納涼・サンティアゴ・カラトラバ特集③:リオの「明日の博物館」に見る“カラトラバ五原則”の吸引力

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 今回と次回は、2020年2月の旅に遡る。コロナで海外渡航が禁止される直前の旅だ。まずは地球の裏側、ブラジル・リオデジャネイロ。初めてのリオデジャネイロで最初に見た建築が、この「明日の博物館(ムゼウ・ド・アマニャ)」だった。2015年暮れに、リオ五輪開催を控えてオープンした施設だ。

抜けるような青空でなくて申し訳ない。訪れたのは真夏の2月中旬。リオの夏は夕立ちが多い(写真:宮沢洋)

 設計はもちろんサンティアゴ・カラトラバ。カラトラバの建築の特徴は書きやすくて、勝手に「カラトラバ五原則」を挙げるならば、①外からも分かる構造体、②曲線、③細い線材の繰り返し、④キャンチレバー(片持ち構造)、⑤真っ白──の5つだ。AIに条件を入れれば、デザインしてくれそうである。

 「明日の博物館」は五原則のすべてをきれいに満たしたうえで、④のキャンチレバー(片持ち構造)がすさまじい。おそらくAIには、こんな激しいキャンチレバーを提案する勇気はない。

 この建築については、筆者(宮沢)の前職(日経アーキテクチュア)時代に、アラップの方がWEBに完成リポートを書いてくれたので(こちらの記事)、ずっと気になっていた。本シリーズの第1回に書いたように、カラトラバの建築は写真を見ると「実物を見たい!」と思ってしまう強い吸引力を持っている。ブラジルに行ったのはオスカー・ニーマイヤー見たさだったが、この「明日の博物館」もブラジル行きを後押しした要因の1つだった。(オスカー・ニーマイヤーが設計したブラジリアのリポートはこちら
 
 実物を目の前にしても、こんなキャンチレバー、物理的にあり得ないだろう、と首をかしげてしまう。そして、機能のなさにも驚く。キャンチレバーは海側と陸側の両方に張り出していて、陸側はパーゴラ(日よけ)という弱い役割があるといえばあるのだが、海側にいたっては水盤の上なので機能は全くない。視覚的に美しいというだけの片持ちだ。

陸側
海側

 アラップのリポートでは、形の理由についてこう書かれていた(太字部)。

 パイナップル科の植物「アナナス」からインスパイアされた形態だという。

 「アナナス」という聞き慣れない植物はこちら。似てなくはないけど、こんな斜めじゃないぞ。そして、キャンチレバーについてはこう記されている(太字部)。

 金属の屋根のキャンチレバー部分は最長で70mを超える。安全性を担保するために風洞実験を行った。屋根に使われた金属は3800トンにも及んだ。
 
 あ、それだけ? もっと知りたかったなあ。でも、筆者のような構造の素人は、こういう形を見ると「どうやって引っ張っているんだろう」と考えてしまうが、風の力の方がクリティカルなんだというのは勉強になる。

 「明日の博物館(英語名:Museum of Tommorow)」という名前はなんだか宗教チックに思えるが、地球や人類のこれまでと未来のことを学ぶ科学博物館だ。気軽に入れる。まずまずのにぎわいだった。

ここが一番のビューポイント

 次回、カラトラバ特集のラストは、ニューヨークからリポートする。(宮沢洋)

納涼・サンティアゴ・カラトラバ特集
①:ついに見た、AI画像のようなバレンシア「芸術科学都市」
②:41歳の出世作「モンジュイック・タワー」は記憶に残る儚さ
④:”世界一美しい駅“といわれるNYのオキュラス、でも日本には欲しくない理由