納涼・サンティアゴ・カラトラバ特集②:41歳の出世作「モンジュイック・タワー」は記憶に残る儚さ

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 モンジュイック・タワーは、1992年のバルセロナ五輪に合わせて、モンジュイックの丘に建てられた。シンボル塔であり、スペインの通信事業者テレフォニカの通信塔でもある。

(写真:宮沢洋)

 設計はスペイン・バレンシア出身のサンティアゴ・カラトラバ。「カラトラバ・タワー」と呼ばれることもある。完成時の1992年には、カラトラバは41歳だった。着工した1989年はまだ30代。そんな若手に五輪のシンボルを設計させるって、どこぞの国にも見習ってほしい。

 塔が立つのはバルセロナ五輪の陸上競技で使われたスタジアム(エスタディ・オリンピック・リュイス・コンパニス)のすぐ近く。磯崎新が設計した「パラウ・サン・ジョルディ」の右脇。筆者(宮沢)も、五輪の中継でよく見た記憶がある。スペインではすでに有名だったのだと思うが、他国の人はほとんどがこの塔でカラトラバの名前を知ったのではないか。

スタジアム
パラウ・サン・ジョルディとモンジュイック・タワー。一体の建築に見えるくらいグッドバランス

 塔は136m。見晴らしがいいので目立つ場所ではあるが、136mなんてシンボル塔としては大した高さではない。それでも記憶に残る。実物を見ても、これはなかなかいい。

 その理由はまず、塔なのに垂直でないという意外さ。加えて、構造的にフラジャイル(儚げ)に見えることだろう。

 いろんな方向から見たくなる。あまりそういう塔ってない。

タワーの真下は、分かりやすいピン支持
池の外側に伸びた2本の脚で引っ張る
基部はトランカディス(割れたタイル)張り。スペインの大先輩、ガウディへのオマージュか

 タワーの傾斜は夏至の太陽角度に合わせた日時計として機能するらしい。まあ、それはプレゼンの最後の一押しのためだろう。

一番高い部分はテンセグリティ風
ちなみに上の写真で遠方に見える赤い超高層ビルは、日本の伊東豊雄氏が設計した「トーレス・ポルタ・フィラ」(2010年)のホテル棟。これもガウディへのオマージュ

 あり得ない規模でカラトラバワールドが展開するバルセロナの「芸術科学都市」をリポートした後になんだが、筆者はこっちの方が心を打たれた。

 次回は、南半球に飛び、ブラジルのカラトラバ建築をリポートする。

納涼・サンティアゴ・カラトラバ特集
①:ついに見た、AI画像のようなバレンシア「芸術科学都市」
③:リオの「明日の博物館」に見る“カラトラバ五原則”の吸引力
④:”世界一美しい駅“といわれるNYのオキュラス、でも日本には欲しくない理由