松濤美術館、白井晟一展第2部は「ほぼ作品のない展示室」(想像図付きルポ)

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 「渋谷区松濤美術館」の開館40周年記念展「白井晟一入門」の第2部が1月4日から始まる。第1部の会場の様子は、すでに昨年10月にリポートしているが(こちらの記事)、筆者はむしろこの第2部の方を楽しみにしていた。なぜ第2部が楽しみだったかというと、展覧会なのに展示物がほとんどないと聞いていたからだ。そのおかげで、今しか見られないこんな空間が見られる。

池側の開口部が見える地下1階展示室 。2021年12月28日の内覧会で撮影(写真:宮沢洋)

 同じ地下1階展示室は、第1部ではこんな様子だった。

ほぼ同じ角度から見た第1部の展示の様子。全く池の存在は分からない

 「展示物がない企画展」というと、2020年夏に世田谷美術館で開催された「作品のない展示室」が記憶に新しい。これは、コロナ禍で開催できなくなった企画展の穴埋めとして、急きょ、設計者である故・内井昭蔵が意図した“素の空間”を無料で見せることにしたものだった(詳細はこちらの記事→世田谷美術館「作品のない」企画展、ベテラン学芸員から若手へのバトン)。世田谷美術館では、普段ほとんど閉ざされている開口部が展示室に現れ、公園と一体化する美術館というコンセプトが実感できた。

 今回の松濤美術館の展示は、「設計者が意図した空間を見せる」というコンセプトを、コロナ禍の穴埋めではなく、戦略的に企画展後半戦のメイン企画として位置付けたもの。入館料は一般1000円で、第1部と変わらない。なかなかに攻めた企画。しかし、これは建築好きにとっては十分、1000円の価値がある体験だ。 

幻のブリッジ動線を体験(&妄想)

 会場の渋谷区松濤美術館(1980年竣工、81年開館)は白井晟一(1905~83年)の晩年の代表作。1階の入り口を入ると、2階と地下1階にいずれも馬蹄形の展示室がある。

 冒頭で触れたように、変化が分かりやすいのは地下の展示室だ。普段は仮設の壁などでふさがれた池が展示室から見える。

開口部から見える池とブリッジ

 本展に限り、この展示室を見下ろすバルコニーに、池の上に架かるブリッジ(1階)を渡って入ることができる。いつもは作品保護のため、ブリッジからバルコニーには入れない。

池の上に架かるブリッジ
ブリッジを渡ると、地下1階展示室のバルコニー

 その体験がなぜ重要かというと、白井は当初、このブリッジを渡って、地下の展示室に降りる動線を考えていたからだ。本展の数少ない展示物の1つがこれ↓。設計初期の1階平面図だ。

 この図面を見ると、現在の屋内バルコニーはない。ブリッジを渡って展示室内に入った後、ふた又に分かれたらせん階段で地下1階に降りる動線だ。

 想像も交えて、写真に階段を描き加えてみた。

図面を見ながら階段を描き加えてみた(イラスト加筆:宮沢洋)

 確かにドラマチックではあるけれど、湿気を含んだ外気が展示室に入るなんて、そりゃ反対されるわ……と、突っ込みを入れたくなる。

2階展示室は貴族の客間のイメージ?

 もう1つの展示室、2階の方は、地下とは逆に「いつもはないものがある」展示だ。白井が意図したイメージで、ソファがW字にゆったりと置かれているのだ。

ソファには座れる。ふかふか過ぎて座り心地は何とも……

 貴族の大豪邸か!? 客間で絵を見るようにゆったり作品を見せたいのは分かるけれど、こんなにソファを置いたら、作品がちょっとしか置けないよ……と、これも矢継ぎ早に突っ込みを入れたくなる。

 奥の小部屋も、アーチ型の入り口に、いつもは見えない引き戸が見えていて、なるほど本当はいちいち扉を開けて入らせたかったのだな、ということが想像できる。

 そんなふうに、白井が当初イメージした空間が体験でき、併せてこの建築を生かす展示や運営がどれほど大変かということも想像が沸く。

 本展を見て「これは美術館建築として失敗だ」なんて思う人は、建築好きにはたぶんいないだろう。常識にとらわれない白井の発想は刺激になるし、今後こんなふうに使ったらどうか、と考える訓練にもなる。白井ファンならずとも必見だ。第2部は1月30日(日)まで。新型コロナウィルス感染症拡大防止のため、土・日曜日、祝日および最終週(1月25日~30日)は「日時指定制」とのこと。(宮沢洋)

■白井晟一入門 第2部/Back to 1981 建物公開
会期:2022年1月4日(火)~1月30日(日)(第1部「白井晟一クロニクル」は2021年10月23日~12月12日)

■渋谷区立松濤美術館
所在地:東京都渋谷区松濤2-14-14)
アクセス:JR・東急電鉄・東京メトロ 渋谷駅から徒歩15分、京王井の頭線 神泉駅から徒歩5分
公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/194sirai/