住民説明会が開かれた「池袋西口」巨大再開発、地元目線で解説&提案します!─池袋建築巡礼特別編

Pocket

 池袋駅西口地区市街地再開発準備組合と東武鉄道によって計画されている池袋駅西口の大規模な再開発プロジェクトの住民説明会(正式名は「池袋西口地区 都市再生特別地区・改革概要に関する説明会」)が1月10日の夜にあり、池袋を拠点とする(かつ池袋を愛する)メディアの責務として聞きに行ってきた。ところがこの説明会、撮影も録音も禁止。1月16日までは、この日に会場で流された説明動画が見られるが、そのURLさえ「転載はご遠慮ください」と書いてある。

 「えーっ、じゃあ何のための説明会?」と来ていたメディアの人全員が思っただろう。日本経済新聞などはその日のWEBニュースにイメージ図を載せていたが、これは最初から提供してもらっていたのだろうか。とはいえ大新聞と同じことを書いても仕方がないので、BUNGA NETらしく、「画」で解説することにした。

 これ↑が最終形。最短で2043年度の姿だ(フリーハンドなので、高さなどの誤差は大目に見ていただきたい)。この事業の概要を、説明会での発表内容と報道をもとに説明する。

 実は発表されたイメージ図は、あまりに変わり過ぎていてどこから見た絵なのかがとても分かりにくい。池袋在住30年近い筆者にも、どう見ているのか最初はよく分からなかった。なので、フリーハンドではあるが、この記事の方が絶対に分かりやすいとお約束する。

 再開発が予定されている「都市再生特別地区」は、池袋駅西口の東京芸術劇場前からみずき通りまでのエリアに、東武鉄道による「再開発事業区域」を合わせた一帯(下図の赤線部)。対象区域は約6.1ha。現状は屛風状の「東武百貨店 池袋本店」や、「ビックカメラ池袋西口店」「東京都豊島合同庁舎」などの中小ビルがびっしりと建ち並んでいる。

 版権に問題なさそうな街のエリア看板を使わせてもらった。上が東で下が西。「現在位置」と書いてあるところが、旧丸井(解体済み)の前。BUNGAのオフィスはその南側にある。

 エリアはA~Dの4つの街区に細分される。

旧丸井の前(五叉路)から見た現状

 全体で約3万3420㎡の敷地に、総延べ約58万2700㎡の複合施設を段階的に建設する。ちなみに昨年末に開業した麻布台ヒルズの総延べ面積は約86万㎡なので、あれの7割程度の規模と想像してほしい。

 6.1haのうち線路側の1.6ha、東武鉄道の池袋駅や東武百貨店、線路を含む「池袋駅直上西地区」については東武鉄道の個人施行で事業を進める。西側の4.5haを池袋西口地区市街地再開発準備組合で計画する。準備組合の事業協力者には三菱地所、三菱地所レジデンスが参画している。都市計画コンサルタントは三菱地所設計。 

 4つの街区のうち、A~Cの3街区に複合ビルを、D街区には公園を整備する。D街区は東京芸術劇場前のグローバルリングがあるあたりで、大きくは変わらない。

 先に進むのはB、C街区。B街区には事務所、商業、宿泊施設、駅施設、駐車場ほかで構成する地下5階地上50階建て・高さ約270mのビルを建設する。C街区では地下6階地上33階建て・高さ約185mの事務所や商業、宿泊施設、人材育成支援施設、住宅、駐車場などからなる複合ビルを整備する。B街区の宿泊施設には池袋エリア初の外資系ホテルを、C街区ではアート・カルチャーをコンセプトにした宿泊施設を入れる。

上がB街区、下がC街区。C街区のビルは高層部が2つに分かれた形

 B、C街区の間には東京芸術劇場、池袋西口公園グローバルリングに続く第3の劇場空間となる半野外の「大屋根広場」を整備。公園を中心に連続的な歩行者空間を創出する。グローバルリング自体は残す。

