妹島館長の推しで実現した「スカイハウス再読」、Y-GSA学生によるピュアな視点に気づき

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 妹島和世「館長」率いる東京都庭園美術館の無料展「ランドスケープをつくる」の第2回「スカイハウス再読」が12月10日から始まった。筋がね入りの菊竹清訓ファン(にわかではない!)としては、誰かが書く前に書かねばと初日に行ってきた。

開口部のグリッドに位置を合わせたわけではないと思うが、外から見てもさまになるスカイハウスの10分の1模型(写真:宮沢洋)
会場は美術館のチケットを買う手前の旧守衛所

 10月28日から12月4日まで行われた第1回展については下記の記事を参照。

妹島和世氏が東京都庭園美術館「館長」として実現した「ランドスケープをつくる」展に大納得

 以下、第2回展の「スカイハウス再読」についての公式サイトでの説明(太字部)。

 テーマ展示の第2回では、12月10日(土)13:00より、横浜国立大学大学院Y-GSAの学生による「スカイハウスの研究」に関する展示を行います。1958年に竣工したスカイハウスは、建築家・菊竹清訓によって設計された、戦後日本を代表する住宅建築です。今回は、1/10の模型を展示するとともに、氏の原風景や伝統的な日本建築からの影響、構造やモジュールといった建築要素等に注目します。

 菊竹氏は早稲田大学出身である。「なぜY-GSAで菊竹さんを?」と、会場で説明してくれた学生に尋ねると、今年度から「名作を再読する」というカリキュラムがY-GSAで始まり、初回のお題として妹島和世氏がスカイハウスを推したのだという。妹島氏は今年の3月までY-GSAの教授だった。置き土産の課題というわけだ。妹島氏にとって菊竹氏は、師匠(伊東豊雄氏)の師匠なので、そのリスペクトには納得がいく。

木製模型は10分の1、背後に見える断面図は5分の1

 10分の1の巨大な木製模型があまりに会場のサイズにぴったりなので、最初からここでの展示を前提につくったのかと思ったらそうではないという。ここで展示すると決まったのが10月に入ってからで、会場に模型が搬入できるのかヒヤヒヤだったそうだ。

 一般向けに展示するという気負いがなかったためだろうか。展示の仕方や説明がシンプルで良い。あまりに有名な住宅なので「論に論を重ねる」ような説明になってしまいそうなところだが、着眼点がピュア。特にこの「構造」の説明パネル↓に「ほおっ」と思った。

 一番上の「HPシェル」という部分が「なるほど」だ。 

 写真のピンが甘いので文章を拾うと、「直線の集合でつくられるHPシェルによって、屋根面がつくられている。方形屋根の場合、四隅に柱が落ち、正方形の対角線に棟が現れるが、HPシェルの場合は四辺の中央が壁柱で支えられ、対辺の中点をつなぐように棟が現れる」。 

2012年に発刊した『菊竹清訓巡礼』(磯達雄との共著)。紙版は絶版で電子書籍のみ。自分で言うのも何だが、これはいい本!

 そんなの当たり前だと思う人もいるかもしれないが、私には新たな気づきだった。冒頭に「筋がね入りの菊竹清訓ファン」と書いたように、菊竹氏には生前、何度も取材したことがあり、スカイハウスにも2度お邪魔させてもらった。

 実際に中に入った印象としては、「居室が空に浮かぶ」ということよりも、「天井が空に浮かぶ」という感覚が強烈だ。低い軒のラインから中心に向かって各面がぐわっと上がっていく。その天井が丸ごと壁から切り離され、浮いて見える。まるで天井が宇宙につながっているような荘厳さだ。これは写真ではなかなか伝わりづらいと思うので、『菊竹清訓巡礼』で描いたイラストを見てほしい。

(イラスト:宮沢洋)

 私は、この上昇感を出したくてHPシェルにしたのだと単純に思っていた。だが、パネルの説明のように、言われてみると方形屋根だったら、壁柱に荷重をかけられない。まさに構造と空間の一致。今までスカイハウスに関する文章を何十と読んできたのに、そんなことに初めて気づいた。

 会場で投影されている西沢立衛氏の解説も、着眼点が面白い。5分ほどの映像の中で何度も「そう見るか!」と思った。つまりは、60年以上たっても、いろいろな発見ができるから名作なのだ。妹島氏が名作解剖の第1回にこれを推したのは、そういう意味なのだろう。

 展示物の数は多くないが、これは「スカイハウス? よく知ってるよ」という人にもお薦めだ。無料だから、すべて知っていたとしても損はない。会期は2023年1月29日まで。(宮沢洋)

【展示詳細】
■名 称 特別展示・テーマ展示「ランドスケープをつくる」第2回「スカイハウス再読」
■会 期 2022年12月10日(土)~2023年1月29日(日)
■時 間 10:00~18:00
■会 場 東京都庭園美術館 正門横スペース
■休館日 毎週月曜日(祝日開館・翌日休館、2022年12月28日~2023年1月4日)
■入場料 無料
■企画展示 横浜国立大学大学院/建築都市スクール Y-GSA