開業前から抜群の集客力、名古屋・栄の復権担う「久屋大通公園」はこんなに変わった

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 開業は9月18日(金)と聞いて、前々日に「事前見学」を申し込んだつもりだったのだが、行ってみたら園内は多くの市民でにぎわっていた。名古屋テレビ塔の南北に延びる「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリパーク)」の9月16日の様子である。グランドオープンは9月18日だが、今週に入ってから、各施設が徐々に“ならし営業”を始めているのだという。

テレビ塔の足元近くにある卓球スクール「T4 STUDIO」。屋外で卓球なんて!(写真:宮沢洋、以下も特記以外は同じ)

 ご多分に漏れず、コロナ禍でオープンが延びた施設だが(当初は7月開業予定)、人々の「のんびりと外の空気を吸いたい」という気持ちにぴったりはまったようだ。

Park-PFIで三井不グループ当選、設計は大成+日建

 久屋大通公園(名古屋市中区)は名古屋テレビ塔が完成した1954年から段階的に整備され、1978年にほぼ現在の形となった。樹木が育ち過ぎて、暗い、怖いといった声が多くなっていた。

リニューアル前の北エリア(写真:大成建設)
リニューアル前のテレビ塔エリア(写真:大成建設)

 名古屋市は、民間活力によって久屋大通公園を再生させ、栄地区の魅力向上を図ることを計画。都市公園法の改正により創設された「公募型設置管理制度(Park-PFI)」を導入し、「北エリア(約2万8500㎡)」と「テレビ塔エリア(約2万5500㎡)」の計約5万4000㎡を事業対象区域として、収益施設(飲食・物販など)の整備・運営と併せた公園施設の整備を行う民間事業者を2017年に公募した。市が公園の整備費用を負担し、民間事業者が建物の建設費と公園の維持管理費を商業の収益から賄う事業スキームだ。事業期間は、2038年2月末までの20年間。

 2017年2月に募集要項が公表され、2グループが提案を提出。18年2月に三井不動産グループが当選が公表された。同グループの構成団体は三井不動産、大成建設、日建設計、岩間造園。敗れたもう1者は三菱地所グループ(構成団体は三菱地所、竹中工務店、電通、NTT都市開発)だった。

リニューアル後の北エリアをテレビ塔から見下ろす
リニューアル後のテレビ塔エリア南側をテレビ塔から見下ろす

 設計は、大成建設と日建設計。大成建設が主に商業施設を設計し、日建設計が公園のランドスケープ設計の中心になった。施工は大成建設。大成建設設計本部建築設計第三部の網干(あぼし)和専任部長(下の写真左)と、同建築設計第三部設計室(高島)の田中英輔シニア・アーキテクト(写真右)に現地を案内してもらった。

網干氏(左)は、「テラスモール湘南」(2011年)などを担当した商業施設設計のスペシャリスト

米国の公園を思わせる抜けの良さ

 設計開始から竣工まで約2年、うち工事期間は1年半。その短期間でこれだけの変わりように驚かされる。

 最も印象が変わったのは、視界の抜けの良さだ。提案時の肝である「テレビ塔を中心とした明快なビスタラインを形成」とは、なるほどこういうことだったのか……。

 特に北エリアの端から見た芝生の連なり(上の写真)は、米国の公園を思わせる。以前は育ち過ぎた樹木が密集しており、名古屋市の要望もあってかなりの数を間引いた。

 店舗数は全体で約35店。敷地は広いが、建蔽率は10%。敷地の端まで人々を誘導するため、建物を1カ所に集中させず、分散させた。

 建物はそれぞれデザインが異なる。「同じ形にした方が合理的だが、視覚的変化がないと歩いて楽しめない」(網干氏)。北エリアの店舗は、屋根の傾斜がバラバラで、地上から見ても変化があるが、テレビ塔から見下ろすと面白い。

インスタ映えする水盤

 テレビ塔エリアは、中央に水盤を設け、「逆さテレビ塔」が眺められるようにした。

 水盤からは定期的に霧が吹き出す。SNS映えスポットだ。

 商業施設は、地下鉄の駅から近いテレビ塔エリアの方が密度が高い。こちらは陸屋根中心。配置は、わざと凹凸を設け、視覚的な変化をつけた。屋外にはパーゴラやテラスを多く設け、にぎわいを演出する。

 一方で、外壁の色味はグレー中心に抑えた。華美にならず、かつ単調にならないよう、リブ付きのALCパネルと金属サイディングで陰影のある表情を持たせた。縦ラインを強調した壁面(下の写真)は、名古屋伝統の「有松絞り」がモチーフという。

地下街の上の難工事

 樹木の大きさを見ると忘れそうになるが、この公園の下には地下街がある。田中氏は、「地下施設やインフラとの調整にかなり苦労した」と語る。ランドスケープとのすり合わせについては、「最初から日建設計とチームで臨んだので、スムーズに進めることができた」(網干氏)。この種の公共施設でありがちな、建築と造園の境界の違和感がほどんどない。

 公園の中心にある名古屋テレビ塔も大改修を終え、9月18日(金)にリニューアルオープンする。こちらの改修設計は日建設計、施工は竹中工務店。こちらもすごいので、そのリポートは次回に。(宮沢洋)

タワー丸ごと免震化、ついに「建築物」となった名古屋テレビ塔が本日開業(2020年9月18日公開予定)