建築名所百景01:大分・別府──世界のイソザキと名湯を堪能する2日間

Pocket

 新企画「建築名所百景」をスタートする。各都市の名建築を宮沢のイラストとともに紹介し、そのイラストと参考情報を、グーグルマップにピン止めしていく。初回は大分・別府を巡る。

(イラスト:宮沢洋、以下も)

 本題に入る前に、この企画の経緯を少しだけ。先週のOffice Bungaの定例会議(一応、毎週会議がある)にて、こんなやりとりがあった。
 
宮沢:旅行や出張帰りの新幹線の中で、「あっ、ここにこんなのがあったのか!」って気づくことありますよね。そんな“建築あるある”を防ぐために、各都市の注目建築の写真をグーグルマップにピン止めしていって、誰でも見られるようにしたらどうでしょう。
磯:「別にやればいいけど、それってBungaでしかできないこと?」
宮沢:「えっ…」
磯:「やるならイラストにしたら?」
宮沢:「…」

 普段、「このサイトでしか読めない情報を発信する」と言い張っている手前、そう言われると引き下がるわけにいかない。労力はかなり増えるが、イラストで行こう、と決めた。確かに、写真よりもイラストの方が想像力が沸き、実物を見に行くモチベーションが高まりそうだ。これからの観光復活の一助になるかもしれない。とはいえ、エリア内のすべての建築は描き切れないので、各エリアで厳選5件をイラスト化する。外国の方にも興味を持っていただけるように、江戸時代の名所絵風に描いてみることにした。

1日目は坂茂→磯崎新→内井昭蔵

 初回は、「坂茂建築展」が大分県立美術館で2020年7月5日(日)まで開催中の大分市と、西隣の別府市を巡る。1泊2日の旅を想定している。
 
 スタートは、その「大分県立美術館」にしよう。前面道路に架かる屋根付き歩道橋も必見だ。

◆大分県立美術館(OPAM)
設計:坂茂建築設計/施工:鹿島建設・梅林建設 建設共同企業体/2014年
大分市寿町2-1
参考 https://www.opam.jp/page/construction.html

 屋根付き歩道橋を渡ると、日建設計が設計した「OASISひろば21」がある。

◆OASISひろば21(iichiko総合文化センター)
設計:日建設計/施工:フジタ/1998年
大分市高砂町2-50

 ここから磯崎新氏設計のアートプラザに向かうが、その途中で、「大分県庁舎」をちら見したい。旧建設省営繕部の安田臣が設計した渋い建築だ。日本建築学会賞作品賞も受賞している。

◆大分県庁舎本館
設計:建設省九州地方建設局営繕部(安田臣)/1962年
大分市大手町3丁目1- 1

 そして、旅の目玉ともいえる「アートプラザ」へ。設計者は、大分出身で2019年のプリツカー賞を受賞した磯崎新氏(1931年~)。その“世界のイソザキ”の初期の代表作である「県立大分図書館」をリノベーションしたものだ。内部はさながら磯崎ミュージアム。展示物は質量とも圧倒的だ。

◆アートプラザ
設計:磯崎新アトリエ/1966年
大分市荷揚町3-31
参考 https://www.city.oita.oita.jp/o210/isozakiarata.html

 さすが、磯崎氏の出身地。大分市内には、磯崎氏設計の県立図書館(豊の国情報ライブラリー)もある。

◆豊の国情報ライブラリー
設計:磯崎新アトリエ/1995年
大分市王子西町14-14

 磯崎ファンであれば、出世作である「岩田学園」も気になるだろう。時間があれば、遠景だけでも見ておきたい。

◆岩田学園
設計:磯崎新アトリエ/1964年
大分市岩田町1丁目1

 大分市の後、湯布院方面に向かうならば、「富士見カントリークラブハウス」も磯崎氏の代表作の1つだ。上から見ると「?」の形をしている。

◆富士見カントリー倶楽部
設計:磯崎新アトリエ/1974年
大分市大字横瀬1473

 磯崎氏と坂氏でお腹いっぱいになってしまいそうだが、建築好きは内井昭蔵(1933~ 2002年)の異色作、「大分市美術館」を見ておきたい。「健康な建築」を主張していた内井氏が、こんなアバンギャルドなデザインに挑んでいたのか…。

