建築の愛し方04:書店発“ジャケ旅”という新しい建築トラベルの楽しみ方─関口奈央子氏

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「建築の愛し方」の3人目は、東京・神保町の建築書店「南洋堂書店」の店員、関口奈央子さん。建築ツウの彼女がインスタグラムに投稿している“建築書+旅”シリーズについて話を聞いた。宮沢(私)とは10年来の友人で、私が日経アーキテクチュア編集長時代にはWEBで「目利きが薦める名著・近刊」という書評連載もお願いしていた。なので、気楽にインタビューをスタート!

──投稿が70件を超えましたね。70件目は「横浜中央病院(設計:山田守)」ですか。相変わらずシブいチョイス(笑)。第一目標の100件が見えてきましたよ。

(写真:関口奈央子、以下も)

 おかげさまで、100件はなんとかいけそうな気分になってきました。

──100件達成したら宣伝に協力しますと約束していましたが、関口さんの頑張りに応えて、ちょっと早めに取り上げることにしました。この「Archibooks Travel」のインスタ投稿(https://www.instagram.com/nanyodo_bookshop/)は、いつごろ始めたのでしたっけ?

 2018年9月1日が第1回の投稿です。もうすぐ丸2年になります。

──もともと南洋堂書店で、インスタグラムをやっていましたよね。本の表紙を室内で撮るシリーズでした。どうしてこの旅シリーズに切り替えたんですか?

 南洋堂の書棚に本を立てて正面から撮るシリーズ(上の画像参照)を1年間くらいやっていました。南洋堂が扱っている古書の存在を知ってもらおうと、貴重な古書を中心に上げていたんですが、あまり反応がなくて…(笑)。

 旅シリーズのきっかけは、映画の「アメリ」です。アメリの中に、小人の人形を旅先の景色と一緒に撮って主人公のお父さんに送るシーンがあるんです。その影響だろうと思うんですが、人形やぬいぐるみを旅行に持って行って写真に撮るのが一部ではやり始めました。じゃあ、私は建築書を建築の前で撮って回ったらどうだろうと思いつきました。

 始めるときに宮沢さんに話したら、「それ、面白い!」って言ったじゃないですか(笑)。

──えっ、そうでしたっけ。いいこと言ったなあ(笑)。投稿第1回は、カルロ・スカルパの「カステルヴェッキオ」(イタリア)ですね。

 このときは、スイスからイタリアへと回る旅行で、実は最初の写真はスイスでピーター・ズント―(ペーター・ツムトアとも表記される)の「ローマ遺跡シェルター(Shelter for Roman Ruins)」で撮ったのですが、カステルヴェッキオの写真の方が自分には印象的だったので、こっちで始めました。カステルヴェッキオは、とにかく観光客が多くて、人のいない瞬間をずっと待ったんですよ。撮ってたのが出口のそばで、邪魔にならないように気をつけるのも大変でした(笑)

──本は日本から持って行くんですか。

 持っていった本もありますが、ズントーの本は重いので、スイスの友人に借りました。

──投稿してみて反響はどうだったのですか。

 そんなにすぐに反響はなくて、続けているうちにジワジワという感じです。本の表紙を撮っている頃はフォロワーが100人くらいだったと思うのですが、今は700人を超えました。

 ただ、最初のときから、やっている本人は「これ面白い!」と一人で盛り上がっている感じなのは変わらないです。とにかく自分の興味が最優先です。

「写真は撮らない」人だった

──海外で怪しい目で見られても、嫌にならなかった?(笑)

 全然(笑)。実は、私は旅行に行っても写真をほとんど撮らない人だったんです。旅は感じて心に刻むもの、みたいなところがあって(笑)。でも、本と建築をセットで撮るというのをやってみたら、写真を撮るのってなんて面白いんだろうと。

──なるほど。なんとなくいい写真を撮るよりも、目的が明確ですからね。私も、関口さんがこのシリーズの写真を撮る姿を見たことがありますが、呆れるほどこだわって撮っていますよね。この「中銀カプセルタワービル」(設計:黒川紀章)の写真を撮ったのは真冬で、後ろで見ていて寒かった(笑)。

 写真の撮り方を誰にも教わったことがないので、何十枚も撮ってみて、後からいいなと思うものを選んでいます。

 でも、この中銀は、時間のかけ方としては序の口ですよ。

──本を手で持たずに、ミニ三脚みたいな台(ブックスタンド)を使って撮っていますよね。

 どうしても手に持たなければ画面に入らない場合以外は、台に本を立てかけて撮っています。ブックスタンドは、南洋堂でも使っているものです。

──手で持たないところが、書籍への畏敬の念を感じます(笑)。撮影はiPhoneですね。

 はい、かなり古いiPhoneSEという機種なので、新しいのが欲しいんですけど。

──私は今年からiPhone11を使っていて、広角がすごく便利なのですが、どうも写真が説明的になり過ぎる感じがあります。関口さんの写真の「建物が画角に収まらない」感じが、このシリーズにはすごくいいと思いますよ。広角を持ってしまうと、こういう写真は撮れない。


大分市のアートプラザ(設計:磯崎新)
ホキ美術館(設計:日建設計)

「表紙と同じ」が最高レベル

──取り上げる本も含めて、ほかに自分で決めているルールがあれば教えてください。

 本は、建築とのバランスを考えて選びます。あくまで本が主役ですし、本当は設計者の思考・思想がわかるもの、つまりテキストメインの本が理想なんですが、それはインスタ向きじゃないので控えめにして(笑)。インスタ用写真として望ましいのは、本の表紙の建築写真が背景の建築と同じであること。最高レベルは、表紙の写真と背景が全く同じアングルであることです。

──じゃあ、初期の投稿だと、「水戸芸術館」(設計:磯崎新)がそうですね。

 はい、これはテンションが上がりました。

──最近の投稿だと、「千葉県立中央図書館」(設計:大高正人)も全く同じじゃないですか。表紙はシルエットなので、現状との対比がかっこいい。

 ただ、これは高さが微妙に違うんですよ。悔しい…。

──いやいや、こういう形で注目されること自体、天国の大高さんは喜んでいると思いますよ。

次回(宮沢チョイスベスト3、関口チョイスベスト3)に続く。8月25日(火)公開予定。

(イラスト:宮沢洋)

関口 奈央子(せきぐちなおこ)
東京・神保町にある建築専門書店「南洋堂書店」のスタッフ。2020年で勤務16年目になる。「DOCOMOMO Japan News Letter(会報誌)」編集委員。南洋堂書店ウェブ内のコラム「南洋堂日和」で、本と日常を結びつけてつづっている。南洋堂書店ウェブショップはこちら。インスタグラムは、同サイトのカメラマークをクリックするか、こちらから。