなのだろう?

 竹田市にはアトリエ・モビルの設計による「レゾネイトクラブくじゅう」もあるので、建築濃度を極限まで高めたいなら、ここに宿泊してみては?

レゾネイトクラブくじゅう
設計:Team Zoo アトリエ・モビル/1993年
竹田市久住町大字有氏1773
参考 http://www.resonate.co.jp/hospitality/

 そして最後に、前回の「大分・別府」で、野津原町(2005年に大分市へ編入)の建築を書き忘れたので、地図に加えておいた。

◆大分市野津原市民センター(旧・野津原町庁舎)
設計:伊東豊雄建築設計事務所/1998年
大分市大字野津原800
参考 http://www.toyo-ito.co.jp/WWW/Project_Descript/1990-/1990-p_21/1990-p_21_j.html

◆のつはるこども園(旧・野津原町多世代交流プラザに増築)
設計
:青木茂建築工房/2000年
大分市大字野津原1731−3
参考 https://www.naana-oita.jp/facilities/detail/394

 壮大な全国建築MAPづくりは、こんな感じ(↓)。まだまだだなあ(笑)。

 次回は九州を離れ、滋賀県大津市を巡る。前回の記事をまだご覧になっていない方は下記へ。(宮沢洋)

建築名所百景01:大分・別府──世界のイソザキと名湯を堪能する2日間