◆大分市美術館
設計:内井昭蔵建築設計事務所/施工:清水建設・佐伯建設共同企業体/1999年開館
大分市大字上野1丁目865
https://www.city.oita.oita.jp/o170/machizukuri/toshi/documents/4e719ba3013.pdf

 大分駅を利用するならば、駅前にできたばかりの「祝祭の広場」(2019年秋オープン)を見よう。建築家のヨコミゾマコト氏が設計に参画したこの広場は、門型の大屋根がスライド移動する仕組みを持つ。

◆祝祭の広場
設計:建設コンサルタントサニー・ヒュマス・ヨコミゾマコト建築設計事務所・都市企画工房共同提案体/施工:新成建設ほか/2019年
大分市府内町1丁目1−1

 そして、市の中心部からは離れるが、北東方面に大型建築が2つある。

◆昭和電工ドーム大分(ビッグアイ)
設計:KTグループ(黒川紀章建築都市設計事務所・竹中工務店・さとうベネック・高山総合工業)/施工:KT グループ JV/2001 年
大分市大字横尾1351

◆昭和電工武道スポーツセンター(大分県立武道スポーツセンター)
設計:石本建築事務所、山田憲明構造設計事務所/施工:施工:フジタ・末宗組特定建設工事共同企業体/2019年
大分市大字横尾1351
http://www.ishimoto.co.jp/products/4821/

2日目は吉田鉄郎を味わいつつ名湯に浸かる

 2日目は別府市を巡るので、西に向かおう。途中、国道10号線の海側に、「大分マリーンパレス水族館」がある。日建設計が設計したものだ。

◆大分マリーンパレス水族館「うみたまご」
設計:日建設計/施工:竹中工務店・佐伯建設 共同企業体/2004年
大分市大字神崎 字ウト3078-22
https://www.city.oita.oita.jp/o170/machizukuri/toshi/documents/84.pdf

 別府に着いたら、まず吉田鉄郎(1894~1956年)が設計した「別府市公会堂」へ。昭和の改修の際に、シンボルであった正面階段が撤去されていたが、2015年からの改修で再度取り付けられた。グッジョブ!

◆別府市公会堂
設計:吉田鉄郎/1928年
別府市上田の湯町6-37
http://www.beppu.biz/monumentkoukaidou.htm

 別府市児童館も吉田鉄郎の設計(旧別府郵便電話局電話分室)。こちらは国の登録有形文化財となっている。

◆別府市児童館(旧別府郵便電話局電話分室)
設計:吉田鉄郎/1928年
別府市末広町1-10

 別府の街は、「別府タワー」(1957年完成)から見下ろそう。最高高さ90mと大した高さではないが、設計者は東京タワーを設計した内藤多仲(たちゅう、1886~1970年)。内藤が設計した「タワー6兄弟」の1つだ。

◆別府タワー
設計:内藤多仲/1957年
別府市北浜3丁目10-2
http://www.bepputower.co.jp/abouttower/index.html

 イラストは別府タワーを描こうかとも思ったのだが、やはり大分なので磯崎氏の「ビーコンプラザ」にした。この展望台、かなり怖い。構造設計は川口衞氏だ。

◆ビーコンプラザ
設計:磯崎新アトリエ/施工:清水建設・佐藤組・三光建設工業/1995年
別府市山の手町12-1

 川口衞氏といえば、川口氏が自らデザインした橋も別府にある。

◆イナコスの橋
設計:川口衛・永瀬克己(協力)/施工:前田建設工業/1994年
別府市南立石二区4548

 最後になってしまったが、日本屈指の温泉街で、温泉に入らないのは無粋というもの。建築にこだわるならば「竹瓦温泉」だろう。温泉街の象徴ともいえる木造建築は、国の登録文化財となっている。

◆竹瓦温泉
1938年
別府市元町16
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/184103

 書いていて改めて思う。別府・大分、また行きたい!!

 そして、壮大な全国建築MAPづくりは、こんな感じ(↓)でスタートした。

 紫色のピンをクリックすると、下の画像のようにイラストが見られる。設計者などの情報はすべてのピン(紫・オレンジとも)に入れてある。いつか全国くまなくピンが立つ日を夢見て、次回も頑張りたい(宮沢洋)

次の記事:建築名所百景02:湯布院・竹田(長湯温泉)