浦辺鎮太郎展@横浜赤レンガ、圧倒的な情報量を面白がるための3つのポイント

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 「建築家 浦辺鎮太郎の仕事 横浜展 都市デザインへの挑戦」が11月14日から、横浜赤レンガ倉庫で始まった。浦辺鎮太郎(1909~91年)は、岡山県倉敷市を拠点として「倉敷国際ホテル」(1963年)や「倉敷アイビースクエア」(1974年)などの代表作を残した建築家で、横浜市内にも複数の建築を設計した。

倉敷アイビースクエア(1974年)(写真:宮沢洋、以下も)
倉敷国際ホテル(1963年)

 会場は横浜赤レンガ倉庫1号館2Fスペース(横浜市中区新港1-1-1、下の写真の右側の建物)。会期は2020年11月14日(土)~12月13日(日)。1カ月間しかない。

会場の一部。点数が多いが、広い会場なので、ゆったり展示されている

 なぜこれほどつくり込まれた展覧会がそんな短い会期なの?と思うかもしれないが、これは昨年開催された倉敷展の巡回展なのだ。

 倉敷展は、2019年が浦辺鎮太郎生誕110周年であることから、倉敷アイビースクエア内のアイビー学館にて2019年10月26日(土)から同12月22日(日)まで開催された。実は筆者(宮沢)は倉敷展も見に行った。

 これもすごい情報量だった。巡回展というと巡回先では内容が縮小されそうなイメージがあるが、本展では横浜のまちづくりへの貢献などについて新たな展示が加わり、パワーアップしている。

 こんなに情報量が多いとかえって頭の引き出しにしまいづらくなりそうなので、勝手に本展の見どころを3つチョイスしてみた。

①なぜ「倉敷の浦辺」が横浜なのか?

 本展が横浜で行われるのは、浦辺が晩年に設計した公共建築が横浜市内に3つあるからだ。竣工年順に言うと「大佛次郎記念館」(1978年)、「横浜開港資料館」(1981年)、「神奈川近代文学館」(1984年)だ。

 なぜ倉敷の浦辺が横浜で公共建築を?と不思議に思っていたのだが、本展の展示を見るとそれが分かる。キーマンは意外にも、丹下健三のブレインだった浅田孝(都市計画家、建築家、1921~90年)だった。詳しくは会場で確認を。

 浦辺が設計した3件を含む横浜近現代建築MAPも展示されている。これは、会場で資料としてもらえるので、そのまま建築散策に行くのもいいだろう。

②模型だけでなく学生のコメントもいい!

 本展に展示されている木製模型は、基本的に全国15の大学の学生たちが制作したものだ。制作に参加したのは五十音順に、大阪市立大学、大阪工業大学、岡山県立大学、岡山理科大学、神奈川大学、関西大学、京都工芸繊維大学、京都大学、神戸芸術工科大学、神戸大学、摂南大学、東京造形大学、日本女子大学、福山大学、和歌山大学だ。学生レベルの模型?と侮るなかれ。どの模型も曲面がきれいに仕上げられていて、かつ細部までつくり込まれており、見入ってしまう。よくこんなのつくれるなあ。

大阪工業大学の学生たちが制作した「黒住教新霊地神道山大教殿」の模型

 加えて、制作した学生のひと言コメントがいい。特に感心したのは、倉敷アイビースクエアの模型を制作した岡山県立大学の学生さんのこれ。

 スクエア側の鋸屋根は頂点部分を下げて、中庭から見えないよう設計されており、何気ない所にもデザインへのこだわりを感じました。

 なるほど、桐島さん、素晴らしい発見! アイビースクエアには何度か行ったことがあったが、広場から見上げてもこの工夫には気づかなかった。模型と実物、見比べてみよう。

 イラストを描くと気づくことがあるのと同じように、模型をつくることで気づくことがあるのだ。これはプロがつくった模型では味わえない共有感だ。

③やっぱりあった村野藤吾愛

 浦辺の建築の造形は、当時の流行とは距離を置いている。時流への反発感が村野藤吾に似ている、とずっと思っていた。2人とも関西拠点。年は浦辺が18歳下。村野に影響を受けていたとしても不思議ではない。だが、これまでそういう言説を読んだことがなかった(私が不勉強なだけかもしれないが)。

 本展の資料をじっくり見ていて、浦辺のこんなセリフを発見。

 村野先生を勉強した中ではぼくは人に負けん。

 浦辺が大阪に出たときに最初に訪ねたのが村野藤吾で、村野に大きく感化され、徹底的に研究したという。そうだったのか! 想像は正しかった。

 浦辺と村野が一緒に写るこんな写真も展示されていた。

右手前が浦辺、左奥が村野
中央が村野、右隣が浦辺、左隣は建築史家の村松貞次郎

 すぐ近くで開催中の「M meets M」展は、「槇文彦が村野藤吾に出会う」の意味だが、こちらの展覧会は「U meets M」の副題をつけてもよさそうだ。

関連記事:新旧横浜市庁舎を題材に「M meets M」展、村野・槇両巨匠のパブリックスペース観を知る


 ということで、膨大な展示物の中から「都市」「デザイン」「人間関係」で1つずつポイントを挙げてみた。

 オンラインシンポジウムなども予定されているので、詳しくは下記へ。(宮沢洋)
https://urabeten.jp