東京工業大学の大岡山キャンパス正門入り口付近に、隈研吾氏の設計による国際交流のランドマーク「Hisao & Hiroko Taki Plaza(Taki Plaza)」が完成し、12月12日午後に竣工式が開催された。本格使用は来春(2021年4月)からだが、ひと足先に現状をリポートする。
まず気になるのは、名称だろう。東工大のサイトによると、「本学の卒業生である株式会社ぐるなび 取締役会長の滝久雄氏より、留学生を中心とした学生の支援および交流の場を設置する目的で多額の寄附を受け、大岡山キャンパスの新たなランドマークとすべくHisao & Hiroko Taki Plaza(Taki Plaza)を設置することとなりました。Hisao & Hiroko Taki Plazaという名称には、寄附者に感謝の意を表すとともに、学生が集う場所という思いが込められています」とのこと。
竣工式には、滝久雄ぐるなび会長も出席。設計者の隈氏と、陶板アートをデザインした漫画家の大友克洋氏とともにトークイベントに参加した。
大友克洋氏が原画・監修の壁画・陶板作品『ELEMENTS OF FUTURE』もお披露目になった。1階の入り口を入って正面にある。
駅から本館の時計塔が見える
建築を見ていこう。設計主旨を大学のサイトから引用する。
日本人学生と留学生が共に学び交流できる場所をつくるにあたり、我々(隈研吾建築都市設計事務所)は大岡山キャンパスの地形に着目しました。地形のようなスロープ状の外形と、それに沿った内部の吹き抜けをもつ建物とすることで、学生のための新たなプラットフォームをつくる計画としました。
人工木デッキと植栽で覆われたこの新しい地形は、隣接する附属図書館の緑地や桜・銀杏並木と一体となって、緑のアプローチを創り出し、キャンパスに学生の新しい流れをつくります。正門から本館時計台への視線を妨げないように配慮した外観は、結果的に大岡山の起伏に富んだ地形のような、“丘状の建築”となりました。
もともとこの場所には図書館があったが、安田幸一氏(東工大教授)と佐藤総合計画の設計による図書館(下の写真の左側)が2011年に竣工したことで、新施設に建て替えた。
立ち話だが隈氏にも話を聞くことができた。隈氏は、大岡山駅から本館の時計塔が見えることを強調していた。どれどれ。
拡大してみると…。
おお、確かに見える。全体の高さを抑えることに加え、正門側を段状テラスで斜めに削ることで、見えるようにしたという。
ちなみに、正門右手に立つのは、篠原一男の代表作、「百年記念館」(1987年竣工)。
Taki Plazaの西側には、谷口吉郎が設計した「70周年記念講堂」(1958年竣工、下の写真の右)。南奥には、時計塔のある本館がある(下の写真の左)。
東工大建築学科の橘節男教授が設計の中心となって1934年竣工にした本館は、登録有形文化財。時計塔のデザインには谷口吉郎(当時、建築学科助教授)が関与したといわれている。隈氏が時計塔を意識したのは、それもあってのことだろう。
新図書館とつなぐ
隈氏は地下を階段状に掘り込んで新図書館のドライエリアと接続させたことも強調していた。これにはびっくり。言われなければ、図書館の地下スペースも新たにつくったように見える。
どこまでもつながる内部
内部は地上2階から地下2階までが、ほぼワンルームと言ってもいいくらいつながっている。再び設計主旨の引用。
1階は学内に分散していた事務機能を集約した事務エリアと、学生が待ち合わせに使用できるロビー空間、2階はグループ学習エリアとし、すべての階に外部から直接アプローチできるようにしました。特徴を持った4つのフロアーが大きな吹き抜けで繋がり、それぞれの活動が交差し偶発的な出会いや刺激が生まれることを期待します。
こんなにつながっていても、地下1階で行われたミニコンサートはいい音だった。下の写真左側でバイオリンを弾いているのは、なんと東京芸術大学の澤和樹学長だ。
平面が矩形ではないので、イメージがしづらいかもしれない、平面図は東工大のサイトで見ることができる(こちら)。
有名建築が立つ大学キャンパスは珍しくはないが、これほど密集している大学は珍しい。正式オープンしたらぜひ、建築関係者向けの見学ツアーを実施してほしい(できれば桜の時期に…)。
ところで、なぜ東工大に東大出身の隈氏なのか。報道によると、滝氏は東京工業大学のほか、お茶の水女子大学、東京芸術大学の計3校に計50億円の寄付を行った。いずれも留学生と日本人学生の国際交流施設を建設するためで、隈氏が設計し、館内にアート作品を展示することが条件という。母校である東工大には、3校のうち最も多い30億円を寄付したという。すごい寄付額。それは名前もつく…。
東京芸大の施設は進行中だが、お茶の水女子大学の施設は2019年に竣工している。「お茶の水女子大学国際交流留学生プラザ」を見たい方はこちら。(宮沢洋)