速報!注目増築・第2弾、「SOMPO美術館」は今後の範となる容積緩和別棟型

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 2020年の“注目超高層増築”2件のうちの1つ、「SOMPO美術館」(損保ジャパン日本興亜本社ビルの増築)がいよいよ7月10日(金)にオープンする。前日の7月9日(木)に行われた内覧会で、大成建設の設計担当者に話を聞いた。

(写真:特記以外は宮沢洋)

 損保ジャパン日本興亜本社ビルは、7月1日に増築部の「三角広場」が一般公開となった新宿住友ビル(参考記事「速報!初の超高層本格増築「三角広場」お披露目、ビフォー・アフターを写真で比較)の東側400mほどのところにある。同ビルは「安田火災海上本社ビル」として1976年に竣工した。地上43階建て。内田祥三らによる設計チームが設計し、大成建設・清水建設・鴻池組JVが施工を担当した。今回の増築は、大成建設が設計を担当。施工は、元施工と同じ大成建設・清水建設・鴻池組JVが進めた。

 増築部は鉄筋コンクリート造、地下1階・地上6階建て、延べ面積約4000㎡。タワーとは隙間を空けて立つ形だ。

 今回の増築を可能にしたのは、2014年の建築基準法改正だ。この法改正でエレベーターの昇降路部分の床面積を容積率に算入しないことが定められ、地上43階建てのこのビルでは約4000㎡の余剰容積が生まれた。連担(れんたん)建築物設計制度を適用し、既存タワーと別の建物として美術館を建設した。下部は機能的にはつながっているが、構造的にはエキスパンション・ジョイントで切れている。当初の特定街区を変更。帰宅困難者受け入れ場所の拡充などを前提に、有効空地の付け替えなどを行った。

工事前(写真提供:大成建設)
工事後(写真提供:大成建設)

 新宿住友ビルの三角広場は、タワー足元の有効空地に大屋根を架けるという大技(タワーに現行法規が遡及する)だったが、こちらはタワーの隣に別の建物を建てる形なので、かなり現実的。同様に、余剰容積の活用を検討している超高層ビルの分かりやすいサンプルとなるだろう。

美術館は明日、7月10日にオープン

 美術館はタワーが完成した1976年に「東郷青児美術館」として42階にオープンした。以後、何度か名称が変わり、2014年からは東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館となっていた。今回、足元の新ビルに移るに当たり、「SOMPO美術館」というシンプルな名前になった。当初は2020年春にオープンの予定だったが、コロナの影響でオープンが延びていた。明日、7月10日にオープンする。

 内部に入ろう。1階はエントランスホール。

 2階はカフェや売店。東西両側に開口部がある。

 3~5階は展示スペース。総展示室面積は約755㎡。

なるほど!この曲線は「東郷青児」

 気になるのは、建物の形だ。設計を担当した大成建設設計本部建築設計第一部設計室(中藤)・遠藤貴弘氏の説明によれば、前提となったのは、「建物自体をアートにすること」。「西新宿アートストリート」の入り口に隣接するため、アートとしての彫刻的な外観を目指した。壁面のカーブは東郷青児の絵画作品や、タワーの足元のカーブから着想を得た曲線で構成している。

(写真提供:大成建設)

 上部の鋼板仕上げは、コンクリートの型枠を兼ねている(打ち込み型枠)。鋼板はタワーの色と合うように薄い色を塗った。鋼板をつなぐために溶接したビード(溶接の盛り上がり)を削って平滑にするのではなく、あえて等間隔に並べて縦ストライプを強調した。

 「美術館にあるゴッホの『ひまわり』の強い筆のタッチ(下の写真)をイメージした」と遠藤氏は語る。これには、ビードを削った部分が経年で色が変わるのを防ぐ意図もある。

 5階には、このプロジェクトの設計過程の模型などが展示されている。

 ちなみに、案内してくれた遠藤氏(上の写真)は32歳。もともと生産施設の設計グループにいたが、このプロジェクトのスタート時に抜擢されたという。今後に期待したい。(宮沢洋)