光熱費1760万円減、映え度増の「大成建設関西支店」ZEBリニューアル(大阪/2023年)─TAISEI DESIGN【イノベーション編】

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大組織に属する設計者たちがチームで実現した名建築にも、世の人々に知ってほしい物語がある。大成建設が設計を手掛けた名作・近作をリポートする本連載。第4回は、「イノベーション編」として、築約30年の自社ビルを省エネ改修した「大成建設関西支店ビル」(大阪市)を訪ねた。(宮沢洋)

【協力:大成建設設計本部】

 「環境」や「省エネルギー」というキーワードに反対する人はまずいない。けれども、「環境にやさしいから」という理由でまだ使える家電(例えば冷蔵庫やテレビ)を買い替えるように薦められると、その決断にはかなり迷う。廃棄される家電の環境負荷をどう見ればいいのか…。家電にもエコ改修のようなサービスは生まれないのだろうか、といつも思う。

 それに比べると、建築はわかりやすい。建て替えずに、消費エネルギーが最新のエコ建築並みになればそれは間違いなくベストの選択だ。後ろめたさを感じずに決断できる。

ZEBリニューアルを実施した大成建設関西支店ビル(特記以外の写真:宮沢洋)

 今回はそんな省エネ改修の最先端プロジェクトを見学した。大阪市南船場の大成建設関西支店ビルだ。バブル末期の1992年竣工(第2期増築は1998年)、築30年以上がたつ自社ビルを、2022年4月から2023年3月にかけて、オフィスを使用しながら改修した。

 設計を担当した大成建設関西支店設計米澤室(建築担当)の米澤俊樹室長、同室の番匠真美氏、設計部設計室(設備)の木谷宇プロジェクト・エンジニア、同室の川村圭プロジェクト・エンジニアの4人が案内してくれた。

左から大成建設関西支店設計米澤室(建築担当)の米澤俊樹室長、同室の番匠真美氏、設計部設計室(設備)の木谷宇プロジェクト・エンジニア、同室の川村圭プロジェクト・エンジニア。関西支店の屋上庭園にて

外装の断熱強化・高機能化と設備性能強化により「ZEB Ready取得

 まずは、川村圭氏執筆による技術資料からクールな説明を引用しつつ(太字部)、写真を見ていこう。

 本案件は、竣工して30年以上経つ大成建設関西支店ビルを、居ながら改修によりZEB化するリニューアル工事である(Ⅰ期棟:1992年竣工、Ⅱ期棟:1998年竣工、延床面積:13,700㎡)。

改修前の外観。左側がⅠ期棟で右がⅡ期棟。ちなみに、Ⅰ期棟の設計の中心になったのは、本連載第1回で紹介した「ザ・シンフォニーホール」の設計担当でもあった美濃吉昭氏(写真:大成建設)
改修後の南側外壁

 外装のリニューアルによる断熱強化・高機能化(PASSIVE性能の強化)と設備機器の高効率化・エネルギー消費量の削減(ACTIVE性能の強化)の2つの側面よりZEB化に取り組み、意匠・構造・設備が三位一体となった計画を行った。建築物省エネルギー性能表示制度において、BELS☆☆☆☆☆の評価を受けると同時に、ZEB Ready(BEI=0.37(その他含まず))の認証を取得した。

1. 外装のリニューアルによる断熱強化・高機能化

・多機能外装ユニットの導入:南面の直射日光を遮り、創エネと緑化を行う多機能外装ユニットを新設した。ユニットは、2段のルーバーで構成される。上段はルーバーにより室内への直射日光を遮り、ルーバー上面に透過性のある太陽電池を設けることで、日射遮蔽と創エネを両立させた。下段には植栽ユニットを設置し、執務者のウェルネス効果に配慮した。

(資料:大成建設)
植栽ユニットを組み込んだ窓下のルーバーを見る(写真:大成建設)

・ルーバー形状の最適化計算の実施室内への日射量が、年間で最も小さくなるルーバー形状を最適化計算により決定した。最適化計算により、夏期は室内への日射量をほとんど抑え、中間期においても、ユニット導入前後で約10%まで抑えることができた。

2段ルーバーの模型

・排気活用型窓システムの導入:窓の断熱性能の向上を図るダイナミックインシュレーションの考え方を利用し、二重窓の換気に室内の空調排気を利用する「排気活用型窓システム」を開発した。本案件では、このシステムを日射の影響を受けやすい西面の各階開口部に導入した。導入にあたり、モックアップを作成することで、既存窓と比較して窓表面温度が最大約10℃低減できることを確認した。