グローバルリングから見る。2019年に完成したグローバルリングの設計者は三菱地所設計とランドスケープ・プラス。これってそういう狙いでつくったものだったのか…

 B、C街区は最短で2027年度の解体工事着手を目指す。これが最短で2035年度に完成した後、A街区の解体工事に着手する。

C街区にある「東京都豊島合同庁舎」(1996年)の設計者は故・大江匡氏。これが見られるのもあと4~5年か

B・C街区の完成後に着手されるA街区は…

 仕上げとなるA街区には、事務所、商業・情報発信施設、駐車場などからなる地下4階地上41階建て・高さ約220mのビルを建てる。現状、マクドナルドから中国工商銀行があるあたりの一帯は、解体されて「交通広場」になる。

左側がA街区

 全体では2043年ごろの全体竣工を目指す。約20年後だ。

池袋駅西口地区市街地再開発の概要
◆ 所在地-東京都豊島区西池袋一丁目地内
◆ 特区区域面積-約61,000㎡
◆ 敷地面積-約33,420㎡
◆ 延床面積-約582,700㎡(容積率1,430%)
◆ 着工-2027年度(解体を含む最短のスケジュール)
◆ 竣工-2043年度(最短のスケジュール)

A街区の概要
◆ 階数-地上41階、地下4階
◆ 高さ-約220m
◆ 用途-オフィス、商業、情報発信施設、駐車場 等

B街区の概要
◆ 階数-地上50階、地下5階
◆ 高さ-約270m
◆ 用途-オフィス、商業、宿泊施設、駅施設、駐車場 等

C街区の概要
◆ 階数-地上33階、地下6階
◆ 高さ-約185m
◆ 用途-オフィス、商業、宿泊施設、人材育成支援施設、共同住宅、駐車場 等

D街区の概要
◆ 用途-公園

「ウォーカブル」にしたいならC街区のデザインが重要!

 時間のある方は、筆者の戯れ言にお付き合いいただきたい。

 説明会では何度も「ウォーカブル」という言葉が使われた。「脱・駅袋」というキーワードもあり、そんなふうに言われていることを地元の人間でも知らなかった。駅から人を誘いだし、西口の街を回遊させるという意図なのだろう。それなのに駅隣接で高容積のビルをつくるのは矛盾していると思うが、それはさておき、「ウォーカブル」という点で筆者が強く感じたことがある。

 それは、「歩かせたい割には動線がほとんど変わっていない」ということだ。

 現状の西口駅前の最大の問題は、東京芸術劇場前の広場と、駅前のロータリーが分断されていることだと筆者は思う。両者の回遊性がほぼない。この道↓、たぶん地元の人しか分からない。ロータリー側から芸術劇場方向に行けたとしても、同じ道で戻ってくる人はほぼいない。回遊性0だ。

 このプロジェクトで特に重要なのは、C街区のビルのデザインだと思う。駅に隣接するB街区やA街区の超高層ビルはそれなりのものにはなるのだろう。だが、街の未来を左右するであろうC街区のデザインが、現状のイメージ図を見るととても心配だ。

 せっかく巨大な交通広場を整備するのに、相変わらず東京芸術劇場前広場と交通広場を分断する大きな壁にしか見えない。前述の細道に大屋根広場ができたとしても、方向的に「駅に戻る」だけだ。

 筆者はC街区について3つのやり方があると思う。

 一番良いのは、ここには何も建てずに、その分の容積をB街区やA街区に振り分けること。でも、今さら合意形成が難しいのだろう。

 代案として良いと思うのは、C街区の低層部をごっそり持ち上げて、広場を連続させること↓。

 上のポンチ絵はごく簡単に書いたので、実際には縦シャフトが必要となるが、超高層の下部をスカッと抜くことは、技術的には不可能ではないと思われる。

 それができない場合は、せめて足下にいくつかのトンネルをつくること↓。

 屋内化していない、吹きさらしのトンネルとすることが人を歩かせるためには有効だ。ガラスボックスにすると人は外に出ない。この手法は、昨年見た「福岡大名ガーデンシティ」で採用されており、大きな効果を上げていた。

福岡大名ガーデンシティ。設計:久米設計・醇建築まちづくり研究所JV。超高層の真ん中にトンネル
トンネルを通り抜けると広場

 20年後の全体完成を自分の目で見られるのかは微妙だが、B、C街区の完成はおそらく見ることができそうだ。そのとき、このサイトで「よくやった」と褒められる開発になることを期待している。(宮沢洋)

ロサ会館のある一画の今後についてはこちらの記事↓を。