(資料:大成建設)
改修した窓の脇の柱に、窓回りの断面が描かれている

2. 設備機器の高効率化とエネルギー消費量削減の工夫

・空調システム概要:リニューアルによるZEB化工事のモデルケースとなるよう、Ⅰ期棟とⅡ期棟で空調方式を分けて計画した。Ⅰ期棟は、空冷ヒートポンプモジュールチラーによる中央熱源方式、Ⅱ期棟は、空冷ヒートポンプパッケージエアコンによる個別空調方式とした。Ⅰ期棟は、中温冷(11℃→19℃)とすることで、冷房時に熱源が高COP運転できる計画とした。また、密閉式クッションタンクを設け、ZEBの年間ピークとなる冬期の立上げ負荷を低減させる蓄熱によるピークカットを行うシステムとした。

・薄型放射ダクトの開発と導入:熱伝導率の高いアルミパネルと段ボールダクトを組み合せることで薄型の放射ダクトを構成し、パネル内部へ空調機からの吹出空気を送風する空気式放射空調システムを開発した。軽量な段ボールダクトを使用することで、リニューアル工事における施工性に配慮した。また、アルミパネルにリブを設けることで光拡散効果を持たせて、照明の光を拡散反射させ、室の明るさ感を向上させる効果を持たせた。導入にあたり、モックアップを作成し、薄型放射空調ダクトの効果検証を行った。

天井の薄型放射ダクト。光を拡散させるリブの形状は、様々なものを実験し、これになった
(資料:大成建設)

・AI・クラウドを活用した空調制御システムの導入:Ⅰ期棟とⅡ期棟のエネルギー消費量が最小となる運転モードを各設備機器へ指示するAIとクラウドを活用した空調制御システムを導入した。センサー類や気象予報等から情報を収集し、熱負荷予測を行うことで最適な運転台数や送水温度の指示を出すことできる。

 …と、そんな種々の対策を施した。

年間1760万円の光熱費が浮く!

 資料のコピペで楽をしようというわけではない。性能面の話は、第三者が余計な形容を加えると誤解を招く。制度についてだけ補足すると、改修後に取得した「ZEB Ready」という認証は、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略称である「ZEB(ゼブ)」の4段階のうちの上から3番目(ZEB→Nearly ZEB→ZEB Ready)、「基準建築物と比較した時の一次エネルギー年間消費量を50%以上削減(再生可能エネルギーは除く)」を実現したものを指す。

 このビルの改修後のBEI(基準建築物と比較した時の設計建築物の一次エネルギー消費量の比率)は0.37。改修前後ではCO2排出量が365t-CO2/年の削減(削減率52.7%)となり、光熱費は1760万円/年の削減(削減率44.3%)だという。CO2の量は見えないので正直ピンと来ないのだが、「年間1760万円の光熱費が浮く」と聞くと、すさまじいリニューアルだと実感が沸く。

見た目も性能もアップ、これぞ「生きた建築」

 そんな数値的なことももちろんすごいとは思うものの、筆者はどうしても見た目の変化の方に引かれてしまう。1つは南側の外壁面に加えられた2段ルーバーだ。リチャード・ロジャース(1933~2021年)やマイケル・ホプキンス(1935~2023年)を思わせるハイテクデザイン。もとの壁面もシャープで良かったが、改修後の方が写真映えする。

 もう1つ、外から見てもわかるのは、外壁に面した居室部を一部「減築」していること。止水ラインを内側に新たに設け、屋外テラスとして使えるようにしたのだ。

写真中央左が減築して屋外化した部分
屋外化した部分はこんな感じ。ガラスの蛇腹扉を閉めることもできる
会社に居ながら、まるでワーケーション

 そして、外からはわからない魅力が室内西側の窓回り。木質部が増えて、北欧のオフィスみたいだ。

ダブルスキン化した窓の間にブラインドが降りる。これなら壊れない

 「見た目が変わらず性能アップ」より、「見た目も性能もアップ」の方がユーザーへのアピール度は高い。だが、オフィスなので、残念ながら一般の人は外から見るのみ。筆者の大好きな「イケフェス」(生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪)などのタイミングで、このビルも一般公開すればいいのにと思う。まさに「生きた建築」ではないか。これを見た人が、年間1760万円も光熱費が浮いて、しかもこんなに気持ちがいいと知れば、ビルリニューアルへの関心も高まるし、大手建設会社に抱くイメージもがらりと変わる気がする。(宮沢洋)

■建築概要
大成建設 関西支店ビル(ZEBリニューアル)
所在地:大阪市中央区南船場1-14-10
用途:事務所
建築主:大成建設
改修設計・施工:大成建設
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地下2階・地上9階
延べ面積:1万3700m2
改修期間:2022年4月~2023年3月

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